おにぎり食ったら死んだドラゴン
余の名はベトゥス。竜の王である。余の話を聴いて欲しい。『おにぎり』とはなんだ?
時は数日前に遡る。とある剣士が余に挑んできた。久々に手こずったが勝ち、その剣士は死の間際にこう言い残した。
「ああ…おに…ぎり…」
余は考える。『おにぎり』とはなんだ?人間が事切れる直前に口にすると言えば愛した者の名だが、人名では無さそうだ。『おにぎり』…何とか斬り…のような技名なのか?剣に一途そうなあの男だ。技を完成させたかったに違いない。
そう思った余は友達で『おにぎり』の『おに』の部分と関係がありそうな鬼の王の元へ飛んで訊いてみた。
「我ら鬼を屠る技?全然違うぞ。『おにぎり』とは人間の食べ物で確か…米を団子みたいに丸めたやつだ。中に魚とか野菜とか色々仕込むらしい」
そうか食べ物か。死ぬ前に食いたかったということか。あの強い剣士が欲した最後の食べ物に俄然興味が湧いた。余も食ってみたい。
そう思った余は人間の里にやって来た。余は耳が良いから上空でも地上の人間の声が聞こえる。これは人間の子どもの声か?
「ねぇねぇ。おにぎり何入れてもらったの?」
「エビマヨだよ。大好きなんだ」
おお、あるのか。余はいそいそと降り立った。
「きゃー!」
「ドラゴンだ!みんな逃げて~!」
人間は恐怖で逃げ出したが余には関係ない。余は目をこらし、散らばった人間の食べ物の中から米の団子『おにぎり』を探し当てた。余は1つ摘まみ取り、一口で食す。
美味い!
こんなに小さいのに米の甘味、山住まいのせいで縁遠い海鮮の旨味、それに絡まる白い油、美味いと叫ばずにはいられない。
しかし、それを食ってから余の体はおかしくなった。口の中に違和感がある。体中がブツブツとイボまみれになる。呼吸が苦しくなり、次第に出来なくなる。
ああ、そうか。これは極上の美味の代償に命を奪う毒であったのか。薄れていく意識の中で余はそう思った。
※ただの海老アレルギーです。
ドラゴンでもアレルギーがあるんじゃないかと思ったお話です。剣でも魔法でもなく、うっかり食べちゃったせいでやられるドラゴンってドジッ子に含まれますかね?