大翔さんの過去2
「すみません。今大翔さんはいません」
私はインターフォンのマイクごしに真帆さんに言った。
真帆さんは大翔さんに昨日の話の続きをしにきたのだろうと思った。
「ううん、いいの。今日は大翔じゃなくてあなたに用があるの」
真帆さんはカメラごしに、私の顔が見えているかのように、まっすぐに見据えて言った。
そのまっすぐな瞳にたじろぎながらも、私は真帆さんの話を聞こうとすぐに覚悟した。
真帆さんの口からでも、大翔さんの昨日の事が詳しく聞けるかもしれない。
私は玄関まで行って、ゆっくりドアを開ける。
「どうぞ」
真帆さんは無言で中に入ってくる。
リビングに入ると、真帆さんは昨日座った位置と同じところに座った。
私はお茶を入れると、真帆さんの前の机に置いた。
そして私はテーブルをはさんで、真帆さんの前に腰を下ろした。
それが合図のように真帆さんはうつむいていた顔を上げた。
「急にお邪魔してごめんなさいね」
「いえ・・・」
「あなたは大翔の彼女なの?」
「ち、違います」
真帆さんは再びうつむいた。
黒髪がサラサラと揺れる。
何を言うべきか考えている感じだ。
「ねぇ、昔、大翔が医者だったっていうのは知ってる?」
「はい。以前聞いたことがあります」
確か私がタカの所から怪我をしながらも逃げてきた時に、大翔さんが傷の手当をしてくれている時そう言っていた。
包帯を巻くのがすごく慣れている様子だったから、納得したっけ。
「大翔は京凛大学病院の医師だったのよ」
「・・・・・!」
驚きで一瞬声が出なくなった・・・
京凛大学病院。
誰でもその名を知ってるほどの有名な大学病院。
医者の腕も一流。
芸能人や政治家のご用達でもある病院だ。
特に外科の腕が一流らしいと聞いたことがある。
「・・・それは初めて聞きました」
「そうなの・・・」
「じゃ、真帆さんも京凛大学病院の医師ってことですか?」
「そうよ・・・というか、大翔が京凛に勤められるように働きかけたのは私なのよ。私の父が京凛大学病院の教授なの」
私はビックリして、目を見開いた。
「大翔とは大学の医学部のサークルで知り合ったの。大翔は大学の頃から優秀だったわ。だからうちの父も喜んで大翔が京凛に勤められるように推薦してくれたわ」
今まで知らなかった大翔さんの過去がどんどん明らかになっていく。
「私たちは大学3年からずっとつきあってた。京凛に2人で勤め始めて、1年で婚約したわ。大翔は優秀だったし、父も大賛成だった。全ては順調だったわ。あの時までは・・・」
あの時・・・?
たぶんこれが一番大翔さんが触れられたくない過去の出来事なんだろう・・・
私の心臓はバクバク早く動き出す。