5 彼女がここに来た理由
よほどお腹がすいていたのか、彼女は俺があげたニューハーフのケーキを四切れともペロリと平らげた。
そしてその後また三つ指をついて俺に頭を下げ、
「ごちそうさまでした」
と言った。
か細くて弱々しいけど、透き通った綺麗な声だった。
それにしても彼女は何者なんだろう?
どう見ても地元の人には見えないし、そもそも何でメイド服姿なのか皆目見当もつかない。
なので俺はその辺の事を聞いてみる事にした。
「おそまつさまでした。ところで、この辺じゃあ見かけない顔だけど、何処から来たの?」
俺の問いかけに対して彼女は顔を上げ、か細い声で答えた。
「あの、京都の方から参りました」
「へぇ、はるばる京都から。一体何の用事で?」
「え~と、ある方へ言伝を・・・・・・」
「ふぅん、そうなんだ。で、そのある方の所へは行けたの?」
「それが、すっかり道に迷ってしまって・・・・・・」
「なるほど、それでさっき泣いていたのか」
「お恥ずかしいです・・・・・・」
「いや、全然そんな事ないんだけど、その言伝を伝える相手っていうのは誰なの?」
俺がそう尋ねると、彼女は俺の目をまっすぐに見据え、ハッキリとした口調でこう言った。
「沢凪荘というアパートに住む、伊能沙穂様という方です」
という訳で俺は、沙穂さんを訪ねてきたという謎のメイド少女を自転車の後ろに乗せ、沢凪荘に向かってペダルをこいだ。
沢凪荘へ向かう途中、彼女は沙穂さんの事に関して口を開く事はなかった。
元々口数が少ないのか、それとも極度の人見知りなのかはまだ分からない。
そんな中で分かった事は、彼女の名前は水森小宵といい、歳は十四歳で、京都にある大富豪の屋敷でメイドをしているという事だけだった。
そういえば沙穂さんも何処ぞの屋敷で以前メイドをしていたらしいけど、もしかしてこの子の知り合いなんだろうか?
ま、その辺の事も沙穂さんに話を聞けば分かるだろう。
そう思いながら、俺は沢凪荘へ自転車を走らせた。