9 尾田先輩はやっぱり知っていた
「はぁ~っ・・・・・・」
その足で食堂にやってきた俺は、注文したカツ丼の前で大きなため息をついた。
見つからない。
愛の雫が見つからない。
クラスの皆にも一通り聞いてみたけど、誰もそれらしいイヤリングを見た奴は居なかった。
で、最後の希望をかけて鏡先生に聞きに行ったんだけど、やっぱり先生も知らなかった。
こうなると、愛の雫を落としたのはまた違う場所という事になるんだろうか?
学校の廊下、トイレ、その他の教室、はたまた通学路?
だぁぁっ!そんな広い範囲をどうやって探せっていうんだよ⁉
「はぁ~っ・・・・・・」
再び深いため息をつく俺。
と、その時。
「何やらお悩みのようね」
と声がしたかと思うと、一人の女子生徒が俺の隣にオムライスを置いて腰掛けた。
ミナ高三大美女の一人にして新聞部部長でもある、尾田清子先輩だ。
ちなみに俺は、この人の事がいささか苦手である。
「あら、こんなに素敵な女子が隣に座ったんだから、もっと嬉しそうにしたらどうなの?」
そんな俺の心中を見透かしたような笑みを浮かべ、尾田先輩は言った。
相変わらず人の心を見抜くのがお上手なこって。
おまけに自分に対してこれだけの自信が持てるというのは、むしろうらやましいくらいだ。
そんな尾田先輩に敬意を表し、俺は最大級の棒読みでこう言った。
「ワァイ、ウレシイナァ」
「言い方に問題があるけど、言葉そのものは正しいわね」
尾田先輩は特に気を悪くするでもなくそう言うと、薄い笑みを浮かべながら続けた。
「で、何をそんなに悩んでいるの?」
この人に下手に隠し事をしてもすぐにバレるのは重々(じゅうじゅう)承知しているので、俺は正直に答える事にした。
「ちょっと、ある大事な物を無くしちゃって・・・・・・」
「それって、愛の雫っていうイヤリングの事?」
「・・・・・相変わらず情報が早いですね。もう凄いを通り越して怖いですよ、マジで」
「大げさねぇ、ちょっと夕香奈に聞いただけよ」
「本坂先輩ですか・・・・・・」
あの人は尾田先輩に何でも喋っちゃうからなぁ。
そう思いながらカツ丼を一口頬張ると、尾田先輩はさも愉快そうに続けた。
「何だかまた面白い事に巻き込まれているみたいね」
「巻き込まれている当人は、全く面白くないですけどね」
「君を見てると退屈しなくていいわ」
「褒め言葉には聞こえないです」
「それで、お探しの物は見つかりそう?」
「そのアテが全くないから、こうして悩んでるんですよぉ」
俺がそう言うと、尾田先輩はズズイッと俺に顔を近づけて言った。
「ねぇ、君の探し物、私が見つけてあげようか?」
「ええ?」
まるで私が探せば必ず見つけられるわよという口ぶりだ。
でもこの人なら本当に見つけてしまいそうな気がする。
が、しかし、俺はそんな尾田先輩にこう答えた。
「いえ、結構です」
「あら、私じゃ役不足かしら?」
「そうじゃなくて、尾田先輩に頼むと、その、借りを作っちゃう事になるんで」
すると尾田先輩は少しムッとした様子でこう返す。
「失礼ねぇ、私は純粋に、君の力になりたくて言ったのに」
「じゃあ、貸し借りとかは関係なしで協力してくれるんですか?」
「それとこれとは話が別よ」
「やっぱり俺に借りを作らせようとしてるんじゃないですか!」
「だから、私は純粋な気持ちで君に貸しを作ろうとしているのよ」
「尚更タチが悪い!」
「じゃあこのまま探し物が見つからなくてもいいの?相当高価な物なんでしょう?」
「うっ・・・・・・」
「君にそれを弁償するだけのお金があるのかしら?」
「うぅ・・・・・・」
「無くした物を弁償するか、私に借りを作るのか、どっちがいいの?」
「何かもう脅迫みたいになってますけど⁉」
「私は純粋な気持ちで君を脅迫しているのよ」
「脅迫ってハッキリ言っちゃったし!まさか尾田先輩が愛の雫を隠し持ってるんじゃないでしょうね⁉」
「もしそうなら、さっさと君に返してそれを貸しにするわよ」
「・・・・・・」
もはやグゥの根も出ない俺。
これは尚更早いところ愛の雫を見つけ出さなきゃいけない。
俺は心の底からそう思ったのだった。




