従者は悪役令嬢のフラグを折る為対策をする②
城内を入り財務官専用の談話室に向かう。
あの女性は危険だ。
今止めないと…まだ奥様が生きているうちに…!
「くそっ!」
城内の一般廊を急ぎ足で歩く。
王族、大臣達が通る廊と異なり一般廊は広くて遠回だ。
焦る気持ちが更に募る。
こんな大事な事を思い出すのが遅いなんて…。
胸が痛む。
この後、何が起きたか知っているからだ。
ブロッサム公爵の詳細プロフィールによると、ブロッサム公爵の妻が次女リリーを産んだ直後、病気が急激に悪化する。
そして、そこで医者から余命宣告をされた妻は絶望し嘆いた。
『旦那さまと子供2人を残して死にたくない!』
それを聞き入れたブロッサム公爵は各国の専門医師達を呼び寄せ妻の病気を診せたが、すべて絶望的だった。
旦那様は最愛の奥様の望みを叶えられず呆然とする。
そして絶望する奥様をみていられなくなり、領地に帰らず沢山の人が出入りする王都で手段を探していた。
その結果、一つだけ方法が見つかった。
亡き夫代わり外交職に携わっていた一人の貴婦人が、旦那様に奥様の病気を治す薬があるという。
それに食いついた旦那様は貴婦人に薬を貰うための交換条件として、貴婦人に国家の機密書類を渡して何とか薬を得た。
だがその薬は徐々に死に至る毒薬。
それを与えて奥様は亡くなってしまった。
旦那様は絶望した。
そんな旦那様を更に絶望へと突き落と事が起きる。
取引をした貴婦人に『自分を後妻にしなければ機密情報を漏らしたことをばらす』と脅されることになった。
そしてその女は後妻になっても更に旦那様に要求し続ける。
結果、旦那様は国を裏切る破目になったのだ。
女を取り押さえなければいけない。
だけど旦那様が機密書類を持っていることを他人に知られてはいけない。
取り渡し前に何とかしないと…!
談話室が見えた。
もうすでに旦那様と婦人が中にいる。
ドアノブに手をかけたが当然鍵がかかって開かない。
「旦那様、カムです。開けてください!」
ドアを力いっぱいに叩く。
内側から鍵を開ける音がした。
「…カム…どうしてお前がこんなところにいる。」
静かに怒り満ちた顔の旦那様が出てきた。
「…旦那様…申します。火急に旦那様に御用がありましたので参りました。」
「急ぎ?ならばさっさと言え。」
いつも冷静で穏やかな旦那様が珍しく苛立っていた。
「…内密な話なので部屋の中で話をさせて頂きます。失礼します。」
旦那様の許可なく部屋に入り込む。
「お…おい!」
焦って俺を止める旦那様を無視して中に入り例の婦人がいるのを確認した。
婦人はこちらを軽く睨むように見つめる。
「お初にお目にかかります。セリス・クリスリー子爵夫人。」
名前を呼ばれて婦人は目を張った。
「カム…なぜ彼女の名前を?」
旦那様も驚いていた。
「…旦那様、もう機密書類は渡してしまいましたか?」
振り返り問いただすと、旦那さまは青褪める。
手に書類らしきものが無い。婦人の方を見ると片手は扇子を持ち、もう片手は見えない様に後ろにまわした。そこからチラッと封筒らしきものが見える。
すでに遅し、か…。
でもまだ間に合う。
「クリスリー夫人、その書類を返却願います。大事な書類なので。」
書類を渡す様に促す。
女性は顔を歪め俺達を睨み付けた。
「あら、公爵様…随分な仕打ちね?わたくしを嵌めるために従者を使うなんて。」
「ちが…カム、違うんだ。あれは…か、金だ!」
旦那様は必死に訴える。
分かっている…旦那様は薬を貰う為に敢えて誤魔化そうとしている。
「旦那様、彼女から貰う薬は病気を治す薬では有りません。その逆で毒薬なんです。」
「え…何だって!?」
旦那様が驚く。
「はい。それは隣国の闇市場で手に入れる事が出来る毒薬です。それを飲めば発作が起こしやすくなり最後は死に至る。」
病気と見せかけて殺す事が出来る薬など、闇社会では普通に出回っている品物だ。
この国では危険薬は全て厳しく取り締まる為、中々目にする事はない。
だけど外交を携わっている婦人は入手するには容易いだろう。
「…何の話かしら?」
シラを切る婦人。
でも表情からは焦りを感じている様だ。
「クリスリー夫人。その手に持っている書類を素直に渡して頂ければ、私は衛兵に突き出すことは致しません。その代わり外交官を辞めて頂きますが、大人しく領地で過ごして頂ける様に手配は致しましょう。」
此方も脅す様に婦人をみつめる。
そんな時、婦人は可笑しそうに笑い声をあげた。
「ふふっ…アハハ!!馬鹿じゃないの?わたしを突き出す?面白いじゃないっ。良いわよ、やってごらんなさいな?でもその前に捕まるのはアンタ達よ!」
婦人は狂った様に笑う。
何をするのか分からないためこちらも警戒する。
「この国政財務の書類。なんで外交官秘書であるわたしが持っているのかしら?財務大臣だけが管理している書類よね?持ち出しちゃ駄目よね!?こんなの、手を離して捨ててしまえばわたくしが持っていたとは分からないでしょう?」
婦人は床に書類を落とし踏みつけた。
「これでアンタが持っていた事になるし、薬も知らないって言えば通るわ。証拠がないんだし、薬はアンタが持ってきたのでしょう!?」
意味のない屁理屈をならべる婦人。
こうなったら強制的に奪い取るしかない。
捕まえようとしたら婦人はドレスの内側から小さなナイフをとり振り回した。
婦人は突然ナイフで着ている服を乱す。
「あとね。こんな場所で男2人と女1人。わたしが叫べはどうなるのかしらね?アハッ。やってみようかしら?」
襲っているのは俺達。
この人は無茶苦茶だ。
でも旦那様の名誉を守る為には阻止しなければ!
止めようとする瞬間、突然ドアが開いた。
何事かと振り返ってみると、そこには息を切らしたロザリアお嬢様…とルーベルト王子殿下。
何で王子がここに!?
お読み頂きありがとうございます。
ご都合的で矛盾が多いと思います。




