12 沙穂の気持ち
「えええええっ⁉な、無くしてしまったんですか⁉」
沢凪荘の食堂に、小宵ちゃんの叫び声が響き渡る。
俺と美鈴がバイトから戻った後、愛の雫を無くした事を小宵ちゃんに告げたのだ。
今のところ愛の雫が見つかりそうなメドは全く立っていない。
それにこの事をいつまでも隠す訳にもいかないので、やむを得ず話す事にした。
そしてそれを聞いた小宵ちゃんは、目を点にして呆然としていた。
が、そんな小宵ちゃんにかける言葉を俺は持ち合わせていなかった。
ちなみにここにはいつも通り沙穂さんと矢代先輩も居て、そんな俺の言葉を聞いた沙穂さんが、不思議そうにこう言った。
「愛の雫ってもしかして、王本家に代々伝わる家宝のイヤリングの事?」
「はい、そうです・・・・・・」
力なく答える俺に、沙穂さんは続けて尋ねる。
「どうして聖吾君がそれを知っているの?しかもそれを無くしたってどういう事?」
「実は・・・・・・」
ここで俺は、今回の一件を洗いざらい沙穂さんに話した。
孝さんの言伝の内容、そして三年前にそれを岩山店長に託した事。
でも岩山店長は沙穂さんに愛の雫を渡さず、
それを勝手に俺にプレゼントして、俺がそれを無くしてしまった事。
それらの事を一通り聞いた沙穂さんは、苦笑しながら言った。
「そう、だったの。孝おぼっちゃまが、私の事を・・・・・・」
「沙穂さんが屋敷に勤めていた頃、そういう事には気づかなかったんですか?」
美鈴がそう尋ねると、沙穂さんは首を横に振りながら言った。
「私、その頃は他のメイドさん達にエッチなイタズラをする事で頭が一杯だったから、全く気付かなかったわ」
駄目だこの人。岩山店長も大概駄目だが、この人も負けず劣らず駄目だ。
どうして孝さんはよりにもよってこんな人を好きになっちゃったんだ?
という言葉は呑み込み、俺は沙穂さんにこう言った。
「まあとりあえずそういう訳なんで、一旦愛の雫を孝さんに返そうという事になったんですけど、それを俺が、無くしちゃいまして・・・・・・」
「それを探す為に、今日は早うに学校に行ったん?」
と矢代先輩。
それに俺が「はい」と言って頷くと、矢代先輩はイタズラっぽい笑みを浮かべてこう続けた。
「な~んや。ウチはてっきり、二人でイチャイチャする為に、早く学校に行ったんかと思うた」
「なっ⁉そ、そんな訳ないでしょ⁉」
顔を真っ赤にして声を荒げる美鈴。
そんな中小宵ちゃんがうつむきながら言った。
「で、でも、どうしましょう。もしこのまま愛の雫が見つからなかったら・・・・・・」
「や、やっぱり、俺のせい?」
俺がひきつった笑みを浮かべながらそう呟くと、その場に居た全員が無言で頷いた。
どうしよう、もう、何処かへ消えてしまいたい・・・・・・。
そんな事を本気で思っていると、美鈴が神妙な口調で沙穂さんに言った。
「あの、ちなみに沙穂さんは、孝さんの事をどう思っているんですか?」
すると沙穂さんは少し困ったような笑みを浮かべながらこう言った。
「うーん、その答えは、孝おぼっちゃまから直接そういうお話があった時に、取っておくわ」
「そう、ですか」
と美鈴。
正直俺も聞きたい所だけど、これは沙穂さん自身の問題だ。
「で、お兄ちゃんは今回の件について、どう落とし前をつけるの?」
極道の孫娘らしい言い回しで、矢代先輩は俺に言った。
「う、まだ見つからないと決まった訳じゃないですよっ」
俺はたじろぎながらそう返すが、沙穂さんが不敵な笑みを浮かべてこう続ける。
「でもこのまま見つからなかったら、王本グループ全体を敵に回す事になるでしょねぇ」
「こ、怖い事言わないでくださいよ!」
俺、下手したら王本家の人に殺されるんじゃないの?
と、本気で思ったその時だった。
「ご、ごめんくださ~い」
と、玄関の方から男の人の声が聞こえてきた。
とりあえず一旦この場から離れたかった俺は、
「あ、俺が出ます」
と言って食堂から出た。そして
「はい、どちら様ですか?」
と言いながら玄関に行くとそこに、さっきの声の主であろう二十代半ばくらいの男と、俺と同い年くらいの女の子が立っていた。




