7 ムニュウッ
その言葉にすっかり毒気を抜かれた様子の美鈴は、ひとつ息をついて沙穂さんに言った。
「ところで、沙穂さんは思い出したんですか?小宵ちゃんの言伝の返事」
すると沙穂さんはペロッと舌を出してこう返す。
「それが、全然思い出せないの♡」
「まさか、小宵ちゃんをここから帰さない為に、忘れたふりをしてるんじゃないでしょうね」
俺はジト目で沙穂さんを眺めながら言った。
「やあねぇ、そんな事する訳ないじゃないの。
確かに小宵ちゃんにはずっとここに居てほしいと思うけど♡」
そう言って小宵ちゃんに抱きつく沙穂さん。
そして抱きつかれた小宵ちゃんは
「ひゃあっ⁉」
と声をあげて顔を赤くした。
そんな小宵ちゃんに矢代先輩がニコニコしながら声をかける。
「もうこのままずっとここに住んだらええのに~」
「そ、そんな訳にはいきませんっ。私はおぼっちゃまの言いつけでここに来てるんですから」
やや語気を強くして小宵ちゃんは言った。
すると沙穂さんは一転して真面目な顔になってこう続けた。
「小宵ちゃん、もう王本のお屋敷に帰りなさい」
「えっ⁉で、でも、私はまだ沙穂お姉様のお返事を聞いていませんし・・・・・・」
沙穂さんの言葉に驚きの声を上げる小宵ちゃん。
その小宵ちゃんに沙穂さんは優しい口調で言った。
「小宵ちゃんには悪いんだけど、本当に孝おぼっちゃまの言伝が何の事なのか思い出せないの。
だから何日ここに居ても結果は変わらないと思うわ」
「そ、そんな・・・・・・私、孝おぼっちゃまにどのように報告すれば・・・・・・」
「この事を正直に言えばいいわ。そもそも孝おぼっちゃまがきちんと言伝の内容を小宵ちゃんに伝えていれば、こんな事にはならなかったんだから」
「で、でも・・・・・・」
「ちゃんと私から返事をもらって帰らないと、孝おぼっちゃまに叱られちゃう?」
「・・・・・・多分」
沙穂さんの言葉に、浮かない顔で頷く小宵ちゃん。
すると沙穂さんは小宵ちゃんから体を離してひとつ息をつき、ポンと両手を合わせてこう続けた。
「じゃあこうしましょう。お屋敷まで小宵ちゃんに誰か付き添ってもらって、その人に事情を説明してもらう。そうすればおぼっちゃまも納得するだろうし、小宵ちゃんが叱られる事もないはずだわ」
「で、でも、付き添いなんて一体どなたに・・・・・・」
小宵ちゃんが不安そうに言うと、沙穂さんはニッコリほほ笑んでこう言った。
「頼りになるご主人様が居るじゃないの♡」
んん?頼りになるご主人様って一体誰だ?
と思っていると、沙穂さんは俺の方に向いてこう続けた。
「という訳でよろしくね、ご主人様♡」
へ?よろしくってどういう事だ?
もしかして、俺に小宵ちゃんの付き添いをしろと?
「でぇえっ⁉」
状況を理解した俺は思わず声を上げ、沙穂さんに抗議した。
「何で俺なんですか⁉この場合は沙穂さんが付き添うべきなんじゃないですか⁉」
それに対して沙穂さんは、ペロッと舌を出してこう返す。
「そうなんだけど、私はあのお屋敷に居た頃に色々ヤンチャをしてたから、ちょっと顔を出しづらくって♡」
「それは完全に自業自得でしょ!それに俺だって学校やバイトがあるんですから、小宵ちゃんに付き添う訳にはいかないですよ!」
「小宵ちゃんの為に休んであげて♡」
「そんな簡単に言わないでくださいよ・・・・・・」
「ちゃんと交通費も出すから♡それにお礼だってするし♡」
「お礼って、一体何をしてくれるんです?」
俺がそう尋ねると、沙穂さんは「ウフフ♡」と不敵な笑みを浮かべて俺の方に歩み寄って来た。
そして俺のすぐ目の前に立つと、おもむろに俺の右手を掴んだ。
「沙穂さん?一体何を?」
目を丸くして尋ねる俺に、沙穂さんはウインクをして答える。
「先にお礼をしておくわね♡」
そして沙穂さんは掴んだ俺の右手を自分の胸元へ持っていき、そして、何と、
ムニュゥッ。
俺の右手が、沙穂さんのふくよかなお乳に触れた。
「えええっ⁉」
「おおおっ⁉」
驚きの声を上げる美鈴と矢代先輩。
しかしこの状況に一番驚いたのはもちろん俺である。
なので俺は目を大きく見開いて叫んだ。
「な、な、何やってるんですか沙穂さん⁉」
「だから、お礼をしているのよ♡」
事もなげに沙穂さんはそうおっしゃる。
その間も俺の右手は沙穂さんのお乳にガッツリタッチしている。
うはあ♡やわらけぇ♡って違ぁあああうっ!
こ、これはいくらなんでもヤバイだろ!
しかも皆が見てる前で!
俺は慌てて沙穂さんのお乳から手を離そうとする。
しかし沙穂さんが両手でしっかり俺の右手を掴んでいるので離せない。
それどころかそのせいで俺の右手が上下左右に動き、よりおかしな事態になっていた。
「あ、あん♡聖吾君ったら大胆なのね♡」
甘い吐息を吐きながら、沙穂さんは色っぽく呟く。
うぉいっ⁉
いつからこの物語は成人指定になったんだ⁉
これはヤバイ!
色んな意味でヤバイぞ!
もう今すぐにでもぶっ飛びそうな理性を必死に保ちながら、俺は上ずった声で沙穂さんに訴えた。
「さ、沙穂さん!もういいです!もうお礼は充分ですから!」
「あら、じゃあ小宵ちゃんの付き添いをしてくれるの?」
「します!付き添いでも何でもしますから!もう勘弁してください!」
「そう、ありがと♡」
沙穂さんはそう言うと、ようやく俺の右手を解放してくれた。
何か、いいように沙穂さんに言いくるめられた気もするけど、この際しょうがないだろう。
俺の心臓はまだ破裂しそうなくらいドキドキしており、右手にはさっきのふくよかな感触がハッキリと残っていた。
今まで不可抗力で(・)女性の胸に触れてしまった事は何度かあったが、あんなに堂々と女性の胸を触ったのは生まれて初めてだ。
何というか、その・・・・・・うぉおおっ!
と、行き場のない熱き血潮にモンモンとしていると、怒りにうち震える美鈴の姿が目に映った。
そして殺意に満ちた声でこう言った。
「本っっっ当に最低っ!」
「ま、待て待て!これはどう見ても不可抗力だろう!ある意味事故だろ!」
俺は必死に弁解したが、美鈴は、
「うるさーい!」
と叫び、俺のホッペに物凄く強烈なビンタをお見舞いした!
ぶゎっちこぉおおん!
「ぐっはぁっ⁉」




