さよならの決意6
その時、ふわっとした温かくて心地よいものが私の身体を包んだ。
「え・・・」
その温かいぬくもりが大翔さんだと私はしばらく気づかなかった。
私は思いっきり大翔さんに抱きしめられていた―――
何でいきなり大翔さんに抱きしめられているのだろう。
状況が全く把握できない。
夢でも見てるんだろうか。
こんないい夢なら大歓迎なのだけど。
私はぬくもりが消えないように目を閉じた。
「空良ちゃん・・・、俺は前から空良ちゃんの事を妹としてなんて見てないよ」
強く私を抱きしめながら大翔さんがつぶやくように言った。
“え・・・嘘・・・”
展開の早さに全くついていけない。
「なんで?」
もはや夢と現実の区別がつかなくなった私はそれしか言葉が出なかった。
「なんでって・・・俺は空良ちゃんが妹としてじゃなく、女として好きだから・・・」
「嘘!」
「嘘じゃないよ。たぶんチャットで見かけたときから、空良ちゃんの事が好きだったんだと思う」
大翔さんは私を抱きしめる腕に力をこめた。
「俺、必死に我慢したんだよ。必死に気持ち抑えようって・・・兄貴じゃ我慢できないのは俺の方だっていうの!」
「嘘・・・」
「この期に及んで嘘言ってどうするの!空良ちゃんがあんな事言うから、俺の結界破れちゃったじゃん」
私は大翔さんの身体を両手でぐっと押しやった。
大翔さんがビックリした顔で私を見る。
私は大翔さんの顔を見据えた。
ごまかされてる、嘘をつかれてる、そう思った。
「嘘!絶対嘘だ!!だって、私にいろいろ過去とか話してくれなかった・・・」
「嘘じゃないって!!だいたい言えるわけないよ。絶対空良ちゃん、誤解すると思ったし。それに空良ちゃんはDVとかで傷ついてると思ったから、俺の過去とか話して、空良ちゃんに重荷を背負わせたくなかったんだよ」
大翔さんは恥ずかしそうに言った。
顔は真っ赤に染まっている。
大翔るさんの優しさや気遣いは痛いほどにわかった。
だけど私はやっぱり寂しかった。
「私は大翔さんの過去とかつらいこと聞きたいよ!好きな人の重荷は背負いたいもん!」
又、涙がボロボロ出てくる。
大翔さんに私を頼って欲しかった。
私を必要として欲しかった。