1 沢凪荘の日曜日
ヒリヒリヒリヒリ・・・・・・。
美鈴にビンタをくらったホッペが、未だにヒリヒリと痛かった。
ここはさっきに続いて沢凪荘の食堂。
今朝の騒動がひと段落し、ひと通り片付いたちゃぶ台に、俺はぐったりと顔を突っ伏していた。
今朝の出来事ですっかり機嫌を悪くした美鈴は、矢代先輩を連れて何処かへ出かけてしまった。
今日は日曜だから、学校で否応なしに顔を突き合わさなきゃいけないという事はない。
その辺は不幸中の幸いというところだけど、それにしてもあんなに怒る事はねぇよな。
そもそも夕べ俺に迫って来たのは美鈴の方なんだぞ?
なのにどうして俺があんなひどい目にあわされなくちゃなんないんだよ?
しかもあいつは夕べの事を何も覚えてないなんて。
だぁあっ!もぉおっ!やってらんねぇよマッタク!
イライラがおさまらない俺は、両手で頭をガシガシとかきむしり、大きなため息をついた。
「はぁ~・・・・・・」
するとそんな俺の前に沙穂さんが緑茶をそっと差し出し、朗らかな笑みを浮かべて言った。
「ウフフ、朝からとんだ災難だったわね、聖吾君」
それに対して俺は、恨めしい目で沙穂さんを見据えてこう返す。
「ていうか、俺がこんな目にあったのはほとんど沙穂さんのせいなんですからね。
夕べは美鈴達に変なモノを飲ませるわ、今朝は火に油を注ぐような嘘をつくわ」
「おかげでとっても楽しかったわ♡」
沙穂さんは何ら悪びれる様子もなく、そう言ってペロッと舌を出した。
それを見た俺はそれ以上文句を言う気力も失せ、再びため息をついて沙穂さんが淹れてくれた緑茶を一口すすった。
すると喉に滑り込んだ緑茶のいい香りが鼻から抜けて、今までのイライラが嘘のようにスッと消えていった。
「どう?少しは落ち着いた?」
そんな俺の様子を見透かしたように、沙穂さんはニッコリほほ笑んでそう言った。
「ええ、おかげさまで」
すっかり毒気を抜かれてしまった俺は、そう答えて肩をすくめた。
こんなおいしいお茶を飲まされて、そんな素敵な笑顔を向けられたら、どんなイライラも何処かに吹っ飛んでしまう。
ちょっとズルイ気もするが、それがこの人の魅力でもあった。
おかげでイライラもなくなったので、俺は話題を変える事にした。