表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た3  作者: 椎家 友妻
 第一話 新たな住人?
7/73

3 店長からの贈り物

 「フフフ、それは大変でしたね」

 その日の夜、バイト先の『ファミレスニューハーフ』で、俺が今朝の出来事を(もと)(さか)()()()先輩に話すと、先輩はおかしそうにクスクス笑ってそう言った。

 今の時間はお客が一通り片付いたので、俺は休憩室で本坂先輩と話をしていた。

今日は幸い美鈴(みすず)が休みなので、遠慮なく本坂先輩と話ができる。

 そんな中、俺はげんなりしながら本坂先輩にこう続けた。

 「全くですよ。美鈴の奴は相変わらずヒステリックで暴力的だし、矢代(やよ)先輩はイタズラ好きでどうしようもないし、()()さんはいつもエロい妄想ばっかりしてる。こんな人達と一緒に暮らしていたら、神経がすり減ってしょうがないですよ」

 「でも稲橋(いなはし)君の話を聞く限りでは、(さわ)(なぎ)(そう)での生活はとても楽しそうに思えますけど」

 そう言って天使のような笑みを浮かべる本坂先輩。

う~む、この人も沢凪荘の住人だったら、俺の沢凪荘での生活もさぞかし楽しくなるだろうに。

と、シミジミ思っていると、ファミレスニューハーフの店長であり、自分自身もニューハーフである(いわ)(やま)(てつ)()(ろう)店長が現れて言った。

 「沙穂ちゃんは相変わらず元気にやっているみたいね」

 「あ、はい。相変わらずエロイ妄想ばっかりしてますけど」と俺。

そういえば岩山店長と沙穂さんは以前から知り合いみたいだけど、一体どういう関係なんだろう?

前からちょっと気になっていた俺は、良い機会なので聞いてみる事にした。

 「ところで岩山店長と沙穂さんって、一体どういう知り合いなんですか?」

 「私と沙穂ちゃんはね、以前職場が同じだったの」

 「へ?同じ職場って、もしかして沙穂さんがメイドをしていた時の?」

 俺が目を丸くしながらそう(たず)ねると、岩山店長はウインクをしながら答えた。

 「そうよ♡沙穂ちゃんがメイドをしていたころ、私は同じお屋敷で執事(しつじ)をしていたの」

 「そ、そうだったんですか」

 「でも本当は私も沙穂ちゃんみたいにメイドさんになりたかったんだけどね。

執事じゃないと雇わないって言われて」

 「まあ、一般的に考えたらそうでしょうね・・・・・・」

 「つい三年程前の事だけど、あの頃が(なつ)かしいわ。

その時お(つか)えしていたご主人様の一人息子がとっても可愛くてね。

あのころの私は彼に夢中だったの」

 「岩山店長はその当時からそういう趣味だったんですね」

 「あ!でも今の私は(せい)()君一筋だから安心して♡」

 「いや、むしろ不安になります」

 「そうだ!実は私、聖吾君にプレゼントがあったのよ!」

 岩山店長はそう言うと、スラックスのポケットから小さな箱を取り出した。

その箱は指輪を入れるケースくらいの大きさだった。

形もそんな感じだ。

 「はい、これを聖吾君に上げる♡」

 岩山店長はそう言ってその箱を俺に差し出す。

それを受け取った俺は、(まゆ)をひそめて(たず)ねた。

 「何ですかこれ?」

 「ウフフ、開けてみて♡」

 岩山店長にそう言われて開けてみるとそこに、(しずく)の形をした(かざ)りが付いた、シルバーのイヤリングが入っていた。

 「わあ、可愛い」

 そう声を上げる本坂先輩。

すると岩山店長は、

 「そうでしょう?何せ私のお気に入りだからね」

 と自慢げに胸を張った。

その岩山店長に俺は続けて尋ねる。

 「でも、何で俺にこれを?」

 それに対して岩山店長は、妙に体をくねくねさせながら言った。

 「この前家のお掃除をしていたら出てきたの。

これは私が執事をしていたころに、ある大切な方にいただいた物でね」

 「そんな大切な物をどうして俺にくれるんですか?」

 「今の私にはもう必要のない物だからよ。だから私のフィアンセであるあなたに受け取って欲しいの」

 「いつから俺は店長のフィアンセになりました?」

 「受け取って、くれるわよね?」

 「いやいやいらないですよ!俺は店長のフィアンセじゃないし、そもそもこういうアクセサリーは女性が付けるモンでしょうが!」

 「そんな事ないわよ。稲橋(いなはし)君は可愛い顔をしてるから、きっとこういうのも似合うと思うわ」

 「そんな事ないですって!」

 必死に(うった)える俺。

すると本坂先輩がニッコリほほ笑んで口を挟んだ。

 「私も稲橋君によく似合うと思いますよ、そのイヤリング」

 「本坂先輩まで・・・・・・」

 俺がげんなりしながらそう言うと、本坂先輩は小声で俺に耳打ちをした。

 「自分で付けるのが嫌なら、気になる女の子にでもプレゼントすればいいんですよ」

 「うーん・・・・・・」

 本坂先輩の言葉に腕組みをして考え込む俺。

確かにこの状況は、俺がこのイヤリングを受け取るしかないという雰囲気(ふんいき)だ。

しかし気になる女の子にプレゼントするって言っても、一体誰にあげりゃあいいんだ?

理想を言うと本坂先輩にプレゼントしたいところだけど、流石(さすが)にそんな度胸はないし。

 とか考えていると、岩山店長が(まゆ)をひそめながら言った。

 「何よっ、二人して私の前で内緒話なんて。私に聞かれちゃマズイ事なの?」

 「そ、そんな事ないですよ!今のは全然関係ない話ですから!

それより、このイヤリングはありがたく頂きます!」

 俺が咄嗟(とっさ)にそう言うと、岩山店長は一転してご機嫌な表情になってこう続けた。

 「もらってくれるのね、(うれ)しいわ♡私の分身だと思って大切にしてね♡」

 「わ、分かりました・・・・・・」

 俺はひきつった笑みを浮かべながら(うなず)いた。

そして店長には悪いけど、これは尚更早いところ誰かにあげようと思ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ