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第154話 逃走

13.

 

 気が付くと、目の前に夜空が広がっていた。頭の中に不鮮明な膜が張りついているかのように、意識がぼんやりとしている。再び闇の中に引きずり込まれそうな意識を何とか叱咤して、レニは体をゆっくりと起こそうとした。

 しかし、何か重いものが乗っかっていてなかなか上半身を起こすことが出来ない。

 自分の上に覆い被さるようにして倒れている痩せた姿を見て、レニはハッとした。


「オッド!」


 レニはオッドの体を支えながら、何とかその下から抜け出す。

 オッドの顔からは血の気が失せ、額からは血が流れ出ている。レニの呼びかけに薄く瞳を開いたが、力が抜けたようにまた閉じられた。

 額に苦痛の汗が浮かんでいるところを見ると、肋骨にヒビが入ったのかもしれない。

 レニは素早く辺りを見回す。


 少し先に見える大きな卓は、半ばほどで割れ、片側が粉々に砕けて傾いていた。上に乗っていた料理や飲み物が地面に散乱している。

 その向こうでは、腰が抜けたらしい老貴族を、使用人たちが何とか運ぼうとしている。

 念のため、人のいない場所に仕掛けたせいか、怪我人はいないようだ。


 しかし、爆発自体はかなりの威力だったのか、華やかに飾りつけられた庭にはところどころ破砕した椅子や卓の残骸が転がり、見るも無惨な様子になっている。

 広間の入り口では、美しい装いをした人々が驚きと恐怖に顔をひきつらせ、遠巻きに庭の様子を見ていた。

 あちらこちらから悲鳴と怒号が響き、衛兵たちは人々を押し留める者と、庭に駆け込んで来る者に分かれる。


 目を閉じたまま、時折苦痛のうめき声を上げるオッドの体を、レニは何とか柔らかい草むらの陰に横たえた。

 一人で運ぶのは不可能だ。トールとグランを見つけるしかない。

 レニは怒りと焦りのこもった視線で、衛兵と使用人が駆け回る庭の様子を眺める。

 誰かが花火玉と爆発物を差し替えた。さほど殺傷能力は高くないが、下手をすれば死人が出たかもしれない。

 現に間近で爆風を受けたオッドは、怪我をして意識がない。


 レニが伸び上がって庭を見渡した時、ちょうど辺りに抜け目のない視線を走らせる、トールとグランの姿が目に入った。騒ぎに紛れて、庭に入り込んだらしい。

 明らかに周りから浮いた動きをしているが、誰一人気付いている様子はない。


「いたぞ」


 レニの視線に気付くと、二人は茂みのほうへやって来た。

 長身のトールは、衛兵の服装をして槍も構えている。


「オッドが怪我をしたんだ。あばらにヒビが入っているかもしれないから、ソッと運んで」

「寄越せ」


 レニの言葉など構う様子はなく、大男のグランが荷物でも担ぐように乱暴にオッドを抱え上げる。

 オッドは苦痛でうめいた。


「丁寧に運んで」

「うるせえ」


 グランは忌々しげに唾を地面に吐き捨てると、そのまま本館のほうへ向かう。

 トールはレニのほうを見て、唇を吊り上げて笑った。罠にかかった獲物をいたぶるような顔つきだった。

 トールは大きく息を吸い込むと、庭に向かって叫んだ。


「おおい! ここに怪しい奴がいるぞっ! ガキが忍び込んでいる。こいつが、爆弾を仕掛けたところをみたぞ!」


 庭にいる衛兵たちがこちらを見るのを確認すると、トールはレニに嘲笑を投げつけた。


「じゃあな、チビガキ。吊るされないように、せいぜい頑張って逃げ回れよ」

 

 レニは唇を噛み締めて、黙ってトールの顔を睨みつける。

 だがそれも一瞬のことだった。

 すぐに踵を返し、本館とは逆の方向へ走り出す。

 トールとグランが自分を犯人に仕立て上げることは、予想がついていた。

 二人にはオッドを連れて外に逃げ切ってもらわなければならない。

 恐らくはブルグの下へ連れて行くのだろうが、オッドはブルグの上にいるボスに気に入られている。ブルグの一存で殺されることはないだろう。


 自分が出来ることは、出来うる限り衛兵たちを引き付けて三人が逃げる時間を稼ぎ、捕まらずに逃げ切ることだ。


 そう考えがまとまると、レニは意識を五感に集中させた。


★次回

第155話「意外な人物」

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