1/73
1 緑豊かな御撫の里
俺が住む御撫町という所は、田園風景が広がる、緑豊かな町だった。
季節は春の終わりに差しかかり、
花を一通り咲かせた植物達は、
夏に向かって葉っぱをより一層濃い緑に染めていく。
町の中でひと際目立つ山のふもとに俺が通う御撫高校があり、
その前に広がる田畑の中に、民家がポツポツと点在している。
そこからもう少し行くと御撫駅という小さな駅があり、その近所には、
年季の入った建物が並ぶ小さな商店街。
住人も少なく、遊ぶ所もない。
まあ典型的なド田舎なんだけど、俺はそんなのどかなこの町での暮らしが気に入っていた。
その俺が今住んでいるのが、御撫駅から少し離れた所にこじんまりとたたずむ
『沢凪荘』という、小さな木造平屋建てのアパートだった。
俺がこのアパートに住みだしてから一カ月ちょっと。
春の陽気がまだ残るある日の夜、その沢凪荘の食堂は、
酒池肉林の場と化していた。