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第123話 それが望みなの?

 イリアスは、リオの体を慈しむように優しく撫でる。


「これからも、私が守りたい、愛しいと思うのは、このモノだけだろう。私があなたに差し出す信頼や敬愛は、決して揺るがぬ。だがこのモノに対する物とは、まったく異なるものだ。勝手な言い分かもしれぬが……そのことを、あなたに承知してもらいたいのだ」


 レニがリオに食い入るような眼差しを向けている様子、リオがレニのほうをまったく見ようとせず、何かを畏れ今にも倒れそうになっている様子を見て取ると、イリアスは取りなすようにレニに向かって微笑んだ。


「あなたに、私と寵姫の関係を理解して欲しいと言っても難しいことはよくわかる。

 しかし寵姫の望みは、ただこの小月宮で私に寄り添って過ごすことだけだ。私の妃であるあなたに対して、何ひとつ含むところはない。むしろ、あなたとも親しく行き合えれば、退屈を慰める存在として重宝してもらえると思う」


 イリアスは、黒い髪で覆い隠されているリオの顔を覗きこむ。


「寵姫、私の妃であるレニどのにも私に対するのと同様に、真心を込めて仕えてくれるな?」

「そうなのですか?」


 不意にレニが声を上げた。

 レニのハシバミ色の瞳には、驚いたようなイリアスの顔は映ってはいなかった。ただひたすら食い入るようにうつむいたリオの姿を見つめている。


「それが寵姫さまの望みなのですか? ここで、イリアス様に守られて一緒に過ごすことが? 寵姫さまは、それだけを望んでいるの?」


 力尽きた体を、無慈悲な主人に容赦なく鞭で打すえられる家畜のように、リオは全身を震わせた。顔からは血の気が引き、言葉によって痛めつけられた体は、透き通って空気に溶けて消えてしまいそうに見えた。

 そんなリオの様子を見ながら、レニは心の中で叫ぶ。


(リオ、そうなの? ここにいたいの? イリアス様と一緒に?)

(答えて、()()!)


「無論だ」


 二人の間に流れる緊張は、イリアスの穏やかな声によってかき消された。


「寵姫は、それ以上のことは何ひとつ望んではいない。私と交わす愛情以外の、金や地位、贅沢な暮らしなど他のものは何も求めていない」

「他のものは何も……」


 呆然としたレニの呟きに、リオはハッとしたように顔を上げた。言葉を振り絞るように、二、三度、唇を開きかける。

 だがリオが何か言うより早く、イリアスが言った。


「それは私が保証しよう。これがあなたに対して抱いているのは、敬愛の念だけだ。私に対するのと同じように、私の妻であるあなたにも忠誠を尽くすだろう」

「イリアス様の妻である私に……忠誠……」


 レニはうつむいて、力なくイリアスの言葉を繰り返した。


「妃殿下」


 不意にイリアスの腕の中にいたリオが、悲痛な声で叫ぶ。


わたくしは、私はそのようなことは決して思ってはおりません。どうか……」


 自分の腕から抜け出そうとするリオを、イリアスは呆気に取られたように見た。必死の形相を浮かべる姿に、信じがたいものを見るかのような眼差しを向ける。

 どれほどリオを愛していようと、国王と王妃が話している場で「モノ」が自分の意思で口を開くなど、イリアスの感覚では想像すら出来ないことだ。

 イリアスの空色の瞳に、自らの感覚に対する疑念がチラリとよぎる。


★次回

第124話「イリアスさえいなければ。」

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