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第145話 オッドとルカ

6.


「先生っ!」

「先生えぃ!」

「大丈夫? 先生」


 オッドたちが出て行くなり、子供たちはいっせいに埃まみれになり、血を流しているソフィスの側に駆け寄る。


「大丈夫、大丈夫だ。何ともない」


 ソフィスは痛みで眉をしかめながらも、存外しっかりとした声で言った。自分の周りを取り囲む子供たちの顔を見て、一人一人に安心させるように微笑みかける。


「俺、医者を呼んでくる」


 小さい声で呟き、外へ出ようとしたルカに向かって、ソフィスは言う。


「いやいや、大丈夫だ。大した傷ではない。手当ては自分で出来る」

「無理すんなよ、先生」

 

 ルカは先ほどの場面を思い出したのか、俯いて唇を噛む。


「あんなに派手にやられて……」


 レニは子供たちの間をかきわけて、ソフィスの側に膝まづいた。

 軽く目を見開いたソフィスやルカ、子供たちを尻目に、ソフィスの身体に丁寧に触れていく。


「うん、骨には異常はなさそう。関節にも内臓にも何もダメージはなさそうだし」


 レニは傍らにやってきたルカの顔を見上げて言った。


「見た目は派手に殴ったり蹴ったりしているように見えるけれど、全部、急所は外していたんだよ。多少痣は出るかもしれないけれど」

「そ、そうなのか」


 ルカの声に応えるように、ソフィスは言った。


「あの子は……オッド、と言ったか。私を殴る振りをすることで、この場所を壊すことも、この子たちを連れて行くこともなく、この場を収めてくれたんだ。あの子が取り得る方法で、私たちのことを守ってくれたのだよ。とっさに判断したのだろうな。頭のいい子だ」


 ソフィスは、オッドが去っていった戸口に目を向けて呟いた。


「気の毒に……」

「オッドが……」


 ルカは下を向き、拳を握りしめる。

 それから不意に外へ向かって駆け出した。


「ルカ!」


 ルカの後ろ姿を見て声を上げたレニに、ソフィスは言った。


「レニ、ここは大丈夫だから……ルカを頼む。あのオッドという子のことも心配だ」


 レニは頷くと、子供たちを見回す。


「みんな、ソフィスのことをお願い」

「わかった」

「レニ、ルカを連れ戻して」

「オッドも……前はあんなんじゃなかったんだ。ルカの兄貴みたいなもんで」


 口々に喋り出す子供たちに笑顔を向けると、レニは外に向かって走り出した。



7.


「オッド!」


 ソフィスの塾がある下町よりもさらに裏手の陽の射さない薄暗い路地裏で、ルカはオッドに追いつく。

 ルカの呼びかけに、オッドと部下二人がいっせいに振り返った。


「何だ?」


 長身のトールが、半ば小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべながら半ば忌々しげに声を上げる。


「意趣返しかあ? ルカ」


 固めた拳の指を鳴らしながら、トールはルカのほうへ近づこうとした。

 その動きをオッドが鋭い声で制する。


「先に行け」

「で、でも、オッド」


 トールは何かを言いかけたが、オッドが金褐色の瞳を細めたのを見て、慌てて頷く。ルカの顔を睨みつけて 覚えてろと小さく呟くと、大男のグランと共に路地の奥へ消え去った。


 後にはルカとオッドだけが残される。

 ルカは、オッドの冷ややかな褐色の瞳をジッと見つめた。

 レニが二人を見つけて駆け寄ってきたその瞬間、ルカがオッドに向かって言った。


「オッド……ブルグから言われたのか? 塾にいる奴らを連れて来いって」


 オッドはしばらく黙っていたが、ふっと視線を逸らす。


「お前は、もう俺たちとは仕事はしないと言っていたな。それなら関係ないだろう」

「人手がいるんだろ?」


 ルカは逸らされたオッドの横顔を見ながら言った。


「人が集まらなきゃ、お前が困るんじゃないのか?」


 しばらく待ってもオッドからは、何の返答もなかった。ルカは、喉から声を絞り出すようにして言った。


「ブルグは……お前に、何をさせるつもりなんだ?」


★次回

第146話「このまま大人になっても。」

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