6 第二巻のデジャヴ? 7 デジャヴの原因
そんなこんなでその日の昼休み。
突然だが、俺は走っていた。
廊下を走っていた。
全速力で、小宵ちゃんと並んで走っていた。
後方からは目をハートマークにした十数人の男子生徒達が追いかけてくる。
一体この状況は何なのか?
どうしてこんな事になってしまったのか?
話は約十分前にさかのぼる。
7 デジャヴの原因
昼休みが始まってすぐ、クラスメイトの玉木直人が俺の所にやって来てこう言った。
「なあ、あの子は誰なんだ?」
それに対して俺は素っ気なくこう返す。
「リンカーン大統領だ」
「へぇ~っ!あれが噂のリンカーン大統領か!
人民の、人民による、人民の為の政治を志した、アメリカの英雄だな!ってうぉおいっ!
そんな訳ないだろ!」
「長いノリツッコミだな」
「そんな事はどうでもいいよ!
それよりも、今朝イナゴン(俺の事)と一緒に来ていたあの女の子は誰なのかって聞いてんの!」
「矢代先輩の事か?」
「違うよ!矢代先輩の事は知ってるよ!
髪が短くなってもとっても愛らしくてチャーミングだよ!
そうじゃなくて、その隣に居たおさげの女の子だよ!」
「あ~、あの子か」
「あの子もイナゴンと同じアパートに住んでるのか⁉」
「今日は食堂でメンチカツ定食を食べよう」
「何の話だよ⁉俺イナゴンの今日のランチメニューとか聞いた⁉ねぇ聞いた⁉」
「何だよ?あの子の事を俺が知ってたらどうだって言うんだよ?」
「紹介して!」
「何でだよ⁉お前は矢代先輩のファンじゃなかったのか⁉」
「ああそうだよ!今でもファンだよ!
でも今朝見たあのおさげの女の子はどうだ⁉
まだ中学生のように幼くてあどけないあの雰囲気!」
まあ、実際中学生だしな。
「元気一杯の矢代先輩とは対照的に、物静かで控えめな物腰。
きっと性格も従順で、メイドさんの格好とかしたら物凄く似合うんだろうなぁ」
まあ、実際にメイドさんだしな。
「という訳でイナゴン!早速その子を紹介してくれ!メイド服はこっちで用意するから!」
「嫌だよ!お前みたいなロリコンの変態にあの子は紹介しねぇ!」
「俺はロリコンじゃない!ロリコン体形の同世代の女の子が好きなだけだ!」
「それはもうロリコンでいいだろ!」
と、その時だった。
「せ、聖吾様ぁ・・・・・・」
という声とともに、一人の人物が教室の入口から俺の元に駆け寄って来た。
ちなみにその人物とは小宵ちゃんで、ここまで走って来たのかして息を切らしていた。
「ど、どうしたの小宵ちゃん?」
俺がそう小宵ちゃんに問いかけると、小宵ちゃんが何か答えるより先に、玉木の奴が声を上げた。
「あーっ!今朝のおさげ髪の女の子!早速だけど俺のメイドさんになってもらえませんか⁉」
「ひっ⁉」
玉木のいきなりのキモイ申し出に、小宵ちゃんは反射的に俺の背後に隠れる。
そして俺は玉木にこう言った。
「寄るな犯罪者!」
それに対して玉木。
「ええっ⁉俺がいつ犯罪を犯したって言うんだよ⁉」
「初対面の女の子にいきなりメイドになってくださいって言う時点で犯罪だ!」
「俺は真剣な想いで言ったんだ!」
「むしろ駄目じゃねぇか!」
と、その時だった。
「あ!見つけた!」
という声とともに、見知らぬ数人の男子生徒達が教室に現れ、まっすぐに俺の方に向かって歩み寄って来た。
が、こいつらの目的は俺ではなく、小宵ちゃんだという事はすぐに分かった。
何故ならこいつらも玉木と同じようなロリコンの変態みたいな目をしているからだ。
そしてその先頭に立つ、小太りで四角い眼鏡をかけたいかにもな(・・・・・)雰囲気の男子生徒が、両手に持ったメイド服を小宵ちゃんに差し出しながら言った。
「ね、ねぇ、お願いだよぉ。
僕らコス研(※コスプレ研究会と思われる)が作ったこのメイド服、どうしても君に着て欲しいんだ。
絶っっっっっ対に似合うから!」
そしてズズイッと小宵ちゃんに迫る眼鏡男。
そうか、小宵ちゃんはこいつらから逃げて来たのか。
しかしこいつらが小宵ちゃんにメイドになって欲しいと望むのは、小宵ちゃんのメイドとしての性質を本能的にかぎとったからなのだろう。
恐るべし!オタクのアンテナ!
なんて感心してる場合じゃない。
このままじゃあ小宵ちゃんがこのロリコンメイドオタクの毒牙にかけられてしまう。
ここは何としても小宵ちゃんを安全な場所に避難させねぇと。
しかし周りは玉木とコス研の男子どもに囲まれている。
教室の外にで出るにはこいつらを何とかしないといけねぇ。
だけどこれだけの人数を俺一人で何とかできるんだろうか?
と、思ったその時だった。
バコォッ!
という物凄い音がしたかと思ったら、
玉木が「ぶへぇっ⁉」と声をあげて前のめりに倒れた。
そしてその傍らに分厚い国語辞典がドサッと落ちた。
どうやらこれが玉木の後頭部に直撃したようだが、一体誰がこんな事を?
と、その先に目をやると、そこに美鈴が立っていて、強い語気で俺に言った。
「早く!今のうちに小宵ちゃんを安全な場所へ!」
「お、おう!悪い!」
俺はそう言うと小宵ちゃんの手を掴み、玉木の胴体を踏みつけて教室の外に飛び出した!
「あっ!待て!絶対逃がさないぞ!」
その後ろをコス研の連中が追いかけてきた!




