2 ハレンチのウタゲ
「きゃはははっ♡」
「うぇーん!うぇーん!」
「うふふふ♡うふふふ♡」
えーと、とりあえず状況を説明しよう。
さっきも言ったけど、ここは沢凪荘の食堂だ。
今日は実は沢凪荘の住人である張馬矢代先輩の一七回目の誕生日で、沢凪荘の皆でお祝いをしようという事になった。
なので同じく沢凪荘の住人である河合美鈴と俺で矢代先輩にプレゼントを用意し、管理人の伊能沙穂さんが豪勢な料理を作ってくれて、そんな中矢代先輩の誕生パーティーは幕を開けた。
ところが、である。
ハッピーバースデーの歌を歌い、矢代先輩がバースデーケーキのろうそくの火を消し、皆で乾杯をしてジュースを一杯飲んだ時点から、何やら状況がおかしくなってきた。
その異変にいち早く気付いたのは俺だった。
一体何があったのかというと、乾杯の為に用意されたオレンジジュースから、何やらジュースだけではない匂いがしたのである。
これって、もしかして・・・・・・。
と思った時に、美鈴と矢代先輩は既にそのオレンジジュース(の姿をした何か)を飲みほしていた。
そして俺が止めるのも聞かず、二人はそのオレンジ色の液体をグビグビと飲み続けた。
するとその結果、
「キャハハハ♡」
「うぇーん!うぇーん!」
「うふふふ♡うふふふ♡」
という状態になってしまったのだ。
ちなみにキャハハと笑い狂っているのが美鈴で、泣きじゃくっているのが矢代先輩。
そしてその様子をニコニコしながら眺めているのが沙穂さんだ。
美鈴と矢代先輩は完全に笑い上戸&泣き上戸になってしまっており、どうにも手がつけられない。
もちろん俺はこのオレンジ色の液体に口をつけてない。
二十歳未満でそんな事をしちゃいけないのは当然だし、何よりこの場で正気を失ってしまうと、後後大変な事になるのは火を見るより明らか。
ていうかこのオレンジ色の液体を用意したのは他でもない沙穂さんなので、俺はその沙穂さんに抗議の声を上げた。
「ちょっと沙穂さん!高校生の俺達に何てモン飲ませるんですか!」
それに対して沙穂さんは、何ら悪びれる様子もなくこう返す。
「あ~ら、何の事かしらぁ?これはただのオレンジジュースよぉ?」
「ただのオレンジジュースで美鈴と矢代先輩がこんな風になる訳ないでしょ!」
俺がそう声を荒げる中、泣きじゃくる矢代先輩が俺に抱きついてきた。
「うわぁん!お兄ちゃあん!」
「わわっ⁉ど、どうしたんですか矢代先輩?」
俺がそう尋ねると、矢代先輩は鼻をすすりながら俺に訴えた。
「ぐすっ。あのね、みっちゃん(美鈴の事)がね、ウチみたいなお子ちゃまは、
お兄ちゃんのお嫁さんにはなられへんって言うねん・・・・・・」
「ええっ⁉」
それを聞いた俺は目を丸くし、美鈴の方に振り向いて彼女をたしなめた。
「おい美鈴、矢代先輩に何て事言うんだよ?俺のお嫁さん云々はともかく、年上の人をお子ちゃま扱いするなんて失礼だろ?」
すると美鈴はケラケラ笑いながらこう返す。
「キャハハッ♪だってぇ、ホントの事なんだもん。お子ちゃまの矢代ちゃん先輩より、あたしの方がずっと稲橋君のお嫁さんにふさわしいんだからぁ」
そう言ってまたコップのオレンジ色の液体を飲み干す美鈴。
こいつは相当できあがってやがるな。
正気だったら絶対こんな事言わねぇもんな。
とシミジミ思っていると、矢代先輩が両手で俺の顔を掴んでグイッと自分の方に振り向かせ、潤んだ瞳でこう言った。
「ねぇお兄ちゃん、ウチ、そんなにお子ちゃまかなぁ?女としての魅力、ない?」
「そ、そんな事ないですよ?矢代先輩は全然お子ちゃまじゃないし、女性としても充分魅力的ですって」
ひきつった笑みを浮かべながら俺はそう答えたが、矢代先輩の機嫌は直る様子もなく、あろう事か、自分のブラウスのボタンをプチプチと外し始めた。
「なぁっ⁉ななな何してるんですか矢代先輩⁉」
焦りまくる俺。
しかし矢代先輩は瞳を潤ませたままこう続けた。
「ウチだって、これでも体は成長してるんやで?お兄ちゃん、ウチの体、見て?」
そう言って矢代先輩は、ボタンを外したブラウスをわずかにはだけさせた。
するとそのわずかな隙間から、矢代先輩の小ぶりなブ、ブ、ブラジャーがぁっ!
「のわーっ⁉何してるんですか矢代先輩⁉ボタンをかけてください!」
俺は必死にそう訴えたが、矢代先輩はそのまま俺にズズイッと詰め寄って言った。
「触っても、ええよ?」
「さ、さわ、えええっ⁉」
な、何なんだこの展開は⁉
矢代先輩は一体どうしちまったんだ⁉
これも酔っぱらってるせいなのか⁉
それとも本気でこんな事を言ってるのか⁉
パニックに陥る俺。
するとそんな中、今度は美鈴が俺の顔を両手で掴んで自分の方に振り向かせ、不機嫌そうな顔でこう言った。
「あんた、何矢代ちゃん先輩ばっかりに見とれてんのよ。ちゃんとあたしの事も見なさいよ」
「べ、別に見とれてる訳じゃねぇよ!ていうかお前も相当酔ってんだろ!」
「酔ってない!」
俺の言葉に美鈴はキッパリ言い放つと、やにわに自分のシャツの裾に両手をかけ、それを一気に上にまくりあげた!
すると俺の目の前に美鈴のブラジャーがドバーン!
・・・・・・ってあれ?
よく見ると矢代先輩より小さい?
って違ぁああああう!
本当に何なんだこの展開⁉
マジでヤバイって!
大人の飲み物ってこんなに人を変えちゃうモンなの⁉
「ほら!私のも触りなさいよ!」
「えええっ⁉」
な、何て事言いやがるんだこいつは!
そんな事言われたら、俺は、俺はぁああっ!
俺の心の中で理性と本能が激しくせめぎ合う!
でもこのままじゃあ本能の方が勝っちまいそうだ!
なので俺は咄嗟に沙穂さんに助けを求めた!
「な、何とかしてください沙穂さん!このままじゃ大変な事になっちゃいますよ⁉」
するとそう言われた沙穂さんは、
「ああっ♡二人の可愛い女の子が自ら胸をはだけて男の子に迫る♡いいっ♡いいわぁっ♡」
一人でエロエロワールドに突入していた。
駄目だ。
そもそもこうなるように仕向けたのは沙穂さんなんだ。
あの人に助けを求めた所でどうにもなんねぇ。
かといってこのままじゃあ十八禁規制がかかる展開になっちまう!
そんな中両サイドから矢代先輩と美鈴が俺に迫る!
「お兄ちゃん、ウチの胸、触って?」
「ほら、早く触りなさいよ!」
何とオイシイ展開!
じゃなくて!
何てヤバイ展開だ!
この状況を無事に切り抜けるにはどうすればいい⁉
俺は全神経を集中して脳をフル回転させた。
するとその時俺の目に、オレンジ色の液体のボトルが目に入った。
それを見た俺は瞬時に閃いた。
そうか!
俺も酔っぱらっちまえばいいんだ!
そうすれば俺も正気じゃなくなるし、その後に何が起ころうと俺の知ったこっちゃない!
明日になれば全部忘れているさ!
一番危険な判断な気もするが、迷っている暇はねぇ!
俺は咄嗟に立ちあがってそのボトルを手に取り、中のオレンジ色の液体を一気にあおった!
グビッグビッという音を立て、オレンジ色の液体が俺の喉から体内に滑り込んでいく。
そして俺はビンの中のそれを全て飲みほした。
すると数秒も経たないうちに俺の体内は火が付いたように熱くなり、
何か頭がふわ~っとして、
膝がガクンとなって、
そのまま、倒れた。
バタン。