僕はlv.999
初投稿です。
というか,このサイトも知ったばかりで,色々おかしなところもあると思いますが,よろしくお願いいたします。
僕は,人のレベルが見える。
誰かを見ると,その人の頭の上にレベルが表示される。
このことは誰にも言った事が無い。
言ったらきっと,ほとんどの人が自分のレベルを僕に訊くだろう。
それは普通に面倒臭い。
自分のレべルは,少し上を向いたら見える。
僕のレベルは999だ。
今まで会った誰よりも高い。
僕はそれをずっと誇りにしていた。
生まれた時からずっと999。
何があっても999から変わることはなかった。
そして僕は,lv.999に相応しい天才だった。
学校のテストはいつも一番で,ほとんど満点に近い点数を取っていた。
運動だって誰よりもできた。かけっこでもドッヂボールでも,僕が一番だった。
僕は人気者でもあった。誰とでもすぐに仲良くなれたし,委員長だっていつもやっていた。
顔だって良かった。何度か道でスカウトされたし,女の子にだって何度も告白された。
僕は天才,というより,完璧,に近かった。
レベルは,基本的に歳を取っている人の方が高かった。
校長先生と新卒の先生だったら,300くらい違う時もある。
たまに,そうじゃない事もある。
友達のサトシの父さんと母さんは同い年だったけど,お父さんの方が100くらいレベルが高かった。
レベルが下がる人もいる。
高校一年生の夏休み明け,僕の友達で一人,レベルが80も下がっている人がいた。
逆に,中三の夏休みや高三の夏休みが明けた後には,ほとんどの人のレベルが100近く上がっていた。
僕はと言えば,何をやってもずっと999のままだった。
これが何のレベルなのか,ハッキリとは判らないけれど,僕は,その人の完璧さのレベルだと,勝手に思っていた。
だって,僕があまりにも完璧だったから。
僕の将来の夢は消防士だった。
周りの人は,もっと稼ぎが良い楽な仕事にしたらどうだと言ってきた。
でも,僕は子供の頃からずっと憧れていたこの仕事に,一生を捧げることにした。
僕は天才だけど,他の人みたいに何かに憧れる事だってある。
僕は大人になり,晴れて夢の消防士になった。
それでもレベルは999のままだった。
消防士の仕事はきつかったけれど,やりがいがあった。
この仕事を選んで良かったと,心から思った。
そんなある日,119番通報があった。
僕がいる消防署にほど近い一軒家で,火事が起きた。
僕達はすぐに現場に向かった。
状況はあまりにも悪かった。
その家の外側はほとんど火に包まれていた。
僕たちはすぐに消火活動を開始した。
「中に! 二階にまだ子供がいるの!
お願い,助けて!」
僕の腕に縋りつきながら,に30歳くらいの女の人が言ってきた。
はっきり言って,無理だ。
天才じゃなくても判る。
自分から火の海になっているこの家に入るなんて自殺行為としか言いようがない。
周りの同僚からも,もう無理だ,諦めろ,という視線を感じた。
僕は女の人を見る。
彼女のレベルは372。
いや,僕は何を見ているんだ。
その人の目が,僕に叫んでいる。助けて! と。
「……。
分かりました。お任せください。子供さん,必ずお助けします」
「おい,お前,何考えてるんだ。無理に決まっているだろ?!
死ぬぞ。お前なら判るだろ? 解ってるだろ?」
「僕は消防士に憧れて,消防士になった。
ここで見捨てれば,僕は自分に嘘を吐くことになる。
一生後悔する。
……。
お母さん。お子さんの名前は?」
「は……ハルキです」
「ハルキ君ですね。安心してください。では,行ってきます」
「おい! 絶対,戻って来いよ!!」
僕の一番の親友,サトシが,僕に言う。
「ありがとう」
見えたかは判らないが,僕は微笑んでそいつに返した。
そして,家に入って行く。
予想通り,家の中もかなり燃えていた。
喉が焼け付くように痛い。
僕は階段を探して二階に上った。
「ハルキ君! ハルキ君! いたら返事をして!」
二階は一階ほど燃えてはいないが,煙が凄かった。
涙が滲んできた。
子供部屋のようなものを見つけ,中に入る。
部屋の端に,6歳くらいの男の子が倒れていた。
「ハルキ君?!」
僕は急いで駆け寄る。
まだ息はある。
煙を吸い込んで気絶したらしい。
ハルキ君を抱えて,僕は再び一階に下りる。
さっきよりも勢いを増した炎が,部屋全体を焼いていた。
「ん……」
ハルキ君が目を覚ました。
「もう大丈夫だよ。
すぐにお母さんに会えるからね。
僕にしっかり掴まっているんだ」
ハルキ君が頷き,震えながらも僕にしがみついた。
僕は一気に部屋を駆け抜ける。
と,その時。
ドォオン!
大きな音が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
衝撃で僕から離れ,前に飛ばされたハルキ君が叫ぶ。
どうやら,天井の一部が崩れたらしい。
ハルキ君に怪我は無さそうだ。良かった。
僕はと言えば,家の梁の下敷きになっていた。
梁が重すぎて体が動かない。
多分,脚が潰れた。
もしこの梁の下から抜け出せたとしても,ハルキ君を抱えて走れない。
僕が取るべき行動は,一つだ。
「ハルキ君! 先に行くんだ!
僕もすぐに行くから! 家から出るんだ!
そのまま真っ直ぐ,走れ!!」
「え……。お兄ちゃんも一緒に……」
「僕は大丈夫だ! お母さんが待ってる。
早く行け!」
僕は笑いながら言う。
「……。
わかった。ありがとう。お兄ちゃん。
すぐに助けを呼ぶから!」
「おう!」
僕は笑顔でハルキ君を見送った。
終わった。
これで全部。
恐らく僕はこのまま死ぬ。
悔いのない人生だった。
僕は元々父子家庭。
母親は僕が生まれた時に亡くなったらしい。
父親も,二年前に他界した。
妻子供もいない。
悔いなんて無いさ。
僕は生まれた時からレベル999で,すべて完璧な人間だったんだから。
人並みに友達もいたし,人並みに恋もしたし,人並みに幸せに生きた。
死に方まで自分で選べた。
そう。これは僕が選び取った死。
僕はlv.999の人間に相応しい最期を迎える。
人を救って死ねるなら本望だ。
あれ?
僕は一体何を考えているんだろう?
悔いはない。幸せだった。
なのに何で?
さっきから視界が滲んで仕方がない。
頬を濡らすこれは何だ?
ははは。
乾いた笑い声が零れる。
ああ,ごめんなサトシ。
戻れなかったわ。
ハルキ君。しっかり生きろよ。
父さん,母さん,ごめん。
二人に貰った命,使い切っちゃったみたいだ。
僕はここで死ぬ。
天井を見上げる。
今にも落ちてきそうだ。
と,自分のレベルが目に入った。
lv.ERROR
え?
その意味を考える前に,天井が僕の上に崩れ落ちてきた。
ボクはハルキ。
6歳の時に,家が放火に遭った。
犯人は捕まった。
そして,一人の消防士さんが,ボクを助けたために死んだ。
あの時消防士さんがボクを助けなければ,死んでいたのは僕で,こうして生きているのは消防士さんだったと思う。
あの人の声。あの人の体温。あの人の笑顔。
全て覚えている。
きっと,ボクを安心させようとしてくれていたんだろうな。
ボクは将来の夢ができた。
消防士だ。
あの人にしてもらったみたいに,ボクも誰かを助け,安心させたい。
一つだけ,奇妙な事を覚えている。
消防士さんの葬儀の時。
消防士さんは,たくさんの涙に送られた。
サトシさんっていう人は,誰よりも泣いていた。
葬儀が終わってから,サトシさんはボクに,
「命はな,何があっても大切にするんだ。
いいな?」
って言った。
ボクは無言で頷いた。
最後のお別れの時,ボクは消防士さんの棺を覗き込んだ。
消防士さんの頭の上に,何か文字が浮かんでいる。
lv.1000
それが,ボクが覚えている奇妙な事。
ちょっとしたお試しのようなつもりで書いた,どこか既視感のあるこの小説ですが,最後まで読んでくれた方,本当にありがとうございます。
人生で初めて,ちゃんと最後まで書けた小説です。
すごく楽しかったので,また投稿したいと思います!