過去との決別3
「ごめん・・・」
コトが済んだ後、下着をつけている私に、大翔さんは気まずそうに言ってくる。
その顔は真っ赤に染まっている。
「どうしたの?何であやまるの?」
「だって俺、性欲大魔王みたいじゃない?嫌じゃなかった?」
「ううん、そんなことないよ」
そんな事を気にする大翔さんをかわいく感じた。
そして私に気を使ってくれてるんだろうなぁ…とも思う。
大翔さんは私に腕枕をすると一息つく。
私は大翔さんの腕の中にすっぽりくるまれて、安心感に満たされた。
「空良」
「ん?」
「俺の過去の話をしていいかな?」
「え・・・」
「ビックリしちゃったよね。いきなりでさ。でも空良にちゃんと俺の過去、真帆の事を含めて話したいと思ったんだ、知って欲しいと思ったんだ。いいかな・・・?」
大翔さんが私の目をまっすぐに見据えた。
その目はすごく真剣で、私は少し戸惑う。
だけど私は大きくうなずいた。
大翔さんが安心したように少し笑う。
「俺は、両親っていう存在をあまりよく覚えていないんだ」
「え・・・どういうこと?」
「俺の両親、俺が3歳の時に交通事故で亡くなったんだよ。俺が物心つくか、つかないかの時期だったから、あまり両親っていう存在をあまり感じられなくて・・・」
「ごめんなさい・・・こんなこと聞いて・・・」
「空良ちゃんが謝る事じゃないよ。それに俺が話し出したんだからさ。それでね、両親を一度に失った俺は子供がいなかった父方の叔母夫婦に引き取られたんだ。叔母夫婦は子供が欲しくてできないってわけじゃなくて、2人とも子供が嫌いだったみたい。だから俺を引き取るのも嫌だったみたいなんだ」
たった3歳で一度に両親を失い、自分を引き取るのを嫌がった叔母夫婦の所に行くしかなかった3歳の大翔さんの気持ちを考えると、胸が苦しくなる。
寂しかっただろうし、心細かっただろう。
「叔母たちは俺に無関心だったし、明らかに迷惑そうだった。すごく居心地が悪かった。だけどそんな状況は俺が小学校に入ってから変わり始めてきたんだ。叔母夫婦は自分たちも学歴が高かったせいもあるんだろうけど、俺が学校でいい成績を取るとすごくうれしそうだった。有名大学の付属狙えると言われたんだ。すごく褒めてくれたしね。ご褒美もすごかったよ」
何だかすごく心が寂しくなる家族だな。
うちなんてもっとひどいけど・・・
「俺が生きていくためにはいい成績を取らなくてはいけない・・・と何となく悟ってさ、学生時代は死に物狂いで勉強したよ」
大翔さんの気持ちが何となくわかる。
私は切なくなって、大翔さんの腕にぎゅっとしがみついた。
「そして俺は大学の医学部に入ったんだ。もう医者になろうと決めてた。人を助けたいとかそういう理由じゃなかった。ステイタスみたいなもので選んだんだ」
自虐的に大翔さんが笑った。
「医学部に入ってからも俺は上に上がる事しか考えてなかった。もう何の為に上に上がるかなんて考えてなかった。もう俺の生きる目標というか、生きる為に上に上がろうとしてたんだよ」
「上に上がる・・・?」
「うん。俺は日本の最高峰と言われる京凛大学病院の教授になることしか考えてなかった」
大翔さんはうつむくと、ここで言葉を止めた。
続きを話すのを迷っているかのようだった。
でも大翔さんは何かを覚悟したように、話を再開した。
「その時大学の悪友から、大学内に京凛大学病院の教授の娘がいるって聞いたんだ。俺はその娘に近づいた。その娘の彼氏に・・・というか、婿になれば、教授の道は近くなると思ったんだ」
「・・・・・・!」
大翔さんはゆっくりと私の方を見た。
「それが真帆だったんだ・・・」