逃げる勇気5
パソコンの画面にはアザだらけで、髪の毛もボサボサな見るからにやばい私の様子が映し出されているだろう・・・
お客の男性はこの姿を見て、すぐ画面を消すだろうと思う。
でも、もしairさん・・・この画面を見てたら私を助けて欲しい・・・
顔も知らないし、本名すら知らない、会ったこともないけど、私には他に助けを求められる相手がいない。
airさんしか、助けを求められないんだ。
助けて。
助けて。
助けて。
私は呪文のように「助けて」と唱えた。
すごくairさんを求めていた。
airさんにSOSを出したんだ。
airさんだけにSOSを出したんだよ。
それから10分以上たっただろうか―――
私のチャットルームには、入室のチャイムは全く鳴らない。
“助けて”
airさんだけに発したメッセージ。
airさんはパソコンに今向かっていないかもしれない。
向かっていたとしても「もう2度と来ない」と言ったので来ないかもしれない。
ましてはこんなやばい状況の女を、顔も知らない相手が助けてくれるわけないよね・・・
こういう考えが、グルグル頭の中を回ってめまいがする。
来るわけがない・・・
当たり前か・・・
わかってはいたけど、私はもうつらくてつらくてたまらなくなって、膝に顔をうずめた。
私の両目から大量の涙がボタボタ溢れた。
その時、パソコンの画面から、
「くうちゃん・・・?」
私のハンドルネームを呼ぶ声がした。
「え・・・?」
私はビックリして顔を上げる。
パソコンの画面は待機画面ではなくて、《チャット中》の画面になっていた。
入室のチャイム音は、今の私には聞こえてなかったらしい。
「くうちゃん」
再び私を呼ぶ声がする。
すごく優しくて落ち着いている、だけど私を心底心配してる声だった。