2 沙穂がここに来る前
「ところで沙穂さんって、どれくらい前からここの管理人をしているんですか?」
沢凪荘はかなり古い建物だが、沙穂さんはまだ若い(と思う)。
前から聞いてみたかったので、良い機会だから聞いてみる事にした。
すると沙穂さんはニッコリ笑ってこう答えた。
「矢代ちゃんがここに来る一年前からだから、三年になるわね」
「へぇ、何で管理人をする事になったんですか?」
「私がここに来る前は、私のおばあちゃんがここの管理人をしていたの。
でもそのおばあちゃんが病気で他界して、代わりに管理人をする人が見つからなかったから、私が引き受ける事にしたの。
私も元は御撫高校の生徒で、高校の三年間はこの沢凪荘で過ごしたから」
「あ、そうだったんですか。それは初耳ですね」
「私が学生だった頃、ここは女子専用の寮でね、今よりもずっと人数が多くてとてもにぎやかだったの。
今は学校の近くに新しい寮ができたから、こっちに来る子はすっかり少なくなったけどね」
「人数が少なくても、毎日騒がしくてしょうがないですけどね」
「ウフフ、本当にそうね♡」
「じゃあ沙穂さんって、学校を卒業してそのままここの管理人になったんですか?
それとも前は何か違う仕事を?」
「ええ、私がここに来る前は、あるお屋敷でメイドをしていたの」
「め、メイド?メイドって、あのメイドさんですか?」
「そう、そのメイド。五年くらいやったかしらね」
「そ、そうだったんですか・・・・・」
沙穂さんの意外な過去に、俺はそう言って頷いた。
沙穂さんのメイド服姿、俺も見たかったなぁとひそかに思っていると、それを見透かしたような妖しい笑みを浮かべて沙穂さんは言った。
「聖吾君たら、目つきがとてもいやらしくなってるわよ♡」
「ええっ⁉そ、そんな事ないですよ⁉俺はただ沙穂さんのメイド服姿を見てみたかったなぁと思っただけで!」
「そしてそんなメイド姿の私に、アレコレイヤラシイ事をする妄想をしていたのね♡」
「してませんよ!」
「『ああっ、駄目です聖吾おぼっちゃま!お屋敷の中でこんな事・・・・・・』
『ぐへへへ、メイドが主人の言う事に逆らうんじゃない』
『だ、だからってこんな、イヤラシイ事・・・・・・』
『そんな事言いながら、お前も期待していたんじゃないのか?』
『そ、そんな事はありません!』
『ならこれは何なんだ?』
『そ、それは・・・・・・』
『んん?これは何だと聞いているんだ』
『や、やめてください・・・・・・』
『そーれそーれ♪』
『あっ、ああああっ♡』
『そーれぃっ!』
『あああああっ♡・・・・・・ガクッ』」
こうして沙穂さんは昇天した。
沙穂さんは、今回もしっかり沙穂さんだった。