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第24話 商人・コウマ

「さあさあ、紳士淑女の皆さん、老いも若きも男も女も、脂ののったおっさんから可愛い娘さんまで。よってらっしゃい見てらっしゃい。ここでしか買えないものが揃い踏みだよ!」


 コウマは、景気のいい掛け声と共に、売り物を荷台の上に広げる。

 一人で持ち歩ける分の荷物だが、生薬の元になる珍しい植物や膏薬、香剤、高価な香水や美容水、日持ちする菓子や軽食、剣や武具の手入れのための砥石やオイルなどが並んでいる。

 賑やかな声に心惹かれてやってきたレニは、品物の中で一番端に置かれていた乱雑に積まれた本に目を止めた。


「リオ、本があるよ!」


 レニは本を手に取り、声を上げる。

 レニ自身は勉強のための本を読むと頭が痛くなるほうだが、リオが本や学問に興味があると知ったので、自然と声が弾んだ。

 リオは、薄茶色に変色した紙を紐でまとめただけの簡素な本を手にとると、中を開いた。

 コウマはその姿を目ざとく見つけて、すぐに声を張り上げる。


「おおっと、美しいお嬢さん、お目が高い。それは歴史についての貴重な本だ。港町の市場で見つけた掘り出し物だよ」

「貴重な本だって、リオ」


 こんなところで珍しい本に巡り合えるとは。

 レニは、コウマの言葉に瞳を輝かせる。

 旅の合間も、リオが勉強することが出来る。

 そう思い、レニは勢いこんで身を乗り出した。


「商人のお兄さん、この本、いくら?」


 無邪気な様子のレニを、コウマは黒い瞳でしばらく観察した。その目の奥に、狡そうな光が瞬く。

 コウマは、不意に困惑したように首をひねった。


「うーん、売りたいのは山々なんだけどな、この本は本当に貴重で、都で売りゃあ、高値で売れるしなあ。欲しがる奴なんて、きっといっぱいいるだろうし」

「ええっ!」


 レニはがっかりしたように肩を落とす。

 コウマはその様子を横目で眺め、少し黙ってから悩むような口調で言った。


「でもなあ、あんたたちみたいな若い娘さんに買われたほうが本も幸せだろうしな……」


 コウマは瞳を光らせて、ペロリと唇を舐めた。


「金貨三枚でいいよ」

「き、金貨、さ、三枚?!」


 レニは思わず叫び声を上げ、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 コウマは、困惑したようにわざとらしく眉をしかめる。


「いやあ、この本を金貨三枚で手放すなんてね、俺も手が震えるんだがあんたのお連れさんみたいな、美女の失望する顔を見たくないしなあ」

「き、金貨さ、三枚……こ、これが……」


 レニはリオの手の中にある古ぼけた本を見て、目を丸くして呟く。

 コウマは気を悪くしたように言った。


「本の価値は、見かけじゃわからねえよ。大事なのは中身だ、中身」

「レニさま」


 リオは本を閉じると、丁寧な仕草で元の場所に戻した。


「お心遣いはありがたいですが、金貨三枚は高すぎます。わたくしには分不相応な品です。これから何があるかわからないのに、買っていただくわけには参りません」

「リオ……」


 静かな口調でそう言われて、レニは顔を曇らせる。

 リオの毅然とした表情に密かに賛嘆の眼差しを送っていたコウマは、再び困惑したような口調で言った。


「うーん、しょうがねえなあ。おおまけのまけだ! 金貨二枚でいいぜ。まったく、こんなタダも同然の売り方したら、商いの神さまに呆れられて破門されちまうわ」

「本当?」


 レニが喜びで顔を輝かせた。


「ありがとう! お兄さん」

「まったくだ。お買い上げありがとうございますどころか、こっちが礼をして欲しいくらいだよ」


 コウマはブツブツ文句を言いながらも、レニに笑顔を向けられて満更でもなさそうな顔をした。

 レニが懐から革袋を出す間も、

「俺ってば何てお人好しだ」

「こんな商売をしていたら、明日には干上がっちまう」

と聞こえがよがしに大袈裟に声を上げ続ける。


 その時、横から顔を覗かせた人影が、レニが買おうとした本を手に取った。


★次回

第25話「学者・ソフィス」

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