2 南野響、荒ぶる
俺は屋上のフェンス際に追い詰められ、そのすぐ目の前で南野先輩が怒り心頭の顔で俺の胸ぐらを掴んでいる。
そしてそんな南野先輩は、今にも俺に殴りかかりそうな勢いでこう言った。
「やいコラテメェ!まさかこの学校の生徒だったとはな!
この前はよくも人の彼女を横取りしようとしやがったな!」
それに対して俺は、半泣きになりながらこう返す。
「ひぃいっ!すみません!でもこの前のアレは誤解なんです!
俺は田宮先輩を横取りしようとしたんじゃありません!」
しかしそんな俺の言葉を信じてくれる様子もなく、南野先輩は俺の胸ぐらをガックンガックン揺らしながら続けた。
「嘘を言うな!お前はあの時涼美と一緒にファミレスから出てきて、
その涼美を担いで連れ去ろうとしてたじゃねぇか!」
「それも誤解なんですって!あれは物凄く色々な事情があったんですよ!
だぁあっ!何て説明したらいいのかなぁ!」
「下手な言い訳しようとするんじゃねぇよ!
お前が涼美を連れ去ろうとしたのは紛れもない事実じゃねぇか!」
「それはそうなんですけど!そこに至るまでに何とも説明しにくい色々な事があったんですよ!」
「要するに俺の知らないところで涼美とデートしたって事だろ!」
「違います!確かにファミレスで一緒にご飯は食べましたけども!」
「それは充分テートって言えるだろ!」
「そうじゃないんですよ!俺があの時一緒に食事したのは、
田宮先輩だけど田宮先輩じゃないような・・・・とにかく違う人物なんです!」
「はあぁっ⁉何を訳の分かんねぇ事言ってんだよ⁉下手な言い訳も大概にしろ!」
「だぁあっ!もぉぅっ!」
一体どうすりゃいいってんだよ⁉
この前の美鈴の時もそうだったけど、田宮先輩の人格がいきなり九歳の涼ちゃんに変わったなんて、説明して信じてもらえるのか⁉
それを垣間見た俺でさえ半信半疑だってのに、それを口で説明したって信じてもらえる訳ねぇだろ!
ん?でも待てよ?
この人は田宮先輩の彼氏な訳だから、彼女のそういう特殊な性質も知ってるんじゃないのか?
もし知っていたら、俺の説明にも納得してもらえるはず!
・・・・・・でももし知らなかったらどうなる?
俺は嘘つき呼ばわりされたあげく、この後益々(ますます)ひどい目にあわされるんじゃないのか?
そ、そんなの嫌だ!
なので俺は、とりあえずこの状況から逃れる為にこう言った。
「と、とにかくですね!そんなに俺の言う事が信じられないなら、田宮先輩に直接聞いてもらえば分かりますよ!俺と田宮先輩がデートした事があるのかどうか!」
「馬鹿野郎!そんな事聞ける訳ないだろ!」
「何でですか⁉それが一番手っ取り早いでしょ!」
「だってそんな事聞いて本当にお前と涼美がデートしてたって分かったら、俺が傷つくだろ!」
「ええっ⁉」
この人、意外と気が小さいんだな。
普段も田宮先輩の尻に敷かれてるんだろうか?
と思っていると、南野先輩は右の拳を振り上げてこう叫んだ。
「とにかくお前の事は絶対に許せねぇ!俺がここでぶちのめしてやる!」
「そ、そんなムチャクチャな!」
俺はそう言ったが、南野先輩は構わず俺の顔面めがけて右の拳を振り下ろす!
なので俺は目をつむって歯を食いしばった!
と、その時!
「やめなさい!」




