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2章2話

――――――――――――――――――――――

昇天歴285年 宇宙標準暦でドラゴンの月

5日 28時52分

役職:船長補佐

種族:デーモン

氏名:ラヴィーネ・モナ

『英雄ハセガワ・ダイトの素顔』より抜粋


「はぁ? ヤダよそんなの。

 パイロットなんて、

 やりたくないに決まってるだろ。」


私の同居人、かつ、W・モービル操縦経験者。

機動防衛隊が喉から手が出るほど欲している

パイロット候補としての私の心当たり。

エルマール・ガブリエルは、

そのモデル並に整った童顔を

心底嫌そうに歪めて、そう言い放った。

…寝そべって、携帯ゲーム機を手に持ちながら。


「エル、一大事なの。協力してよ。

 あなた、士官学校では主席だったじゃない。」


「あー、そんなこともあったな。」


エルは、怠惰から手入れが滞り気味な癖に、

なぜか妬ましいまでにさらさらの

白金色の髪を、わしわしと、かきむしると

少し居心地の悪そうな顔をした。


「学生時代のあなたは、品行方正で……

 操縦の腕も教官のお墨付きだったし……」


「はぁー、懐かしい話

 引っ張り出してくるなぁ」


「それでね。機動防衛隊には、今

 正規訓練を受けたパイロットが必要なの」


めんどくさっと、言う小声が聞こえた。

でも私は、聞こえなかったことにしてあげて、

ニコニコとした笑顔を浮かべ続ける。

忍耐力……忍耐力……。


そんな私を横目で見ながら、

寝っ転がったベットの上で、

足を数回パタパタばたつかせると

エルはゲーム機を持たない手で

サラリと髪をかきあげて、

うんざりした口調で言った。


「そー、飛び級で主席、

 才気溢れる美少女の私に、

 モラハラしてやめさせたのが、

 ラヴィの属する機動防衛隊だろ?」


「そ、そうだけど……。

 それもほら、もう昔のことだし……」


まぁ、こう。めんどくさい奴なのである。


「ここではそういうの、ないのよ。

 軍人風吹かせてる人なんていないし

 大半が民間人の協力者で成り立ってるの。」


「へぇー」


興味ない、と言った感じ。

…ゲームしながら会話なんて器用なものね?


「あなたの知ってる機動防衛隊じゃないわ。

 それに、パイロットは3人だけ!

 私と、ハセガワ船長と、もう一人も

 良いエルフだから、すぐ仲良くなるわよ!」


「……仮にそうだったとして。」


やれやれ、

といった風にエルマールは

こちらを見もせずぷらぷらと手を振った。


「本星の連中がこの星に到着したら

 どうなるんだ?」


「え?」


「だからさ、

 この非常事態が収束したら?

 今は入植船が爆発して、

 てんやわんやの状態だけど

 いずれは秩序も回復するだろ?」


「そりゃぁ……

 そうじゃなきゃ困るわよ。」


「ラヴィの部隊はどうなる?

 入植星の正規軍に

 組み込まれるはずだ。

 その時、私はどうなる?

 入隊を強制されるだろ?」


「な、なに言ってるのよ。

 そんなの、わからないし

 ずっと先の話でしょ?

 私が言ってるのは……」


「軍の運用するW・モービルの情報は

 保安に直結する機密事項だ。

 当たり前だよな?

 もともとW・モービルは、

 野生動物くんだりを駆除するための

 安っぽいものじゃない。

 犯罪者やテロリストたちから

 治安を守るための戦闘兵器だ。

 そのパイロットになった私を

 今までありがとう、はいさようならで

 軍が解放してくれるはずないだろ?」

 

「……。

 それは……

 そう、かもしれないけど…。」


「軍っていうのはそういうものだし、

 そうあるべきだ。

 一般市民であり続けたいこの私には

 都合の悪いことだけどね。

 できることならば、

 ラヴィの力になってあげたいってのは

 私の本心だよ。けど無理だね。」


「でも、でも、エル!

 そんなことを

 言っている場合じゃ……!」


「それに、植民星の統治部隊なんて、

 絵に描いたような悪者じゃんか。

 体育会系のクソ組織にしごかれて

 無辜なひとびとを弾圧する日々……

 あーやだやだ、絶対にお断りだね。」


「………」


[[ ピコピコ、ピコピコ。ドーゥゥ。]]


エルの手に握られたゲーム機から

電子音が響き渡った。

ゲームに没頭している彼女は、

さっきから、一度も私の方に

まともに視線を向けていない。


「エルっ!!

 ゲームしてないで、

 ちょっとは真面目に話を聞いてよ!?

 大事なことなんだからっ!!」


接待スマイルを保つ余裕を失って

ついに声を荒げてしまった。


「はぁ~~、あのなぁ、ラヴィ。

 私はさっきから、

 至ってまじめに言ってるんだよ。」


「だったら、こっちを見なさいってば!

 一度、ゲーム機を置いて……」


「……はぁ、だいたいね

 モラハラされた、だなんて

 辞めるための口実でしかなかったの。

 私はもともと、最初から

 軍隊に入る気なんてなかったんだ。」


「そんなの知ってるけど…。」


口癖のように、いつも言ってるからね?


「……で、私がこの移民団に

 応募した理由は、

 うるさい家の連中たちが

 干渉してこない遠い世界で

 徹底的にサボりながら、

 ラクで楽しい新しい人生を始めて、

 生きていこうって決めたからなんだ。」


そこで、エルマールは

ようやくゲームの画面から目を離し、

顔をこちらに向けて言い放った。


「人々への奉仕…?

 クソ食らえだっ!

 私は、名前も知らない

 『人々』なんてもののために

 辛い労苦を背負ったり、絶対にしない!

 ラヴィに一生養ってもらいながら、

 ダラダラと生きていくんだ!

 私は、そのためにラヴィと

 この新天地にやってきたんだよ!」


その目は真剣そのものだった。


「……ク、クソ食らえはないでしょ!?

 仮にも 天使の身の上で!」


「あー、はいはい。

 そうそう、私は天使だったな。

 私マジ天使。」


エルは諫められても悪びれた様子もなく、

のそのそとベットから起きて端に座ると

重ねた両手を膝の上に乗せ、足を斜めに揃え

態度を豹変させ、しとやかな口調で言った。


「……誠に申し訳ございません、ラヴィーネさん。

 私は天使ですけれど、

 世間の人々なんて赤の他人のために

 身を粉にして、働くつもりなど

 さらさらないのです。 

 そんなことより冷蔵庫からコーラを

 とっていただけませんか?」


エルは完璧な外面スマイルを浮かべると、

しゃなりとした仕草で手を差し出してきた。

もちろんそれは、

私に向けられた助力の手ではなく、

冷蔵庫のコーラを求める手であった。


「エルマール!!!」


「あははは!冗談だって、

 そんなに怒るなよラヴィ。

 怒ってばっかりだと

 そのうち悪魔の角の代わりに

 鬼の角が生えてくるぞ。」


けらけらと笑いながら

のそのそとまた寝そべって、

ゲーム機に視線を戻すエル。


こっ、このっ……!

くっ……。このひねくれものを

説得するのは容易ではないと

覚悟はしていたが、ここまでとは……!


「すぅー…はぁー…」


私は一度落ち着くために深呼吸をした。


「……あのね。エル。

 別に、入隊してほしい訳じゃないのよ?

 もう、ホント、

 他のパイロットが見つかるまでの

 短い間だけでも、機体に乗ってくれれば」


「おっ、部外者への軍事機密漏洩や

 運用データの改ざん、隠蔽は、

 軍法会議もので最悪銃殺刑だけど

 大丈夫か~?」


「……じゃ、じゃあ、まずは、

 見学だけでもどう?

 W・モービルに乗らなくても、

 手伝えること、たくさんあるのよ。

 士官学校出の人が居てくれるだけで

 もう、みんな、大助かりで。」


「あ、いいっす」


「……どうせ、暇してるんでしょ!?

 入植船の爆発事故で、

 艦内ネットワークがなくなって!

 あなたの大大大好きなネットゲームも

 できなくなったじゃない!?」


「あー、大丈夫大丈夫。

 どうせ、地表降りたら当分

 ネットワークは不通になるだろうと

 予測して、ちゃーんと

 無限に遊べるオフラインゲームを

 大量に落としてあるから。

 知ってるだろ?優秀なんだよ、私。」


「で、でも……。一人で部屋にこもって

 ゲームなんかしてても……。

 仕方ないでしょ!?

 ねぇ、本当にわかってる!?

 今の状況!!

 あなたが、手伝ってくれるだけで、

 みんなが大助かりで……。」


「いやー、興味ない。

 さっきも言ったけど、みんなのためとか

 そういうの、おなかいっぱいだから。

 ごめんねー。」


「……じゃ、じゃあ、

 私のためだとしたら……?

 ……それでも、どうしてもダメ?」


「んー……。ラヴィのためかぁ……。」


エルは、腕を組んで

考え込む仕草をして見せたが

それも十秒と続かなかった。


「うーん、あ、やっぱダメだ。

 働くくらいなら、

 死んだ方がマシだったわ!」


こっ……

このダメ天使……!!


「どうしてよっ!!?

 私が、こんなに頼んでもダメなの!?」


「怒ってもダメだぞ。

 私には関係ないことだろ?

 みんなを守るのは、軍人さんのお仕事。

 頑張ってねー。」


「っ……!」


なんなのよ!ほかでもない私が

こんなに必死になって説得してるのに……!

真面目に話すら聞こうとしないなんて……。

エルにとって、わたしって……


「………」


情けない……。

一体、何に対してなのか自分でも分からない。

しかし、とてつもない無力感に、

涙がこみあげて、視界がぼやけてきた。


「……じゃあっ!!!!!

 勝手にしなさいよっっ!!!」


「うおっ……」


気づくと、私は大声をあげていた。


「私が、この星の化物に襲われて

 食い殺されても、

 そうやって、へらへらしてればいいんだわ!

 この避難艇が危険な原生生物に囲まれて、

 みんなの命が危険な状態になっても……

 うぅん、そうよ、そうよね!?

 きっと……関係ないわよね!?

 あなたは、要領がいいから!!

 一人になっても、どーにでも、

 生きていけるんでしょうねっ!」


「お、おい……。ラヴィ。

 怒鳴り散らすなんて、らしくない……

 落ち着けよ……」


「みんなが死んでしまってもっ!!!

 あなたは意にも介さず

 そうやって、ピコピコピコピコ、

 ゲームばっかやってればいいのよ!」


私が感情的になって、

一気にまくし立てるのを

エルマールはぽかんとした表情で

固まって眺めていた。


「な、なにも泣くことないじゃんか

 ラヴィ。今の状況って、

 そんなにまずいことになってるのか?

 いや、私も知らなかったからさ……」


「知らなくていいわよ!!!

 エルには関係のないことなんでしょ!?

 ぐすっ……。

 じゃあねっ!私、もう行くわね!

 エルと違って、私は軍人で、

 みんなの命に責任がある立場だから、

 寝てる暇なんてないもの!

 精々、死ぬまで馬車馬のごとく働くわよ!!」


「え、ちょっ…!まてよっ! ラヴィ!

 もう夜だぞ!?」


私は駆け出して、部屋を出た。

こんな見た目だけのダメ天使に

何かを期待したのが間違いだった…!


――――――――――――――――――――――

昇天歴285年 宇宙標準暦でグリフォンの月

3日 15時68分

役職:機動防衛隊 少尉

種族:エンジェル

氏名:ヒイロ クレメンス

自伝

『還えるべき星を殺した人々の翼』

より抜粋


「あんたたちー!お肉取ってきたわよー!」


[[ ザザザッ バキッ メキメキベキッ ]]


[[ ギャァギャァ ピーヨッ ピーヨッ ]]

[[ キュロロロロッ ウキィウキィ ]]


ケダモノ達の声に混じって

密林の中から聞きなれた声が聞こえてきた。

胡桃沢の『 デモゴルゴン 』が、

食料採集の任務から帰還したのだ。


その姿を認めると『 トゥルーハート 』に搭乗し

上空で見張り任務についていたラファエルが

広場へ降りてきて、彼女に声をかけた。


「えっ…!?お肉!?

 胡桃沢さん、もしかして、お肉だけですか?

 野菜は……!?

 それでは栄養のバランスが……」


「なっ!? あんた、なにっ!?

 なにっ、そんな贅沢言ってんのっ!?」


『 デモゴルゴン 』は凶悪な鉤爪の付いた

両手をワタワタさせると、

次に、片手(片爪か?)を腰に当てて、

浮遊する『 トゥルーハート 』を

指さして怒った。


「あのねぇ!

 私たち、遭難してるのよー!?

 そうなんーー!!!」


人型機動兵器の外部拡声器から発せられた

彼女の大声は、コダマとなって

異星の密林を切り開きこしらえた

即席簡易キャンプに響き渡った。


胡桃沢は、『 遭難 』と言ったが、

それは、いささか正確さを欠く表現だ。


我々は現在位置を見失って、

還るべき場所に

戻れなくなっているわけではない。

拠点である『 ドワーブンセトラー 』が

惑星重力圏で爆散して、

還るべき場所そのものを失っただけだ。


爆散する現場を、間近で目撃した後、

宇宙デブリから逃れるため、

地表に降下し、

その後、目的が定まらず、ジャングルで

いたずらに時を過ごしている。

……ただそれだけのことだ。


「ヘー、そうなんデスかー。

 エヘヘ、なんつってー」


「………。」

「………。」


………。

カレンのくだらないジョークに

一同が静まり返る。


「……あ、あ、

 ……ヒ、ヒイロさ……」


すがるようにこちらを見るカレン。

俺は思わず目をそらしてしまう。


「………。」


「ガーン!」


「わ、私は

 面白いと思ったぞー。カレン~!」


「うわーん!

 さすがヨーコ優しいでぇすっ!」


モリクマは、W・モービルから降りて

焚火の番とともに

カレンの監視を任されていた。

監視と言っても拘束などはしていない。

未開惑星に逃亡先などあるべくもないからだ。

広場で二人仲良く、火を取り囲んでいる。


「ちょっと、あんたたち!

 なに仲良しになってんの!?

 そのロボットは

 テロリストの一味かもしれないのよー!?」


もっともな指摘をしてみせる。

最近の胡桃沢は絶好調だ。


「胡桃沢さん?

 そう直球すぎるのも

 いかがなものかと…。」


「もー、テロりすとナンテー

 そんなことナイって

 言ってるですノニ~」


「っていうかヨーコって誰よ!

 モリクマはモリクマでしょ!?」


「んん?ああ、下の名前だよ。

 下の名前ー。」


モリクマは頭を掻きながら

照れくさそうにいった。


「ま、下の名前で呼んでくれるのって

 私の婚約者くらいなんだけどねー。

 ワーベアで、苗字にクマって入ってるから

 みんなそっちで呼んじゃって。」


「ワタシは、ヨーコの方が可愛いから、

 ヨーコって呼んでるデス!」


「へー!なによあんた。

 婚約者なんていたの!

 意外と、隅に置けないわねー。

 このこのぉー!」


[[ グォン、グォン ]]


無駄なジェスチャーのために

巨大な人型機動兵器を動かして

魔力を浪費する胡桃沢だが、

自分の魔力だ。好きにするといい。


「あれっ、いやぁ、あはは、

 言ってなかったっけぇー?」


「付き合いの長い私たちには名字で呼ばせて

 知り合ったばかりのロボットには

 名前で呼ぶことを許すなんて………。

 モリクマさん、私、少し悲しいです。」


「いや!?別に、

 名前で呼びたければ

 呼んでいいよ!?」


テロリスト嫌疑についての云々は

秒でどこかに打ち捨てていく部下たち。

まぁ、いい。


「ラファエル。

 それで、周辺の様子はどうだ。

 変わったことはないか」


「えっ、はい、ヒイロさん。」


さすが、生粋のエリートのラファエルは

他の二人より切迫している今の状況を

理解しているのか

少しかしこまった態度で返事をする。


「見られるのは

 小型の原生生物くらいですね。

 鳥やサルに似た動物がいますが、

 大型の敵性原生生物らしき姿はないです」


「ここ切り開くときの騒音で、

 みんなどっかにげてったのかなぁー」


「そうかもしれませんね。

 あとは、空から見渡せるものといったら

 相も変わらず、地平線まで広がる樹海。

 天を突くような巨大な山脈と

 中腹から立ち上る活火山の黒い煙……。

 あとは、頂の……」


ラファエルは一度そこで言葉を切ると

『トゥルーハート』に天を仰がせ、

なぜか呆れた口調で続けた。


「あの、冗談みたいな大きさの……

 火山の火口にすっぽりはまった

 巨大卵しか見えません。」


「アハハハ!あれ!

 笑えるわよねー!

 昔のテレビアニメでああいうの、

 見たことあるわよ!

 はじめ人間ゴンザレスだっけ?」


「なるほど……。

 このスペースエイジにして

 類い希に無駄な高さを誇る

 胡桃沢さんのサバイバル能力の

 ルーツは幼少期から続く

 原始人への憧れの中にあったのですね」


「べ、別に憧れてないし!

 ていうか無駄とかいうなー!

 あんたたち大分助けられてるじゃない!」


「その通りだ。

 胡桃沢なしでは我々は数日と持たず

 全滅していただろう。

 代表して礼を言う。胡桃沢。」


「へっ…?い、いや、別に…

 普通っていうか、そ、そんな

 改まっていわれるほどの…ごにょごにょ」


「それではラファエル。

 引き続き、空中哨戒を頼む

 一時間経ったら俺が交代する」


「はい。ヒイロさん。」


時は昇天歴285年

ユニコーンの月

入植船『 ドワーブンセトラー 』は、

目的地の居住可能惑星、

……植民後は、『 ヴァラガース 』と

名付けられる予定だった

星の重力圏内で……

―――爆散した。


デブリだらけになった危険宙域を、

母艦と整備能力を失った

W・モービルだけで

調査するわけにはいかず

結局、我々は最短ルートで、

『ヴァラガース』の大気圏に突入した。


よって、

『ドワーブンセトラー』爆発事故の

原因は、解明の糸口すら

見つかっていない。


しかし……。


「カレン。もう一度聞くが、

 『 デウス・エクス・マキナ 』

 という言葉に、

 本当に、聞き覚えはないんだな?」


「えー、またそれデス?

 もーー、なんども答えてますのにー」


爆発事故の直前に宇宙空間を

生身で漂っていたところを

我々が収容したロボット


カレンは、もう何度目かも分からない

同じ質問を繰り返す俺を

眉と愛らしい唇を尖らせて、非難した

だが…


「…悪いが真面目な話だ」


「うぅ…。ヒイロさん、

 顔怖いデス…。ナンド聞いても

 同じデス!

 カレンは、そんなの、

 聞いたコトないデス!」


……カレンは、

嘘をついているようには見えない。

しかし、女というものは

平然と嘘をつくことができるからな…。

それに、俺は嘘を見抜くのは苦手だ。


最終戦争と呼ばれた

人類と神との戦いによって

我々はあまりにも多くのものを失った


それは人々……

例えば、ドワーフだ。

『ドワーブンセトラー』の名の元の

頑固で気のよかった洞窟人の彼らは、

神の放った『根絶魔法』によって、

一人残らず命を奪われた。


そして大地。熾烈な戦争は、

我々の暮らす惑星すら破壊してしまった

海の大部分が干上がり、地軸はずれ、

地熱は冷えて、地場を失い

有害な放射線が地上に降り注ぐ。


我々はもう長い間、

環境ドームと呼ばれる閉鎖環境の中で

生きながらえてきた。


そんな状況を打開するために、

系外惑星の探査を行い

未知の居住可能惑星への移住計画が

立てられることとなり、

我々がここへ送り込まれたわけだ



『 デウス・エクス・マキナ 』は、

この移民計画を妨害しようとする

カルト集団が信奉していた邪神の名だ。


『機械仕掛けの神』

その名の意味する通り、

信奉者の大きな部分を

ロボット達が占める。


「モー、カレンがロボットだからって、

 どうしてそんなに疑うんデスカー?

 ロボット差別はんたーい!」


「……悪いが、

 疑うに足る理由がある。」


とはいえ、確たる証拠もないのに

これ以上の追及することは無意味だろう

それに、

ロボットとはいえ、この愛らしい少女が

テロリストだとは思いたくない



「まっ、テロリストがどーのとか

 難しいこと考えたって仕方ないわー!

 そんなことより、採ってきた

 お肉を食べちゃいましょう!」


[[ どっすんっ!]]


胡桃沢が、どこからか狩ってきた

正体不明の謎肉。

極限状態における生活能力が著しく高い

胡桃沢によって加工されたそれは、

俗にいうマンガ肉の形になっている。

(大きな骨が肉の塊に突き刺さっている)

もともとがどのような形状だったかも

正直、想像もつかない。


「それ、何の肉なんデスカー?」


「わからないわ!」


「え、エェー……

 せめて、どういう生き物だったトカ…」


「羽の生えたワニみたいなやつよ!」


「あぁ、それなら……。

 このキャンプを設営する前に

 周辺を偵察したとき、

 見かけたかもしれません。」


「なぁ、クルミちゃん……

 なんだか、その肉、

 まだ、ぴくぴく動いてないか?」


マンガ肉は、

W・モービルが抱えてきただけあって

小さなクジラくらいの大きさだった。

それが、モリクマが指摘した通り、

たまにびくんびくんと痙攣していた。


「鮮度がいいのよ!」


「うぅ…エグいデース!」


一同は尻込みしているが、

極限状況下での食料は貴重だ

胡桃沢は平然と捕ってきているが、

この惑星の野生動物は容易くは狩れない


「……あの、私、こう見えて

 胃腸がとても弱いので…。

 胡桃沢さん、毒味もお願いしますね。」


「あははは!哀れね、ラファエル!

 胃腸が弱いなんて!

 いいわ!胃腸が悪魔的にめちゃくちゃ

 強い!この私が!胃腸の強さを

 あんたに、みせつけてあげるから、

 せいぜい羨望のまなざしを向けなさい!」


ラファエルはニコニコ笑いながら、

胡桃沢のことを見つめている。

そのまなざしは羨望というより憐憫だ。


「それじゃ、さっそく料理していくわよー!」


『 デモゴルゴン 』が、

左腕に内蔵しているアビスナイト製の

蛇剣を射出すると

直剣に変形して、腕部に装着した。


[[ ジャララララッ! ]]

[[ シャキンッ! ]]


「ささっとスライスして、

 刺身にしてやるわ!」


装着した剣を頭上に掲げると、

マンガ肉を一刀両断すべく、

振り下ろした!


「くらえ!デビルズチョォーーップ!!」


[[ ズガァッ!! ]]

[[ ベキッ! ]]


……一刀両断しようとした。

しかし……。


「なに!?この肉!硬っ!!」


剣は、刃が切り込みはしたものの

途中で止まってしまった。


「あ、あらあらあら。

 渾身のデビルズチョップが…

 ッ…。チョップって…ぶふっ…

 プクプププ……。」


「……」


『 デモゴルゴン 』は、

近接戦闘用『 グレーターデーモン 』

(デーモン族専用 W・モービル)

の中では、Sランクに格付けされる


アビスナイト製の蛇剣は、

宇宙戦艦のディフレクター装甲をも

切り裂くことができる代物だ。


その斬撃をもってしても、

両断することのできない原生生物

それこそが、不意の事故で、

準備も不十分なまま地表に降下した

一般市民達に迫る脅威なのだ


「……こうなったら、

 串刺しにして、

 直火で焼くしかないわね!!」


「おっ、丸焼き? いいねいいねー

 いよいよキャンプらしくなってきたぞー」


「エェー!原始人ミターイ!」


「プクククッ…

 やはり、胡桃沢さんは原始人…」


…俺はいったい、何をしている?

この密林で無為な時の浪費を始めてから

すでに数日が経とうとしている


我々、機動防衛隊は、

無辜な市民達を危険から守ることが

使命なのではなかったのか?


市民達は、今この瞬間も

この未開惑星の危険に晒されている…


しかし……


「…その全てを救うことができるのか?」


「ほらー!くるみちゃん、よく見ないと。

 焦げてるぞぉ!

 回して回して!」


「わかってるわよー!うっさいわねっ!

 この肉、まだ生きてて

 たまにびくつくから

 回しにくいのよ!」


「まぁ!

 生きているんですか!?

 大変、はやく助けないと!

 急いで回復魔法をかけますね!」


「はぁ? 何を言って……」


[[ ピロピロピロリッ ]]


「って、コラァッ!

 すなぁーーーっ!!」


『ドワーブンセトラー』に

用意されていた降下艇は全部で144艇

50万人の乗員が、それらに乗って

未開惑星『ヴァラガース』の

全域、いたるところへ

バラバラに降り立ったことになる


我々、たった四機のW・モービルで

彼ら全員を守ることは……


「このアホーー!

 本当にかけてんじゃないわよ!」


「あらー…。

 申し訳ございません、胡桃沢さん。

 私、愛の大天使としての

 本能が抑えきれず…。」


「あんたの愛はどうなってんのよ!

 食べ物で遊ぶなって、

 神様に言われなかったの!?」


「ぎゃーーっ! 危ないデス!」


[[ ぽよんっ ぽよんっ ]]

[[ がちゃんっ べきっ ]]


「うわーーー!くるみちゃん、

 なんとかしろよーーっ!」


―――不可能だ。

そう断言せざるを得ない。


ならば、どうする?

せめて近くに不時着した降下艇を

探し出し、合流して護衛するか……


いや、そんなことをしても

自己満足にすぎない。


人々をまとめるのは、船長や

選挙で選ばれた区画長以下、

役人たちの仕事だ。


そもそも、

我々、特務部隊の任務は…

保安を脅かす存在を未然に…


「リリーナ大統領……教えてくれ

 俺は……

 ……一体、どうすればいい?」


「はぁっ…はぁっ…良かった

 即死魔法が、通ったわね!」


「くるみちゃん…。

 食べ物に暗黒魔法を使うのは、

 どうかと思うぞー?」


「あの…。そのお肉、なんだか

 黒ずんでいませんか?

 暗黒魔法って、

 鮮度に影響は…」


「影響あるに決まってるでしょ!

 暗黒魔法なのよ!あ・ん・こ・く!!

 表面とかちょっと腐ってるわよ!」


「えぇ~~…」


「でも、よく焼けば大丈夫よ!」


「アッ……アノ、スイマセーン……

 その、カレンゥ、ジツハ、消化器官が、

 アマリ性能よいものではナクてぇ……

 その……」


「あ、そうでした…。私も……

 ……私、天使ですから

 あまり、ごはん、食べなくても

 平気なのでした。ですから、

 このお肉は、どうぞ皆さんだけで

 分けて頂いて…」


「……な~に~よっ!ラファエル!?

 あんたは逃がさないわよっ!?

 そもそも、こーなったのは

 あんたのせいでしょうが!」


「いえ、敬愛する胡桃沢さんの手料理、

 是非頂きたいのですが…。」


「あんたが回復魔法なんてかけるから

 こーなったのよ!?

 食べないの、ありえないでしょ!?」

 犯人のあんたがっ!!」


「!!!!」


[[ 犯人のあんたがっ!! ]]


……犯人?

そうだ……


「ほらっ!降りてきなさいよ!!

 この性悪天使!!」


「ああ、いけません!胡桃沢さん。

 そんな強引に……!そんな……そんな……

 ご無体な!あ~れ~!!」


「ご無体もゴムタイヤもないわよ!」


[[ ガショーン! ガショーンッ! ]]


「あー、あー、あー、二人ともぉー!

 機体の傷になっちゃうぞぉー!」


「……

 そうだ……!犯人だ……っ!」


「ワッ、ビックリしたデス。

 ヒイロさん、どうしたデス?」



『 ドワーブンセトラー 』爆破の実行犯。

その咎を負うべき人物も、また、

この惑星に降り立ったはずではないか?


我々の力だけで、爆破事件の

総解決を試みることは難しいだろう。

だが、容疑者を挙げて、

確保することは可能なのではないか?

それこそは、まさに、保安を任された

特務部隊の仕事と言えよう。


各居住ブロックに接続した降下艇は、

データセンターの役割も果たしていた。

あれだけの量の爆薬が使われたのだ。

ロジティクスのログを追跡すれば……。


……そうと決まったら、

一刻の猶予も無駄にすることはできない…!


[[ スクッ…… ]]


「アレッ、ヒイロさん?」


「うわっ、たいちょー?

 どうしたんだ。

 急に立ち上がって。」


「ああ、悪いがしばらく留守にする。」


「へ? しばらく留守って……」


[[ タッタッタッタ シュタッ ]]


俺は『 フリーダムウィング 』に駆け寄ると、

昇降用ウィンチに足をかけて

コックピットに急いだ。


[[ ウィーーーン ]]


「えっ!?あれ、

 あの、ちょっと、ヒイロ隊長!?

 えと、お肉、

 まだ焼けてないんだけどぉー!?」


「それはお前たちで食べるといい。」


[[ バッ! ドサッ ]]


パイロットシートに飛び乗ると、

操作計器の中央にある水晶球に手を乗せ

念じることで、機体を始動する。

機械類とモニターが明滅し、

『 フリーダムウィング 』が語りかけてくる。


[[ Where ever you are, I'm with you. ]]


「胡桃沢。」


「えっ、えぇっ?」


「お前は、いつも俺を助けてくれる。

 礼を言う。」


「なっ……えっ?

 礼って、なんの?」


[[ ブゥィィィィイイイイイ…… ]]

[[ ズオォォォ………!! ]]


「え、えぇぇ!?ヒイロさんーー!

 どこへ行ってしまわれるのですか!?」


[[ ゴオオォォォ!!!! ズォッッッ]]

[[ ドビュゥゥゥゥン!! ]]


そして俺は、『 フリーダムウィング 』を

飛翔させ、未開惑星の大空へと飛びだった。


――――――――――――――――――――――

昇天歴285年 宇宙標準暦でグリフォンの月

3日 17時27分

役職:民間人

種族:ロボット

氏名:カレン・スターセイラー

自伝『カレンの大冒険』より抜粋


[[ バサバサッバサッ ]]

[[ ザワザワザワッ ]]


突如巻き起こった旋風は、

ヒイロさんが飛び去った後も、しばらく、

テントと木々を揺らしていました。


「ヒイロさんが逃げた……!?」


普段、糸目のラファエルさんも、

この時ばかりは、驚きに目を見開いていました。

クルミさんもヨーコも

ヒイロさんの子リスのようなみのこなし、

素早い逃げ足に、ぽっかーんとしていたです!


「………

 こ、これっ……、

 そんなにヤバいのかしら…!?」


これっていうのは、

黒ずんだマンガ肉のことです!


「だって、くるみちゃん

 即死魔法って……

 一応、暗黒魔法の最上位レベルだろ!?

 絶対、やばいんだって!

 たいちょーが逃げるなんてよっぽどだよ!」

 

「いやっ……でも、わたし……

 木に止まってるセミにかけて、

 犬のおやつにしたこととか、あるわよ!?」


「なにやってるんだよぉー!

 セミなんて、夏が終われば死ぬだろ!?」


んー、ヒイロさん

犯人が、どーとか言ってましたから……

多分、お肉が食べたくなくて

逃げたわけではないと思いますけど…


まぁ、それはそれとして、


「ソノトーリデスッ!

 そのお肉ハ、イッツデンジャラス!

 ポイって捨てマショー!!」


「まっ、それじゃあ仕方ないわ。

 丸焼きは諦めて、煮込みにしましょう。」


「そうだなー。よく煮込めば

 多少マシになるかもなー。」


「エっ!?

 まだ、食べるつもりなんデスカ!?」


だから、絶対食べられないですって!


「当たり前でしょー?

 食べ物を粗末にするわけには

 いかないわー!」


「エェーーー……

 だから、スデに食べ物ではないのデハ……」


「ところで、胡桃沢さん。

 さっきから気になっていたのですが……」


いつの間にか、

ラファエルさんの『 アークエンジェル 』が

地上に降りてきて、キャンプの端で

密林の藪の中を覗き込んでいました。


「この丸太、なんですか?

 お肉と一緒に

 引きずって持ってきたみたいですれど。」


[[ ガサガサガサッ ]]


言うが早いか、

ラファエルさんは藪の中から

その丸太を引きずり出しました。


「あーーーっ!ちょっとちょっと!

 乱暴に扱わないでよね!!

 割れちゃうじゃない!?」


「割れる?」


「はぁー、これは保存食だから、

 まだ隠しておこうと思ったのに…」


「保存食??」


クルミさんはなにやら観念した様子で

そっと丸太を運んでくると、

上に覆いかぶせておいた、藁のような

繊維質の草を器用にぱっぱっと

払いはじめました。


……もちろん、

『 グレーターデーモン 』でです。

この人たち、頭は少し残念ですけど

操縦技術は本物みたいです!


「丸太をくりぬいて、

 入れ物にしてたわけだね。

 いやぁ、考えたねぇくるみちゃん!」


「なるほど…。それで、

 何が入っているのですか?

 胡桃沢さん。」


「もー、今見せるから

 ちょっとは待ちなさいよねー」


[[ ガサガサッ ]]


「これは……卵よ!!」


[[ バサッ! ]]


クルミさんが葉っぱの覆いを外すと、

なるほど、そこには7,8個の卵が

並んで中に収まっていたのでした。


「よっと!」


[[ ドスンッ! ]]


「卵!?」


「あらあら~。」


「お、おっきいデース!」


クルミさんは卵の一つを

『 デモゴルゴン 』に持ち上げさせると

広場のど真ん中に置いてみました。

卵はW・モービルの腰程までの背丈で

よほど巨大な生物の卵なのだろうと

私たちに予感させます!


「こっから、少し離れたとこに

 おっきい沼地があるのよ

 そこに、この卵が

 たっくさん、転がってるの!

 すっごい壮観なんだから!

 ま、一番すごいのは、

 それを見つけたあたしだけどねー!」


「たくさん転がってた……?

 原生生物の営巣地でしょうか」


「うっわー!こりゃホント、

 すっごい大きさだなー!」


ヨーコは呑気に卵へ駆け寄って、

人間と比較すると壁サイズの卵を

見上げながら、殻をペシペシしています


「エェー!ダッタラ、こっち

 食べればよくないデス!?

 卵ダッテ、キット食べれるはずデス!?」


「卵は長持ちするから後で食べるのよ!」


「エェー!」


薄々勘づいてはいましたが

クルミさんはアホかもしれなかったです!


「そんなの、分からないデス!

 スーパーのお店の卵じゃ

 ないんですから…。長い間ほっといたら

 卵が孵って…」


なんてことを、私が

言ってしまったからでしょうか…。


[[ ゴツンッ!ゴツンッ!]]


「へっ?なんだぁ?

 卵の中から音がするぞ?」


「あらあら……」


[[ ピシッ ピキピキ……]]


「ちょ、あそこ、

 殻にひびができてるデス!」


噂をすればなんとやら!!

卵の孵卵がはじまったのです!


[[ ゴツンッ!ゴツンッ!]]

[[ ペキペキペキッ ]]


「ヨーコ!ヨーコ!

 危ないデス!離れるデス!」


「おわっ!」


[[ ずんっ! ]]


卵のひび割れは見る見るうちに

広がって、割れた殻の破片が、

ヨーコのすぐ隣に落下しました!


「なによコレ!?

 割らないよう慎重に

 ここまで運んできたのに、

 なんで勝手に割れてるのよ!

 ……って、」


[[ ゴツンッ!ゴツンッ!]]

[[ ゴツンッ!ゴツンッ!]]


「丸太そりの卵からも音する!?

 なんなのよ!!

 さては、だれか

 魔法でいたずらしたわね!?」


[[ ゴツンッ!ゴツンッ!ゴツンッ!]]

[[ ピキピキ……]]


「まぁ、なんて美しい……」


孵化しはじめた広場の卵に

呼応するよう、他の卵たちも

孵化しはじめて……


「他の卵まで一斉に……。

 ああ、胡桃沢さんの苦労が実り、

 新たな生命達が、今、

 誕生しようとしているのですね」


「卵がぜーんぶっ、

 ダメになっちゃうじゃない!

 なんなのよ!

 誰がやったのよ!!」


「いやぁ、だれっていうか……

 えっ?クルミちゃん、

 もしかして、卵分かってない?」


「わかってるわよ!

 食べ物でしょー!?」


クルミさんはアホだったです!


[[ ペキペキペキッ]]


[[パカッ]]


[[ クルッ グルルルルルッ ]]


「ヒッ」


私は思わず、変な声が出ました。


[[ キシィーッ キシィーーッ ]]


卵からヌッっと顔を覗かせたのは、

愛らしい小鳥の雛、

ではなく……。


「あらあら、これは……

 随分と凶悪そうな顔をした

 赤ちゃんですこと。」


その幼体は、

大きな卵から生まれただけあって

体長が4m強くらいありました。


最初からすでに生えそろっている

ワニのような鋭い牙の並ぶ細長い口は

人間なんかに嚙みついたら、

軽々と食いちぎって飲み込んじゃいそう


「うぅーん?鳥の卵かと思いましたが、

 ワニの仲間でしょうか?

 でも、両腕は翼になっていますし…。」


頭部の両側に出っぱった目玉が

カエルのようにギョロギョロ動いて、

周りを見渡しているかと思いきや、

それが、急にポコッと引っ込んで、

眼窩に収まり、猛禽類のように

キョロキョロと首を動かして、

その姿はまるで、獲物を探す猛獣…


[[ ポコッ ポコッ ギョロッ ]]

[[ グルルルルルッ…… ]]


あっ、目が合っちゃいました。


「カレンッ!

 私のW・モービルまで急ごう!

 生身だと危険だ!」


その羽根付きワニの雛に睨まれて

固まって置物になってる私を、

ヨーコが怪力で抱え上げると、

自分の『 アルファプライム 』である

(ライカンスロープ専用 W・モービル)

『 マッドボアー 』まで

連れてってくれました!


[[ ギィッ…… ギィィ……… ]]


[[ ギィィィィエエェーーー! ]]


「わっ、なによこいつ!

 うるさいわねー!

 黙らないと、たたきつぶすわよ!」


[[ キョエエェーーー…ギッ! ]]


[[ ガイィンッ!! ガイィィンッ! ]]

[[ ぐしゃっ! ]]


後半のビーム音は、ラファエルさんの

『 トゥルーハート 』のガウスライフルが

幼体を打ち抜いた音です!


「胡桃沢さん

 他のも急いで叩き潰してください。

 恐らくそれ、成体を呼んでます。」



私たちが『 マッドボアー 』に搭乗すると

コックピットハッチが下がり、

計器が明滅し駆動音を鳴らしました。

ヨーコはもどかしそうに、

操縦桿の中央に位置する水晶球に手を乗せ

機体が稼働するのを待っています。


「あぁ、もう!いそいでくれよー!」


[[ ギィィィッ! ギィィィッ! ]]


コックピットの外から

幼体のものとはは明らかに違う

野太い鳴き声が聞こえてきました。


「うわっ!なによこいつ!!

 お肉じゃない!!」


「それが卵の成体です。胡桃沢さん。

 応戦してください。」


雛の声に誘引されて、

大人の羽根付きワニまでやってきたようで…


[[ ドルッドルッ ドルルルルッ…… ]]

[[ Bring the Madness. Bring the Fever.

  Let Summer Hot. Go Mad Boar. ]]


[[ ピピッ! ]]


『 マッドボアー 』のコックピットの

モニターが付きました。

メインカメラが映し出したその映像は…


[[ ギィィッ!ギィィッ!ギィィッ! ]]

[[ ギャァッギャァッギャァッギャァッ ]]


「ハワワワワ……い、いっぱいいるです」


「大丈夫か!?

 カレン、しっかり掴まってろよ!

 これからっ、かなり揺れるからねっ!」


ああ、どうしてこんな大変なことに……。


はぁ、大変と言えば、

『デウス・エクス・マキナ』……

機動防衛隊がどこまで掴んでいるのかも

探りをいれないとです……


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