表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/256

最終話 レニとリオとして

 最初に恋心を抱いたのは、地上に舞い降りた月の精霊のような寵姫に対してだった。触れたら消えてしまいそうな幻想的なその姿に、ただただ見とれ、魂を吸い取られたような心地がした。

 話せるようになったあと、自分を受け入れ慈しんでくれる優しさが好きだった。だが同時に、どこか近づくことを畏れるような距離も感じていた。寂しげでひっそりとした人だと思ったのに、ひどく思いきった方法で自分を助けてくれた。


 自分を包んでくれる温かさと同時に自分の鈍感さに対する苛立ちを感じ、控え目な優しさの中に自分を縛りつけたいと願っているような暗い情熱を感じた。

 寵姫に惹かれている時には、いつもその奥にリオの存在を感じた。リオと一緒にいる時、そこには寵姫の寂しさや痛みがあった。

 どちらもレニが命を賭けても守りたいと願った、生まれて初めて愛した人なのだ。


 そんなレニの感情が伝わったのか、二人は同時に微笑む。


(レニさま……私は初めて見たときから、あなただけをお慕いしておりました。他のどなたの腕の中にいても、心はいつもあなたを思っておりました。私のレニさま、私だけの女帝陛下)

(レニ……俺はずっとあなたに会いたかった。寂しそうなあなたのそばにいたい、あなたを守りたい、ずっとそう夢見ていた。俺の……俺だけのレニ)


「レニさま、レニ……あなたを愛している。これからずっと」


 寵姫の柔らかな優しい声とリオの意思のある生真面目そうな声が重なり、ひとつになってレニの耳に届く。

 レニは瞳を閉じて、寵姫とリオ、二人の姿を思い浮かべた。


(はい、寵姫さま。私も初めて会ったときから、あなたが好きでした。これからもずっと)

(リオ、大好きだよ。私もずっとあなたに会いたかった)


 生まれた時から鎖につながれて人に虐げられる運命を生きてきた、その苦しみに耐えながら自分の側にいてくれた人にレニは言った。


 私もあなたたちを……あなたを愛している。


(これからは、ずっとあなたと一緒に生きていく。女帝でも王妃でもない、権力者の孫でも娘でもない、ただの『レニ』として)


 レニは瞳を閉じて、自分を抱きしめる愛する人の身体を強く抱き返した。



5.


 次の日の昼すぎ、オッドが研究室に入るとマルセリスはいつも通り、机に座り、文献の読み込みや調べものをしていた。

 短く挨拶を交わしたあと、オッドは珍しくすぐに仕事に取りかからず、マルセリスの姿をジッと見る。


「レニたちは出発したのか?」


 マルセリスは顔を上げて、笑顔になった。


「うん、また来るって」


 レニとリオは学府から「調査員」という肩書を与えられ、二人で東方世界に旅立った。

 コウマは学府のあるマイネタルテの街にもうしばらく滞在した後、王都方面に行くつもりだと言っている。

 マルセリスは青空が広がる窓の外に視線を向ける。この広い外の世界に、幼馴染の従姉妹とその愛する人がいるはずだ。


(世界を思いきり見て回ってきてね、レニ、リオ)


※※※


 同じころ、レニとリオは学府の東にある、東方世界の入り口の街へ向かう馬車の中にいた。

 レニはいつも通り、身軽な短衣の上に防寒のための毛皮の外套を羽織っている。その横に座るリオは、旅の学者や巡礼者がよく着る長衣を着て腰には護身用の剣を刺していた。

 レニは幌の外に見える景色を眺めながら言う。


「リオ、楽しみだね」

「はい、レニさま」

「東方世界、どんなところだろう」


 遥か先、空の向こうを見つめるレニの横顔を見ながら、リオは言った。


「どんなところでもお供します」


 あなたの行くところなら、西方世界でも南方世界でも、世界の果てまででも。


 リオの言葉に、レニは嬉しそうに頷く。


「うん、二人でどこまでも行こうね、リオ」

「はい」


 リオは差し伸べられたレニの手を握って微笑んだ。


 レニ、あなたとならどこまでも行けます。

 ずっと一緒に。

                                                                                (終)


「レニ&リオ」を読んでいただいたありがとうございます。

 最初から最後まで読んでいただいたかた、途中から読んでいただいたかた、興味の引かれた箇所を読んでいただいたかた、ラストから読み始めたかた、少しでもこの話にご縁を持っていただいたすべてのかたに御礼申し上げます。


 第一章は昔から書きたかった「妻と夫の愛人が駆け落ちする」というシチュエーションで、短編のつもりで話を作りました。

 それがまさか、こんなに長いあいだ、二人と旅をすることになるとは思いもしませんでした。

 レニとリオの二人をここまでたどり着かせてあげられて本当に嬉しいです。


 この話は元々は「ザンムル大陸」という昔考えた長い歴史を持つ架空の大陸の設定を間借りしています。

 本来であれば大陸の創生の秘密を解く本編があるのですが、とりあえずレニとリオの話はここでおしまいです。


「ここまで読んで面白かった」

「二人が幸せになれて良かった」

と思っていただけたら、↓で評価の☆を押していただけると大変喜びます。

 

 最後になりましたが、レニとリオ、二人の旅を見守っていただき本当にありがとうございました。

 今後も何か書いていると思いますので、「苦虫」を見かけた際は読んでいただけると嬉しいです。                         

                                              苦虫

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リオ……まさに理想の男性。 思わず感情移入して号泣してしまいました。 3日間で4回以上涙が出たと思います。 この作品がもし文庫本になって読みやすくなったら、是非買いたいです! そしてまた号泣…
[一言] レニとリオが幸せになって良かったです。画面に向かって拍手しました。読ませていただきありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ