大翔さんの過去6
その後もしばらく私はその場から動けず、座り込んでいた。
体を動かなかったが、頭の中ではさっき真帆さんから言われた大翔さんの過去がグルグル回っていた。
大翔さんの過去が改めて、心にズシンと重くのしかかる。
DVを受けた政治家の息子の妻さん、つらいだろうな・・・
そしてその不正を告発できなかった大翔さんもつらかっただろう。
そのうえ、唯一心の支えであって欲しかった真帆さんまで一緒になって大翔さんの味方をしなかったなんて・・・
大翔さんの気持ちを考えると、くやしくて私まで涙が出そうになる。
でも真帆さんの言う事には一理ある。
大翔さんの医者としての腕だ。
大翔さんの治療で助かる人もたくさんいるのかもしれない。
そう考えると、医師に戻った方がいいんじゃないか・・・とも思う。
すると、大翔さんはもっと病院内の汚い事や不正(真帆さんは大人の事情と言いそうだけど・・・)を見なきゃいけないだろう。
下手をすればそこに染まってしまうかもしれない・・・
そんな大翔さんは見たくないよ。
変わって欲しくない。
いつまでもお節介で、優しくて、あたたかい大翔さんでいて欲しい。
こんな事思うのって自分勝手かな・・・
私がこんな風に思う資格ってないのかもしれない。
だって今の私って大翔さんにとって何なんだろう・・・
迷惑をかけるだけの存在。
守ってもらうだけの存在。
重荷・・・かもしれない。
でもそれって、迷惑だよね・・・
足引っ張るだけの邪魔な存在じゃない。
私はもういい加減に大翔さんの元から出ていくべきなんじゃないか―――
もう十分大翔さんにはいろいろしてもらった。
本当はもっと早く出て行くべきだったのかもしれない。
わかってた。
わかってはいたけど・・・
大翔さんのあたたかさ、そして側にいることの居心地の良さについ甘えてしまった。
それに自分の気持ちにも気づいてしまった。
好きな人の側にいたいって、そう思ってしまった。
だけど、私は段々欲が出てきた。
真帆さんにさっき言われた言葉にショックを受けてしまったんだ。
私をDVを受けた政治家の息子の妻さんと重ねて見てる―――
初めは自分が大翔さんの事が好きだったら、相手が自分をどう思っているのかなんてどうでもいい。
ただ一緒にいられるだけでいいと思ってた。
だけど、人間って欲張りだ。
どんどん欲が出てくる。
どんな人であれ、誰かと私を重ねて見て欲しくない。
これからもずっと一緒にいたら、私はどんどん欲張りになるだろう・・・
そしてますます迷惑をかけて、大翔さんの重荷になっていく・・・
そんなの嫌だ・・・
ずっとずっと、それがダメならもう少しだけでも大翔さんの側にいたいけど、これ以上一緒にいたら、もっと別れるのがつらくなる。
今以上に心に深い傷を残すことになる・・・
私は床に落とした天使のぬいぐるみを拾い上げて、ギュっと抱きしめた。
つらい・・・
どんなに考えを張り巡らしてみても、結局私はもうここにいるべきじゃないのかもしれない・・・っていう結論にしかたどり着かない。