13 お嬢様と付き人
男の方はグレイのベストに黒のタキシードを着て、首元には赤い蝶ネクタイをしている。
そして短い黒髪をオールバックにし、丸い眼鏡をかけていた。
一方隣の女の子は、フリルがふんだんにあしらわれた白のワンピースを身にまとい、背中までありそうな髪を左右に分けてリボンでくくっている。
目つきは鋭くて気がきつそうだが、西洋人形のように色白で整った顔立ちをしており、誰が見ても美人と表現してやぶさかでない。
パッと見た感じ、どこぞの金持ちのお嬢様とその付き人の執事がやって来たという印象だが、さてこの二人は何者なのだろう?
と思っていると、女の子の方が何の前置きもなくこう言った。
「伊能沙穂を出して」
可愛い顔をしてはいるが、随分ぶっきらぼうな物言いだ。
しかもいきなり沙穂さんを出せとは一体どういう了見だろう?
いささかムッとした俺は、冷たい口調でこう返す。
「その前に、あなた方はどちら様なんですか?」
すると女の子は露骨に眉間にシワを寄せて言った。
「あんたみたいな一般庶民に名乗ってやる名前はないわ」
「なっ⁉」
何だこいつは⁉
完全に頭に来たぞコンチクショウ!
金持ちのお嬢様か何か知らねぇけど、その偉そうな物言いは何だ!
と、口に出して言ってやろうとしたその時、隣に居た執事っぽい男の人が、ハラハラした様子で女の子に言った。
「お、お嬢様、初対面の方に何て事をおっしゃるんですか。
相手がどなたであろうと、こういう場合はまずこちらから名乗らないと・・・・・・」
しかし女の子はプイッと横を向いてこう返す。
「嫌よ。そんなに言うならあんたが名乗れば」
こ、この女、どんだけ自己中なんだ。
きっと裕福な家で大層甘やかされて育ったに違いない。
そう思っていると、
「一体どうしたの?」
と言いながら背後から沙穂さんが現れた。
するとそれを見た女の子は一層険しい顔になって言った。
「とうとう見つけたわよ、伊能沙穂」
それに対して沙穂さんは、いつもの朗らかな笑みを浮かべてこう返す。
「これは理奈お嬢様、ご無沙汰しております」
どうやらこの二人は知り合いのようだ。さて、この後どうなる?




