1 美鈴VS理奈、再び
翌日の朝、俺はいつものように食堂で朝食を食べていた。
今朝のメニューはご飯に白菜の漬物、そして夕べの残りの肉じゃがだ。
作ってくれたのは小宵ちゃん。
ここに住み出してから間もないが、すっかり沢凪荘の一員としてなじんでいた。
そんな小宵ちゃんが用意してくれた食事を頬張りながら、沙穂さん矢代先輩が嬉々(きき)とした声を上げる。
「小宵ちゃんは本当にお料理が上手ね~。
それに沢凪荘のお掃除や洗濯も積極的にやってくれるし、私本当に助かるわ♡」
「もうこのままここのメイドさんになってくれたらええのに~」
それに対して小宵ちゃんは、照れくさそうに顔を赤くしながらこう返す。
「そ、そんな、私なんかまだまだ半人前で、皆様にはご迷惑をおかけするばかりで・・・・・・」
すると矢代先輩の隣に陣取った二人組が、朝食を食べながら言った。
「いやいや、なかなか立派な仕事ぶりですよ。
この肉じゃがは味がよく染みているし、こちらの白菜の漬物も塩加減がちょうどいい。
これだけでも水森さんの普段の仕事ぶりが推し量れるというものです。ねぇお嬢様?」
「フン、まあそこそこできる事は認めてあげるわ。
でもこの私にこんな庶民的な料理は釣り合わないけどね」
ちなみにその二人組とは、夕べやって来た海亜グループの令嬢の理奈と、その付き人の浜野さんだった。
夕べ沢凪荘を出て行った後、半日も経たないうちに再びやって来たのだ。
そんな二人に、美鈴はちゃぶ台を両手で叩いて声を荒げる。
「ていうか何であんた達はまたここに来てんのよ⁉
しかも昨日の今日で、朝ご飯まで一緒に食べて!一体どういう神経してんの⁉」
それに対して浜野さんが、申し訳なさそうな笑みを浮かべてこう返す。
「いやあ、私も昨日の今日でこちらにお邪魔するのはどうかと思ったんですが、
理奈お嬢様がどうしてもすぐにまた皆様に会いたいとおっしゃいまして」
するとそれを聞いた理奈が顔を赤くしながら声を荒げた。
「な、何言ってるの浜野!
私はここに住む庶民達に会いに来たんじゃなくて、早いとこ愛の雫を取り返したいのよ!」
その言葉にカチンときた様子の美鈴が理奈に言い返す。
「何よその人を見下した態度は⁉
家がお金持ちか知らないけど、あんただって私達庶民と同じ人間じゃない!」
「なっ⁉何ですってぇっ⁉この私があなた達と同じ⁉
冗談言わないで!私は海亜グループの令嬢なのよ⁉
あなた達とは住む世界が違うの!
本来ならこんなぼろっちい所に来る事はないし、こんな庶民的な食べ物を口にする事だってないんだから!」
ちなみにこいつは、小宵ちゃんが作ってくれたその庶民的な料理をきれいに平らげたのだが、それはどう解釈したらいいんだろう?
そんな中美鈴と理奈の言い争いは続いた。
「とにかく!あんたに返す愛の雫はないわ!ご飯を食べたらさっさと帰りなさいよ!」
「何であなたにそんな命令されなくちゃなんないのよ⁉これは私と沙穂の問題なのよ⁉」
「それを言うならあんただって関係ないじゃないの!これは沙穂さんと孝さんの問題なんだから!」
「う、うるさいわね!つべこべ言わずに愛の雫を返せって言ってるのよ!」
「だからあんたには返さないって言ってんのよ!」
そして強烈な視線の火花を散らす美鈴と理奈。
何だか愛の雫そのものよりも、この二人の対決がメインみたいになってきたぞ。
そんな二人をハラハラしながら眺めていると、流石に困った様子で沙穂さんが口を挟んだ。
「落ち着いてください二人とも。私の事でそんなに喧嘩しないで。
理奈お嬢様、愛の雫はお返ししますので、どうか怒りをお静めください」
「フンッ!最初から素直にそう言えばいいのよ。さあ、さっさと渡しなさい」
沙穂さんの言葉に理奈は勝ち誇ったようにそう言い、沙穂さんに右手を差し出した。
すると沙穂さんはニコッと笑ってこう言った。
「残念ですが、それはできません」
「はぁっ⁉あなた今返すって言ったじゃないの!私をからかってるの⁉」
怒りの声を上げる理奈。
しかし沙穂さんは何ら悪びれる様子もなくこう続けた。
「からかっているんじゃありません。そうじゃなくて、愛の雫は今、彼が(・)持って(・・・)いる(・・)んです」




