デート5
airさんはゆっくりと人通りが少ないところにひっそりとあったベンチまで私を誘導した。
私は涙が止まらなかった。
天使の人形は私の手に強く握られたままだ。
「大丈夫?」
私の肩を抱いて、ベンチに座らせると心配そうに私の顔をのぞきこんでairさんは言った。
私はこっくりとうなずく。
まだ涙は止まっていなかったけど・・・
airさんは何と切り出すか迷ってるようだった。
言葉を選んでいる。
だから私は自分からちゃんと言おうと思った。
「airさん」
「ん?」
「私は天使なんかじゃないんだよ。私は汚い・・・」
「なんでそんなこと言うの??」
もう私の口は止まらなかった。
全て包み欠かさず話す。
義父の事。
義父の虐待をわかっていながら無視した母親の事。
その義父から一文なしで逃げ出したこと。
お金を稼ぐ為に援助交際をしたこと。
話しながらも何度も言葉につまる。
そのたびにairさんは私の肩をポンポンと軽くあやすように叩く。
それはまるでairさんが“安心していいよ”と言ってるようだった。
自分でも何でこんな事をairさんに話しているのかわからない。
できれば隠しておきたかった。
この事を話したのはタカくらい。
しかもタカに話したのも、知り合ってしばらくたってからだ。
知り合ってすぐのairさんに何でこの事を話しているのだろう?
でも聞いて欲しいと思った。
airさんに話したいと思ったんだ。
私は自分の過去を全て話し終わって、黙り込んだ。
勢いに乗って全部話したけど、どう考えても引かれる話だということに、はたと気づいたのだ。
怖くて怖くて、airさんの顔が見られなかった。
もしairさんが少しでも軽蔑の表情を浮かべていたら、もう私は立ち直れないかもしれない・・・
「正直ビックリしたかな・・・」
airさんが小さい声でつぶやくように言った。
その言葉に私はうなだれる。
軽蔑された?
汚いと思われた?
だけどairさんの反応は予想とは反対のものだった。
「くうちゃんがそんなに重い過去を背負ってるなんて、びっくりした。でもあの寂しそうな笑顔はそのせいだったんだと納得もしたよ」
「・・・・・・」
「でもさ、くうちゃんを虐待したのはくうちゃんが悪いわけじゃないじゃない。悪いのはお養父さんなわけでしょ。それに一番悪いのは実のお母さんだと思う。女はね、母親になったら女であるべきよりもやっぱり母親であるべきだと思うんだ。それなのに子供より男を取ったんだからさ。本当ならそんな男をぶん殴ってでも、くぅちゃんをかばって助けるべきだと思うよ。離婚すべきだとさえ俺は思う。
くうちゃんも実のお母さんの態度に一番ショックを受けたんじゃない??」
その通りだった。
ひどいことをされても私を助けるどころか、私にやきもちをやいてた母。
“私は愛されてない。ここにいる価値が無い”
そう思った。
それが一番ショックだった。
私の目から再び涙があふれる。
天使のぬいぐるみにポタポタと涙が雨のように落ちた。
過去を思い出してくやしくて悲しいという気持ちもあったけど、私の気持ちをairさんがわかってくれたという安堵の思いも強かった。
「援助交際をしたのも悪い事だとは思う。でもこんなことがあったら理性が飛ぶのも仕方ないよ。何よりくうちゃんは生きる為にそういうことをしたんだ。問題はこれからだよ。過去をふっきって、幸せになるためにがんばらないと。いつまでも過去にとらわれてたら幸せになんて絶対なれない!」
「・・・私でも幸せになれるの・・・?」
こんな私でも幸せになれると信じていいのかな?
未来があるって思っていいのかな?
airさんは笑って、そして力強く言った。
「当たり前!!むしろならないのがおかしい!!」
何ていい言葉なんだろう・・・