5 愛の闘い
「うぉおおっ!」
「きぇええっ!」
二人は同時に雄たけびを上げ、互いの両手をガシッと掴み合った!
体格が大きくて筋肉ムキムキの岩山店長が有利かと思いきや、それよりひと回りくらい体の小さい鏡先生も全然力負けしていない!
どうやら二人の腕力はほぼ互角のようだ。
と、その時、岩山店長が鏡先生のどてっぱらにひざ蹴りをお見舞いした!
ドフゥッ!
「うぐっ!」
鈍い音が響き、鏡先生が痛みに顔を歪ませる。
が、すぐに体勢を立て直し、岩山店長に強烈な頭突きを炸裂させた!
ゴッ!
「ぐぅっ!」
その衝撃で後ろによろめく岩山店長。
そして二人は掴み合っていた手を離し、一旦距離を置いた。
「ちょ、ちょっと、あの二人かなり本気で喧嘩してるわよ?本当に止めなくてもいいの?」
二人のガチバトルを目の当たりにした理奈が、不安そうに沙穂さんに問いかける。
しかし沙穂さんは首を横に振ってこう返す。
「この決闘を止めるには、二人に決着をつけさせるしかありません。
あの二人はそれほどまでに、聖吾君の事を愛しているんです!」
するとそれを聞いた孝さんが、俺の肩に手を置いてシミジミこう言った。
「君って、本っっっ当にモテるんだな」
それに対して俺は、腹の底からこう答えた。
「モテ過ぎて死にたいくらいです」
そんな中、二人の死闘はまだまだ続いていた。
岩山店長が鏡先生の顔面にストレートパンチをお見舞いすると、鏡先生は右フックをやり返す!
もはやノーガードの殴り合いで、互いに一歩も引こうとしなかった。
一体どうすりゃいいんだ?
やっぱり俺の責任なのか?
俺が何とかしないといけないのか?
そう思っていると、沙穂さんが真剣な眼差しで俺に言った。
「聖吾君、どうしてあの二人は、あそこまで本気で殴り合っているのか分かる?」
それに対して俺。
「いえ、分かりません。というより、分かりたくありません」
「でもあえて言うわ。それだけ聖吾君の事を、愛しているからよ!」
「分かりたくないって言ってるのに何であえて言うんですか⁉」
「聖吾君はどっちが好みなの?」
「どっちも好みじゃないですよ!」
「それはつまり、この決闘で勝った方を選ぶという事ね?」
「違いますよ!何で沙穂さんまで俺をそっちの世界に追いやろうとするんですか⁉」
「そしてそのままエンドロールに♡」
「最悪の終わり方じゃないですか!ていうか今回はそういう話じゃなかったはずでしょ⁉」
等と言い合っているうちに、鏡先生と岩山店長の顔はボコボコに腫れあがっていた。
足もともフラフラで、もはや立っているのもやっとという状態だ。
そんな中岩山店長は、息を切らしながら鏡先生に言った。
「フッ、もうあなた、フラフラじゃ、ないの。次の一撃で、とどめを刺して、あげるわ」
それに対して鏡先生も、息を切らしてこう返す。
「そう言う、お前こそ、もう限界じゃ、ないのか?次で、決めて、やる」
「泣いても笑っても、次で勝負が決まるわよ」
沙穂さんが緊張した面持ちでそう言うと、俺と孝さんと理奈は思わず息をのんだ。
全く理不尽な理由で始まったこの決闘もいよいよクライマックス。
勝負は次の一撃で決まる。
するとその時、今まで吹いていた風がピタッとやみ、その風にそよいでいた草木の動きが止まった。
そして次の瞬間、
「だぁあああっ!」
「うぉおおおっ!」
最後の力を振り絞り、鏡先生と岩山店長が同時に突進した!
そして二人は右の拳を振り上げ、渾身のストレートパンチを放った!
そしてそのパンチが空中で交差し、互いの顔面に直撃した!




