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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た3  作者: 椎家 友妻
第三話 消え去ったアレ
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5 ない・・・・・・。

 あのイヤリングは昨日学生鞄(かばん)に入れてそのままになっていた。

結局昨日美鈴(みすず)にあれを渡す事ができなかったんだけど、結果的にその方が良かった訳だ。

何しろ一千万円もする代物(しろもの)らしいしな。

そんな高価な物が俺の部屋にあると思うと、何だかゾッとするぞ。

 そう思いながら俺は、勉強机の上に置いてある学生鞄をガパッと開けた。

そして中に入っている教科書やノートを取り出して行く。

それらを一通り取り出すと、カバンの中は空っぽになった。

ちなみに鞄から取り出した物の中に、愛の雫が入ったケースはなかった。

 「・・・・・・あれ?」

 思わず声を上げる俺。

そしてもう一度鞄の中を(のぞ)き込んでみる。

しかし、

 「ない。愛の雫が、ない・・・・・・」

 そう、ないのだ。

鞄の他のポケットも探してみたが、愛の雫は何処(どこ)にも見当たらない。

制服のポケットにも手を突っ込んでみたが、そこにもない。

ない、ない、何処にも、ない。

 ここで俺は、恐ろしい結論を出さざるを得なかった。


 愛の雫を、無くしてしまった。


 「ひぃいいっ!」

 思わずムンクの『叫び』のポーズになる俺。

 い、い、一千万するイヤリング、無くしちゃった・・・・・・。

 「どうしよう・・・・・・」

 俺はそう(つぶや)いてその場に(ひざまず)く。

(ひたい)から大粒の汗がにじみ出し、ポタポタと(たたみ)の上に落ちた。

 ヤバイ、これはヤバイぞ。

消しゴムやキーホルダーを無くしたならまだいいけど、一千万円のイヤリングを無くしたなんてヤバ過ぎるだろ。

しかもアレは王本家(おうもとけ)に代々受け継がれてきた家宝だって言ってたし、代わりを用意できるような代物(しろもの)ではない。

 これ、孝さんに何て言ったらいいんだ?

正直に話して許してもらえるものなんだろうか?

もし弁償(べんしょう)しろなんて言われても、一千万なんて大金とても払えない。

となると、王本家の屋敷で一生タダ働き?

もしくはもっとひどい目に?

 「そ、そんなの嫌だぁああっ!」

 思わずそう叫び、俺は頭を抱える。

と、その時、美鈴が部屋の扉をノックしながら言った。

 「ちょっと稲橋(いなはし)君?もう晩御飯の準備できてるわよ?食べないの?」

 「み、美鈴ぅ~・・・・・・」

 半泣きになりながら情けない声を上げる俺。

すると美鈴はガチャッと部屋の扉を開けた。

 「一体どうしたのよ?って、何泣きそうになってるのよ?」

 俺の顔を見て目を丸くする美鈴。

その美鈴に俺は力なくこう言った。

 「愛の雫を、無くしちまった・・・・・・」

 「ええっ⁉」

 美鈴は驚きの声を上げたが、ハッと気づいて自分の口をふさいだ。

そして声をひそめてこう言った。

 「愛の雫を無くしたって、それ本当なの?」

 「こんな事で嘘をついてもしょうがねぇじゃねぇかよぉ・・・・・・」

 「一体何処に置いてたのよ?」

 「鞄の中に・・・・・・でも、見当たらなくて・・・・・・」

 「何処か違う場所にしまってるんじゃないの?」

 「それはねぇよ。確かに昨日の朝、この鞄に入れたんだ」

 「じゃあ学校で落としたとか?」

 「う、それはありえるかも・・・・・・」

 俺が消え入るような声でそう言うと、美鈴は大きなため息をついてこう言った。

 「仕方ないわねぇ。じゃあ明日学校で、私も一緒に探してあげるわよ」

 「え?いいのか?」

 「いいも何も、このままじゃあ大変な事になっちゃうでしょう?

一千万なんて大金どうやって弁償するのよ?」

 「まあ、そうなんだけど、その、ありがとう。まさかお前が、そんなに親切にしてくれるなんて」

 「なっ⁉」

 俺の言葉に美鈴は顔を赤くし、急に語気を荒げてこう言った。

 「べっ、別にあんたの為なんかじゃないわよ!あれがないと小宵ちゃんも困るんでしょ⁉

これは小宵ちゃんの為なんだからね!」

 そしてプイッとそっぽを向く美鈴。

こんな時まで素直じゃないけど、イヤリング探しに協力してくれるのはありがたい。

何とか明日中に見つけねぇと。



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