波乱の幕開け3
真帆さんは玄関で靴を脱いで上がると、当然のようにリビングに向かい、ソファーの上に腰を下ろした。
真帆さんは、何回もここに来てるんだ・・・って思った。
もしかして彼女さんだったりするのだろうか。
何だか真帆さんの一つ一つの行動が無性に気になってしまう。
大翔さんは冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを出すと、コップにトポトポついて、真帆さんに渡す。
「それでどうしたの、今日は?」
大翔さんが真帆さんの前に座って聞く。
「この間の話は考えてくれた??」
真帆さんが大翔さんの顔をまっすぐみすえて聞く。
“この間の話・・・?”
私は当然わからない。
「真帆、それは俺は何度も何度も断ってるはずだ」
「それがわからない!お父様だってそれを望んでいるのに!その為だったら、いくらでも力を貸すって言っているのよ」
「ごめん・・・教授にもその件は真帆から改めて断っておいてくれないか?もう俺はあそこには関係のない人間だしな」
「わからないわ!!あなたの実力はみんなにとって必要なものなの!!」
「もう俺は戻る気はない・・・」
真帆さんの口調がヒートアップしていく。
それと反対に、大翔さんは冷静にあくまで自分の意見を変えようとしない。
「わかったわ。今日はとりあえず帰るわ。でも私は絶対に諦めない!!あなたがYESというまでね」
真帆さんはそう言ってカバンをつかむと、部屋を出ていった。
パタンという玄関のドアが閉まる音が聞こえる。
大翔さんは何かに必死に悩んでる様子で微動だにしない。
私は何か話しかけようかと頭の中で言葉を探っていた。
そんな様子に気づいた大翔さんは、
「空良ちゃん、ごめんね、お騒がせしちゃって・・・」
と無理に作ったような笑顔で言った。
「いえ・・・」
「真帆は医者だった時の先輩だったんだ。ちょっといろいろあってさ。本当にお騒がせしてごめんね」
真帆さんもお医者さんだったんだ・・・
しかも同僚。
確かに真帆さんのあの雰囲気はお医者さんって感じはする。
でも「お父様」「教授」という言葉が真帆さんの口から出たけど、一体何の事なんだろう。
何よりすごく大翔さんが苦しんでそうな、悩んでいそうな様子だった。
それは真帆さんの存在やさっきの言葉が重要だということを物語っていた。
私が口を開けかけた時、
「空良ちゃん、ごめん。俺もう疲れちゃったから、もう寝るわ」
そう言って、大翔さんはリビングを出て行った。
部屋のドアを閉めるパタンという音が、大翔さんの心のドアを閉める音に聞こえた。