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第151話 館への潜入・1

12.


 領主の館で開かれる宴の日程が近づくにつれ、街の中は慌ただしく、活気づいてきた。

 街中もそれなりに飾られ、屋台などの準備が進み、祭り気分に浮足立っている。


「祭りの最後には花火が上がるんだって」

「レニ、花火、見たことある?」

「うん、あるよ。花火はねえ、ザンム鋼っていう貴重な鉱石が放つ力を凝縮させて、それを黒魔術ブラック・マジックで取り出して爆発させるんだよ」

「魔法なんだ?」

「そうだよ、そこに色々な色を付けたり、力を加える方向を調節して形を作ったりするの」


 花火は、攻城兵器ですら破壊することが出来ない、硬質の装甲を持つ魔物を殺傷するために開発された、ザンム鋼が持つエネルギーを凝縮する技術が応用されて作られた。

 作るには多額の費用が必要なため、王都でも特別な祝賀行事の時にしか使われない。

 レニも見たことがあるのは、自分の即位式と結婚式を兼ねた祝典と、イリアスが即位した建国式の時のみだ。


 宴の当日は、子供たちも親の店の手伝いをしたり、街に不慣れな人間の案内をしたりして小遣いを稼いだりなど忙しい。

 

 レニはオッドとの待ち合わせの時間よりも早く領主の館へ行き、入念に周囲や警備、人の出入りの様子を確認した。

 オッドは待ち合わせの時刻ちょうどに、長身のトールと大男のグランと一緒に来た。

 トールとグランは塾でのことを根に持っているのか、露骨に不満そうな顔をしており、レニを見つけると音高く舌打ちする。

 オッドは手下たちの様子は気にせず、もう一度その晩の手筈について淡々とした口調で説明を始めた。


「七の刻に、業者が深夜用の食べ物を卸すために通用門から入る。業者はブルグと付き合いがある奴らだ。そこに潜り込んで中に入る。門の警備兵にも、話は通っている。二手に分かれて、会場近くの何か所かに花火玉を設置する。八の刻がきたら破裂するように調整してある」


 懐から、袋を出してレニに渡す。レニは袋に手を入れ、拳大の花火玉をひとつ手に取る。

 原理は花火と同じで、黒魔術によるエネルギーを外側から封印している。封されたことで少しずつ膨張していくエネルギーが限界に達すると、外側の封印を破って破裂する仕掛けだ。

 花火の代替として重宝されており、裕福な家庭や街の祝い事に使われる。派手な音と閃光が放たれるだけなので、近くにいても危険はほとんどない。


「それを確認したら、騒ぎに紛れてずらかる。門はすぐに封鎖されるだろうが、入って来た出入りの門の警護はブルグの手下と入れ替わっているはずだ」

「うん、わかった」


 頷くレニを、オッドは不思議そうに眺める。


「あんた……全然、ビビらねえな」

「こう見えて緊張しているよ。油断すると危ないし……何があるかわからないから」

「はっ、中でチビらねえといいがな」


 グランが聞こえがよがしに言う。

 オッドは、レニの肩を軽く叩いて言った。


「頼りにしている」


 トールとグランは、そんな二人の様子を面白くなさそうな目付きで眺めた。



 日がすっかり落ちた七の刻になると、手筈通り食物業者の馬車がやって来た。

 男たちはフードを目深にかぶったまま顔を見せようとはせず、必要最小限のことだけをくぐもった声で話した。

 出来得る限り関わりたくない。

 そんな気持ちが露骨に伝わってきた。

 貴族の館で働く下働きの格好をした四人は、男の指示通り荷物が詰め込まれた荷台に隠れる。

 馬車がしばらく進むと、遠くから宴の賑やかな喧騒が聞こえてきた。


「凄い盛り上がっているね」

「ああ」


 オッドの返事は普段と変わりなく感情が抑制されたものだったが、それでもその底に不安と緊張があることをレニは感じ取った。

 レニの心にも、同じものがある。


 一度、馬車が止まり、荷台の幌が開けられる。

 視界が明るくなった瞬間、四人は体を強張らせたが、警備の兵は形ばかり中を覗き込んですぐに幌を元通り戻した。

 警備兵が許可を出したのか、馬車は再びゆっくりと進み出す。

 それほど行かないうちにすぐに止まる。


「着いたぞ」


 再び馬車の入り口が開けられ、低い男の声が響く。

 男に促されるままに、最初にオッドとレニが外へ出た。トールとグランが後に続く。

 レニが礼を口にすると、男は顔を背けたまま言った。


「捕まっても俺たちのことは言わないでくれ。俺たちは何も知らないし、この後起こることには、何も関わりはない」


 それだけ言うと、男はレニたちの姿が見えなくなったかのように、そそくさと馭者台のほうへ戻る。


「行くぞ」


 オッドに声をかけられて、レニは慌てて踵を返した。


 

★次回

第152話 館への潜入・2

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