4 尾田先輩は見ていた
「わぁあああっ⁉」
悲鳴にも近い叫び声を上げる俺。
そして思わずその場に尻もちをつき、そのまま後ずさりする。
するとそれを見た尾田先輩は、さも愉快そうな笑みを浮かべてこう言った。
「あら、こんな所で偶然ね、稲橋君」
それに対して俺はにわかに震える声でこう返す。
「ぐ、偶然だなんて嘘でしょ!ずっとそこでさっきのやりとりを覗いてたんでしょ!」
「人を覗き呼ばわりしないでくれる?
私は偶然この場に居合わせて、偶然さっきの君たちのやりとりを見ちゃっただけよ?」
「どっちにしろ見ちゃったんですね・・・・・・」
「フフッ、何だかまた面白い事に巻き込まれているみたいね」
「面白いと感じているのは尾田先輩だけじゃないですか?」
「それはさておき、まさか君がお涼を南野君から横取りしようとするとはねぇ。
見かけによらず肉食系男子なのね」
「ち、違いますよ!」
尾田先輩の言葉に俺は立ち上がってこう続ける。
「さっきも南野先輩に言いましたけど、それは誤解なんです!
俺は田宮先輩を南野先輩から横取りしようとした訳じゃないし、
そもそも田宮先輩とは今日が初対面なんですから!」
「あら、でも君はこの前琴吹町のファミレスで、お涼と一緒にご飯を食べたんでしょう?」
「うっ、それは、ひ、人違いなんじゃないですか?」
「けどその時一緒に、河合さん(美鈴の事)も居たわよね?」
「うはっ⁉そ、それは、美鈴のそっくりさんなんじゃないですか?」
「だけどその更に前に、学校の資料室でお涼と一緒に鬼ごっこをして遊んだのは、稲橋君なんでしょう?」
「がっはぁっ⁉な、何でそんな事まで知ってるんですか⁉」
「風の噂よ」
「絶対嘘だ!もう何なんですかあなたは!凄いを通り越して怖いんですよホントに!」
「失礼ね、人をお化けみたいに言わないでくれる?私はただのミナ高新聞部の部長よ」
「もうその肩書きすら信じられなくなってきました・・・・・・」
「それはともかく、その辺の詳しい事情を聞かせてもらえないかしら?
どうして君がお涼と親しくなったのか。
そしてその目的は何なのか。
私の記憶では確か、君が好きなのはお涼とは違う女の子のはずよね?」
そう言って妖しくほほ笑む尾田先輩。
何かもう、骨の髄まで見透かされている感じだ。
この人相手じゃあどんな嘘も通用しないだろう。
俺は観念し、尾田先輩に事のあらましを話す事にした。




