表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た3  作者: 椎家 友妻
おまけドラマ 涼、またもや
70/73

5 尾田先輩はあっさり理解した

 「へぇ、あのお(すず)が九歳の人格にねぇ」

 屋上のフェンス(ぎわ)にあるベンチに移動し、俺からの説明を一通り聞いた尾田(おだ)先輩は、

それを疑うでもなく、驚くでもなくそう言った。

それに対して俺はにわかに冷や汗をかきながらこう返す。

 「あの、あんまり驚かないんですね。それに全然疑う様子もないし」

 「まあ驚かないと言うより、ピンとこないと言った方が正確ね。

でもそれが本当なら、稲橋(いなはし)君の説明は筋が通るし、さっきお涼が稲橋君とは今日が初対面だって言った事も納得できるわ。

つまり君が今までに会ったお涼は九歳の人格であって、

本来の人格のお涼と会ったのは今日が初めてという訳ね?」

 「は、はい、そういう事です」

 俺の簡単な説明だけでこれだけ完璧に状況を把握(はあく)するあたり、流石(さすが)は尾田先輩だな。

 感心したついでに、今度は俺が尾田先輩に色々聞いてみる事にした。

 「あの、流石の尾田先輩もこの事は知らなかったんですか?」

 それに対して尾田先輩は、肩をすくめてこう返す。

 「知らなかったわ。私はお涼と中学の頃から知り合いだけど、

私の前で九歳の人格になった事はなかったし、

周りの人からそんな話を聞いた事もなかったわ」

 「じゃああれは、最近になって現れた症状なんですかね?」

 「それは分からないけど、つまりはそれって二重人格って事よね?

そういうのになる人って、子供のころに何か(つら)い体験をしてるって言うじゃない?

お涼もそのクチじゃないかしら?」

 「そういう方面では何か心当たりあります?」

 「そうねぇ、()いて言うなら、あの子が九歳の時に、お父さんを亡くしている事かしら」

 「えっ⁉そうなんですか⁉」

 「ええ。あの子はその事についてあまり話さないから、詳しくは知らないんだけどね」

 「尾田先輩にしては珍しいですね。どんな事でも徹底的に調べつくすのがモットーなのに」

 「君は私の事を何だと思ってるの?

私は人が知られたら嫌がるようなプライベートな事までは、詮索(せんさく)したりしないわよ」

 それは嘘だ。絶対嘘だ。

 「何か言いたそうね?」

 「いえ、何も。とにかくそういう事なら、田宮先輩が時々九歳の人格に変わるのは、その時に亡くしたお父さんが原因なのかもしれませんね。

最愛のお父さんを亡くした悲しみから(のが)れるために、違う人格が形成された。

こんなところですかね?」

 「そうね。でもまあ、この事についてはこれ以上調べるつもりはないわ。

あの子は私の大切な友達だからね」

 「そうですか。じゃあこの話はこれで終わりという事で。俺は、教室に戻りますね」

 俺はそう言い、ベンチから立ってさっさとその場から立ち去ろうとした。すると、

 「待って」

 と、尾田先輩が俺の制服をガシッと(つか)んだ。

 「な、何ですか?話はもうこれで終わりでしょう?」

 恐る恐る振り返りながらそう言うと、尾田先輩は何やらよからぬ事を思いついたような笑みを()かべて言った。

 「いいえ、終わってないわ。念のためにちゃんと、確かめておかないと」

 「へ?確かめるって、何を?」

 俺が目を丸くして(たず)ねると、尾田先輩はニヤリと笑ってこう続けた。

 「お涼が本当に、九歳の人格に変わるのかどうかをよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ