家族
俺が向かう先はもう決まっている。
もう家族とは言えないが、それでも俺の大切な人たちのところだ。
俺の人生の中の唯一の心残り。
今更言ったところで何かができるわけでもないが、それでも今行かないと駄目な気がしていた。
幸い、お金をたまに送っているおかげで住所はわかっていたし、今から行けば10分くらいは話せるだろう。
もちろん何も連絡はしていないし、急に行ったところでもしいても追い返されるかもしれない。
というか、普通は追い返すだろう。
チセになんて言えば良いのかも、サヨコに何を言いたいのかも、何もまとまっていなかった。
それでも、俺は俺のために会いたいと思った。
この感情がたとえ間違っていたとしても、俺はこの感情をもう殺すことはできない。
殺せないということが大人として不完全だというならそれで構わない。
社会の一員とか、大人とか、そんなこと以前に俺は俺という一人の人間なんだ。
もしかしたら俺のせいでサヨコが、チセが傷つくかもしれない。
人を傷つけるのは悪いことだ。わかっている。
でも、もしも傷つかない望みがあるなら、それにかけてみても良いのではないか。
きっと取り返しのつかないことにはならないだろうという、根拠のない自信だけが俺の足を動かしていた。
人や自分を、未来を信じること。
俺が長い間忘れていたことだ。
世界が終わる直前になって思い出すなんて、俺は本当に残念な人生を送ったな。
でも気づかないよりましだし、きっと数分前の俺よりは良い人生だっただろう。