4 現実の一撃
「いってぇっ⁉」
あまりの衝撃に、俺はそのまま床にぶっ倒れた。
そのビンタの威力は凄まじく、俺の目の前で星がまわっていた。
するとその音で目を覚ました矢代先輩が、目をこすりながら上半身を起こした。
「う・・・・・・ん・・・・・・何の音?」
「矢代ちゃん先輩!こいつから離れて!」
まだ寝ぼけ眼の矢代先輩を抱きしめ、美鈴は声を荒げる。
「へ?え?何?どうしたんみっちゃん?」
まだ状況が飲み込めない矢代先輩に、美鈴はこう続けた。
「私と矢代ちゃん先輩が眠っている間に、こいつが私達にイヤラシイ事をしてたんです!」
「ええっ⁉ホンマに⁉」
驚きの声を上げる矢代先輩。
しかし何処か楽しそうなのは俺の気のせいだろうか?
いや、そんな事よりも、プロローグから大変な事になっちまった。
これじゃあ俺が本当に変態みたいじゃねぇか。
ていうか美鈴も矢代先輩も、夕べの事を覚えてないのか?
そもそもこんな事になっちまった原因は、この二人にあると言っても過言じゃないはずだ。
なので俺は美鈴にその辺の事を問いただしてみる事にした。
「おい美鈴、お前はそうやって俺の事を変態呼ばわりしてるけど、夕べのお前と矢代先輩の方がよっぽどひどかったんだぞ?」
それに対して美鈴は、全く身に覚えが無いという様子でこう返す。
「はあ?そんな事ある訳ないでしょ?下手に言い逃れしようったってダメなんだからね!」
「ちげぇよ!そうじゃなくてお前と矢代先輩は、夕べ自分の服をはだけて俺に迫って来たじゃねぇか!」
「は?はぁっ⁉何言ってんのよあんた!私達がそんな事する訳ないでしょ!ねぇ矢代ちゃん先輩!」
俺の言葉に更に怒った美鈴は、そう言って矢代先輩に話を振った。
すると矢代先輩は小首を傾げてこう言った。
「う~ん、正直よく覚えてないなぁ。オレンジジュースで乾杯した所までは覚えてるんやけど・・・・・・」
「ええっ⁉そんなバカな!・・・・・・あれ?でも私もジュースで乾杯した後の記憶がない。何でだろう?」
美鈴もそう言って首を傾げる。
どうやらこの二人は、夕べの事を微塵も覚えていないらしい。
まあだからこそ、あんなハチャメチャな行動ができたんだろうけど。
こうなったら夕べの出来事を洗いざらいぶちまけてやる!
と、そう思ったその時。
「あらまあ、朝からにぎやかねぇ」
にこやかな笑みを浮かべた沙穂さんが、食堂の入口から現れた。
そんな沙穂さんに美鈴は言った。
「沙穂さん!私と矢代ちゃん先輩、何故か夕べの事をよく覚えていないんです。
夕べここで何があったんですか?」
「夕べ?ああ、夕べね」
沙穂さんはすぐに思い当たった様子で言った。
そりゃそうだ。沙穂さんがあの事態を招いた張本人なのだから。
さあ沙穂さん、ここで全部白状してください。
俺がそう願う中、沙穂さんの口から放たれた言葉はこれだった。
「夕べ、聖吾君が美鈴ちゃんと矢代ちゃんにお酒を飲ませて酔い潰して、二人の操を無理やり・・・・・・」
「ちょっとぉおっ⁉」
思わず声を荒げる俺。
何て事を言うんだこの人は⁉
ていうか沙穂さんに真実を語らせる事自体が間違っていた!
これじゃあ益々(ますます)美鈴達に誤解されるじゃねぇか!
するとそんな中、美鈴の奴がゆっくりと立ち上がり、無言で俺の顔を見据えた。
その瞳はもう怒りを通り越してドッシリと座っていて、まるで百戦錬磨の殺し屋のようだった。
俺はとりあえず、誤解を解くために美鈴に訴えた。
「待て!落ち着け美鈴!今沙穂さんが言った事は全くの嘘だ!
この人の妄想の中での出来事なんだよぉっ!」
それに対する美鈴の返答はこうだった。
「そんな言い訳、信じられる訳ないでしょ!」
ぶゎっちこぉおん!
「はぐぁあっ!」
さっきよりも五割くらい威力が増した美鈴のビンタが、俺のホッペに炸裂した!
そしてそれをまともにくらった俺は一瞬宙に浮き、そのまま顔から床に突っ伏した。
「ぶへぇっ⁉」
ああ、どうしてプロローグからこんなひどい目に・・・・・・。
でも、これもある意味沢凪荘でのいつもの出来事。
俺がここに住みだしてからこっち、こんな出来事はしょっちゅうなのだ。
で、そんな日常はこれからもまだまだ続きそうなんだけど、
はぁ、どうなる事やら・・・・・。