13 もう一度、お茶目に告白
それを聞いた孝さんは鬼のような形相で俺の前まで歩み寄って来て、その胸ぐらを掴んだ。
「お前が愛の雫を持っていたのかっ!
だったらどうしてこの前ウチの屋敷に来た時に言わなかったんだ⁉」
俺の胸ぐらをガックンガックン揺らしながら叫ぶ孝さん。
それに対して俺は、ひきつった笑みを浮かべながら答える。
「いやあ、あの時は岩山店長にもらったイヤリングが、愛の雫だなんて知らなかったんですよ」
「言い訳なんか聞きたくない!それより愛の雫を今すぐ返せ!」
「ええ?今ですかぁ?」
「当たり前だろ!もしかして家に置いて来たのか⁉」
「えっとぉ~、そのぉ~・・・・・・」
「何だよ⁉ハッキリ言え!」
そう叫んでズズイッと俺に詰め寄る孝さん。
マズイ。これはマズイぞ。
なので俺は思わず助けを求めて岩山店長と理奈を見やる。
すると二人は一様に
『もう、正直に言うしかないわよ』
という表情で首を横に振った。
や、やっぱりここは正直に言うしかないか。
こうなったらどうにでもなれ!
半ばヤケッパチで腹をくくった俺は、茶目っけたっぷりにこう言った。
「実はあのイヤリング、何処かに無くしちゃいました☆テヘッ☆」
「な、なっ、何だとぉっ⁉」
俺が茶目っけたっぷりにそう言ったにも関わらず、孝さんのリアクションには全く茶目っけがなかった。
そして更に怒り狂った様子でこう続けた。
「無くしたってどういう事だ⁉お前、事の重大さが分かっているのか⁉」
「いやあ、まあ、それなりに」
「それなりにじゃあ駄目だ!とにかく今すぐ探し出せ!
あれは世界にひとつしかない、王本家の大切な家宝なんだ!」
「わ、分かってますよぉ。だから俺も、心当たりのある場所を徹底的に探したんですよ。
でも、どれだけ探しても見つからないんです」
「そ、そんな・・・・・・」
孝さんはそう呟くと、その場に崩れ落ちるように跪いた。
「愛の雫が無くなったなんて、これじゃあ僕は、沙穂さんにプロポーズができないじゃないか・・・・・・」
ガックリうなだれて孝さんは言った。
その原因である俺は、申し訳ないやらこの場から逃げ出したいやらで、孝さんにかける言葉もなかった。
するとそんな中理奈が孝さんの元に歩み寄り、バシッとその背中を平手で叩いた。
「痛っ⁉何するんだ理奈⁉」
そう言って理奈を見上げる孝さん。
そんな孝さんに理奈は、声を荒げてこう言った。
「もうすぐ十八になろうって男が何ウジウジしてんのよ!
確かに大切な家宝が無くなったのは大変な事よ!
無くした奴には重大な責任があるわ(・・・・・・・・・・・・・・・・)!」
「うっ・・・・・・」
俺の心に言葉のナイフが突き刺さる。
しかし理奈は構わず続けた。
「でもね!それが理由で沙穂にプロポーズできないっていうのはおかしいでしょ!
孝が本当に沙穂に渡さなくちゃいけないのは愛の雫じゃなくて、
沙穂が好きっていうその気持ちでしょうが!」
「う・・・・・・」
そう言われた孝さんは、グゥの根も出ない様子で視線を落とした。
理奈の奴、もっともな事を言うじゃねぇか。
でもそれは自分の恋路を自ら断つようなもの。
そうまでしても、自分が惚れた男の恋を応援するという事なのか。
切ない!切なすぎるぞ理奈!
と、心の中で雄たけびを上げた、その時だった。




