6 涼ちゃんを呼び出す方法
その日の放課後、俺は尾田先輩に新聞部の部室に呼び出された。
尾田先輩いわく、この場所に田宮先輩を呼び出し、本当に九歳の人格である涼ちゃんが現れるかどうかの実験をしたいとの事。
なので俺は不安に満ちた口調で尾田先輩に尋ねる。
「あの、尾田先輩?本当にやるんですか?」
それに対して尾田先輩は、さも当然のようにこう返す。
「当たり前でしょ。こんなに面白い、いえ、大事な事は、一度この目で確かめておかないと」
「今、ポロッと本音が出ましたよね?」
「気のせいよ」
「そうかなぁ・・・・・・まあそれより、さっきも言いましたけど、今まで田宮先輩が九歳の人格に変わったのは、本人が頭を打ったりして気を失った時なんです。
だからってまさか、田宮先輩の頭を殴ったりするつもりじゃないでしょうね?」
「君相手ならともかく、お涼相手にそんな事する訳ないじゃないの」
「ちょっと待ってください、今、何気なくひどい事言いませんでした?」
「気のせいよ。それよりも、要はお涼を気絶させればいいんでしょ?
それなら殴ったりしなくても大丈夫」
「尾田先輩は、田宮先輩を殴ったりせずに気絶させる事ができるんですか?」
「私はできないけど、それができる人物を呼んであるわ。もうそろそろ来るんじゃないかしら」
等と話していると、部室の引き戸がガラッと開き、そこからある人物が現れた。
「遅くなってごめんなさい。ちょっと生徒会のお仕事が長引いてしまって」
そう言って現れたのは、生徒会長の本坂夕香奈先輩だった。
「え?もしかして本坂先輩が、田宮先輩を殴らずに気絶させる事ができるって言うんですか?」
俺が目を丸くしながらそう言うと、尾田先輩は「そうよ」と頷いてこう続けた。
「夕香奈のおじい様はある古武術の師範をしていらっしゃってね、
夕香奈はその古武術の正統後継者なんだけど、その武術の中に、
『気の力』を使って相手を気絶させる技があるらしいのよ」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
そう言って本坂先輩を見やる俺。
普段はおっとりしていてちょっとドジっ子で、武術とはまるで縁がなさそうなのに。
あ、でもそういえばちょっと前に、本坂先輩はあのムキムキマッチョの岩山店長を一瞬で気絶させた事があった。
あれがその『気の力』を使った技だったのか?
とか考えながら納得していると、本坂先輩は照れくさそうにはにかみながら言った。
「正統後継者と言っても、私はまだまだ未熟者なんですけどね」
すると尾田先輩がイタズラっぽい笑みを浮かべてこう付け加える。
「試しに稲橋君も技をかけてもらったら?何でも気絶する瞬間が物凄く気持ちいいらしいわよ?」
「いえ、激しく遠慮します。
それより、仮に本坂先輩の技を使って田宮先輩の九歳の人格を呼び起こしたとして、その後はどうするんですか?」
俺の素朴な質問に対し、本坂先輩はニッコリ笑ってこう答えた。
「そりゃあもう、仲良く一緒に遊びたいです♡
九歳の頃の田宮さんなんて、きっと無邪気ですっごく可愛いはずですから♡」
そんなあなたも無邪気ですっごく可愛いですよ本坂先輩。
そして一方の尾田先輩は、不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「お涼が九歳だった頃の、誰にも知られたくない秘密とかを聞き出したいわね」
この人はついさっき、その人が知られたら嫌がるようなプライベートな事は詮索しないって言ってなかったか?と激しく疑問に思った、その時だった。
「お待たせ~、話って何なの清ちゃん?」
という声とともに、今回のターゲットである田宮先輩が現れた。
部活が終わってそのまま来たらしく、服装は半袖の体操服と短パンのままで、額にはキラキラした爽やかな汗が輝いている。
う~ん、制服姿の田宮先輩もいいけど、こうして部活を終えた後の汗に濡れた田宮先輩も魅力的だ。
と、思わず見とれていると、田宮先輩はこの部屋に尾田先輩以外にも人が居る事に気づいて声を上げた。
「あれ?夕香奈ちゃん?と、君は確か、稲橋君?
え?これはどういう組み合わせ?今から何が始まるの?」
するとそんな田宮先輩の目の前に、本坂先輩がニコニコしながら歩み寄って言った。
「ウフフ♡とても楽しい事です」
そして田宮先輩の胸元にそっと右手を置く本坂先輩。
「え?な、何?」
女同士とはいえいきなり胸元に手を置かれ、顔を赤くする田宮先輩。
そんな田宮先輩に本坂先輩は
「ごめんなさい」
と言って、次の瞬間、
ドンッ!
何やら本坂先輩の右手から衝撃波のようなものがほとばしった。
それは目に見えないものだったが、俺の全身にもビリビリとした衝撃が走る。
これがさっき言ってた本坂先輩の『気の力』というやつなのか?
そう思いながら驚いていると、その衝撃波をもろに受けた田宮先輩は、
「うっ⁉」
と一瞬声を上げてそのまま膝から崩れ落ちそうになり、それを本坂先輩が優しく抱きかかえた。
「田宮先輩、大丈夫なんですか?」
俺が恐る恐る尋ねると、本坂先輩はニコッとほほ笑んで言った。
「大丈夫です。この技は単純に人の意識だけを一時的に飛ばすものなので、心や体にダメージはありません。
もちろん、ダメージを与える技もありますけど」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
そっちの技をくらったら一体どうなってしまうんだろう?
この人は普段はおっとりして天使のように優しいけど、下手に怒らせると大変な事になるかもしれない。
そう思いながら身震いしていると、そんな俺の心を見透かしたように尾田先輩が言った。
「ま、そういう訳だから、夕香奈を怒らせると怖いわよぉ。今のお涼みたいな目にあわされるからね」
「わ、私はむやみにこの力をふるって人を傷つけたりはしません!
田宮さんだって、ちょっと気絶しただけなんですから!」
本坂先輩が慌てた様子で声を荒げる。
するとその時、そんな本坂先輩のたわわな胸元に顔を埋めていた田宮先輩が、
「う・・・・・・ん・・・・・・」
と声をあげて目を覚ました。




