さよならの決意4
駅から少し離れた人通りの少ない道路に私と大翔さんは2人残された。
冷たい風が吹きぬけていく。
大翔さんが怒った顔で、私をまっすぐに見つめている。
その視線に耐え切れなくて、私はうつむいた。
「空良ちゃん、どういうこと・・・?いきなり荷物まとめて出ていって・・・心配したんだぞ。何か理由があるんじゃないの?説明してよ」
「・・・・・・」
「空良ちゃん!!説明しろ!!」
怒りを我慢できなくなったのか大翔さんが怒鳴った。
体がびくっと震えた。
私はおそるおそるうつむいていた顔を上げた。
「今日夕方うちに真帆さんが来たの」
「・・・え?」
「それで大翔さんの過去を全部聞いた。医者だったときのこととか・・・」
大翔さんは怒りも忘れて、驚いている様子だった。
「DVを受けた政治家の息子の奥さんの話も聞いたよ。大翔さんが医者を辞めても仕方ないと思った」
「そっか・・・」
「でも真帆さん言ってたよ。大翔さんは医者の才能があるって。大翔さんの治療でたくさんの人が助かるって」
「・・・・・・」
「私もそれなら大翔さんは医者を続けた方がいいんじゃないかって思った・・・」
大翔さんはうつむいていた顔を上げた。
その顔は怒ってるような、泣きそうな、苦しみに満ちた顔だった。
「何にも知らないくせに勝手な事言うなよ!!俺だってすごく悩んで決めたんだ!今だって医者の時の夢を見る。俺は今もずっと迷ってて、前に進めてないんだよ!!」
「そうだよ!どうせ私は何も知らないよ!どうせ関係ない部外者だもん!!大学病院に勤めてた事だって知らなかったよ!!どうせ部外者だから、私に何も話してくれなかったんでしょ??」
私も感情を止められなかった。
言葉が止まらない。
考えるより先に口からどんどん言葉が流れ出て行く。
「大翔さんは私をDVの政治家の息子妻さんに重ねてみてたんだよ!だから私の事を守ってくれても、自分の事は全部一人で抱えて、私には少しも背負わせてくれなかったじゃない!!」
「空良ちゃん、それは違う・・・」
「違くない!!!」
大翔さんの言葉をさえぎって、私は自分の感情を大翔さんにぶつけ続ける。
「・・・私に同情してるだけなんでしょ?両親から虐待受けて、彼氏からDVされて・・・かわいそうだよねって・・・」
気づくと、私の目からボロボロ涙がこぼれてきていた。
感情と一緒で涙も止まらない。
私はその涙を袖でゴシゴシぬぐった。
大翔さんは黙って、私の感情をぶつけられていた。
顔はうつむいてて見えない。
でも怒っているんだろうとは思う。
「でも、私はもうDV彼氏から逃げられた。以前よりは元気になったと思う。だからもう大翔さんの所にいる理由がないじゃない・・・私は大翔さんには何の関係もない人間なんだし。私は大翔さんに支えてもらうばっかりで支えられないもん・・・」
声がしゃくりあげてしまって、うまくしゃべれない。
両袖でゴシゴシ涙をぬぐっても次々に涙は出てくる。
そんな自分が情けなくて仕方ない。
大翔さんにやつ当たりみたいに感情をぶつけて、私は小さい子供といっしょだ。
さっきより風が強くなってきた。
強い風が私と大翔さんに思いっきり吹き付ける。
大翔さんはふっと息をつく。
表情はすっかり落ち着きを取り戻したようだ。
「空良ちゃん」
「・・・・・・」
「俺言ったよね。俺が兄貴になってやるって。俺ずっと空良ちゃんを妹として守っていけたらと思ってたよ」
「でも私は妹じゃないじゃん!!」
私は大翔さんの顔を見据えた。
妹、妹・・・ってもう止めてよ!
この言葉が世界一嫌いになりそうだった。
「空良ちゃん・・・俺の事が嫌い・・・?」
「そうじゃないよ!妹が嫌なの!!妹みたいに守ってもらうだけ・・・そんなの嫌なの!!
真帆さんみたいな人だったら大翔さんも頼るし、好きになるんでしょ?
妹なんて嫌!妹なんて言わないで!私を妹として見ないでよ!!」
もう絶叫に近かった。
私は子供みたいにワアワア声を出して泣いた。