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12歳の悪役令嬢は振り回される

あぁ…絵本に出てくる王子様にそっくり…


蜂蜜色した黄金の髪、女性に近い抽象的な容貌。

そして空の色した瞳は慈悲深さをあらわす様に優しい。


いかにも争い事を好まない優しい王子様。


わたくしは王妃様が挨拶している中、ずっとルーベルト殿下を見つめていた。


気付けば王妃の挨拶も終わりお茶会が始まる。


さっそくとルーベルト殿下の周りには令嬢達が集まった。


負けずにルーベルト殿下の元に行こうと動いたら、わたくしの前を遮るように目の前にカムが立ちはだかる。


「邪魔よ、カム。」


睨みつけて言うと、カムは爽やかに微笑む。


「お嬢様。せっかくですから、庭園を見回りながら色んな方と交流しましょう?」


「何を言っているのよ。他の人なんて後よ、後。今日のお茶会の趣旨は分かっているでしょ?わたくしは王子殿下に選ばれなきゃ意味ないのよ。」


そう、わたくしは王子妃となる存在。

今、王子と親睦を深めなくてどうするの?

余所の交流は二の次だわ。


「いいえ。公爵令嬢として、皆様に挨拶回りも大切でございます。子供とはいえ、いつかは公爵家を継ぐお嬢様だからこそ、礼儀をもって普段から縁のある家やこれから縁になる家のご子息、ご息女の方々と知り合い交流することが、ブロッサム家を更に繁栄に繋がります。それに…。」


カムがわたくしの耳に近づき、小さく言った。


「今、我先にと肉食獣みたいにアピールするお嬢様たちがいる中でアピールするよりも、少し離れて淑女らしく優雅に皆様と交流してから、後で王妃様や王子様たちに挨拶したほうが目に留めてもらいやすいですよ?」


悪い笑顔のカムに疑問に思いつつ再びの王子殿下へ視線を向けると、王子の周りにはこの会場にいる令嬢達がいるのではないかと思える程、王子狙いの女…。


確かにあれだけ居ると誰だか分からない。


わたくしなら全員撥ね退けることが出来るが、王子様達に好印象どころか逆に悪印象になりそうでアピールにならない…。


「…分かったわ。」


一番にアピールが出来ない事に少々腹立つが、王子様にわたくしの印象を良くするためにも公爵令嬢として挨拶する事にした。


顔見知りの子息子女のもとへ歩く。


後ろでカムが「とりあえず最初の危機は回避した…」と安心したように一息ついていた。


でもわたくしはそれに気づかなかった。



・・・・・



それから…



挨拶周りもだいぶ落ち着いたころ、わたくしの所に一人の令嬢が近づいてきた。



「御機嫌よう。レディ、ブロッサム。」


金色で刺繍されている濃紺のドレスを摘まみ、優雅に淑女の礼をとる少し大人びた令嬢。


顔を上げ美しく深緑の瞳を優しげに細めて微笑む


その立ち姿はとても美しい。


絹の様な銀の髪、着飾る装飾、濃紺のドレスが彼女を美しく引き立てる。


彼女の圧に怖気そうになるが、わたくしも負けずに淑女の礼をとる。


「ご機嫌よう、レディ、ヴァンデル。」


彼女はレティシア、ヴァンデル公爵令嬢。


父、ブロッサム公爵と同じ王家の血を引いているヴァンテル公爵は、今も外務大臣として活躍している。


ブロッサム公爵家よりもヴァンテル公爵家の方が歴史は長く、わたくしの家よりちょっと格上…いいえ、同等の権力がある。


ブロッサム家だってお爺様はこの国の凄い人だったのだから、ヴァンテル家に引け取らない!


気持ちを強く持って対応したのに、彼女は楽しそうに小さく笑う。


「ふふふっ…そんな堅苦しい言い方は嫌だわ?レティシアと呼んで下さいな。」


彼女は口元を扇子当てて上品に微笑む。

わたくしよりも一つ年上だけあって、仕草が上品で完璧…悔しい…。


「では名前で呼ばせて頂きますわ。レティシア様もわたくしの事をロザリアとお呼び下さい。」


「ええロザリア、そうするわ。」


レティシア様は急に態度を変える。

堅苦しい言い方をやめて、わたくしの事を呼び捨て。


でも彼女は同じ公爵家で年上だから文句は言えない。


挨拶も一段落した事だし、そろそろ本題ね。


「レティシア様ともあろう方が、王妃様たちの所に居ないでこんな所にいらっしゃるなんでどうかなさったのですか?」


この人はわたくしと同じ婚約者候補。

ライバルのわたくしの側に来るなんて嫌な予感しかしない。


「わたくしがここに居る理由?わたくしはロザリアを探していたのよ?」


「わ、わたくしを?なぜ?」


もう、驚きことばかり。

この人の思っている事は全く理解できないわ。


なのに、本人は優雅に頷いている。


「ええ、わたくし先程までブロッサム公爵とお話していましたの。ブロッサム公爵はご息女を探さしていたから、一緒に探していたのよ。でも探している途中にブロッサム公爵は文官に呼ばれて離れたから、わたくしが引き続き…あら、噂をすれば。」


レティシア様は何かを見つけ花が綻ぶように可愛らしく微笑んだ。


振り返ると遠くにお父様の姿がある。


「お父様!」


わたくしと同じ金色の髪をした男性がこちらに近づいてくる。

でも時期に40代の年齢に入るが、それでもまだ若く見えるお父様。


「やっと会えたな。ロージィ、元気にしていたか?」


久しぶりに会える父に顔が緩む。


「ええ、変わりはないわ。でもお父様が全然家に帰ってこないからずっと心配していたのよ?カムからお父様のこと聞いているけど寂しいわ。」



文句を言うと、父は嬉しそうに頭を撫でた。


「いつもすまないな。 ロージィ、今日のお前はとても素敵だよ。そのドレスがよく似合う。」



父に装いを褒められて更に上機嫌になる。

でも父はすぐにわたくしから視線を外して何かを探した。


「…リリーは来てないのか?」


父の嬉しそうな顔から真顔になる。


「…お母様の調子が悪いらしく、来られないと、手紙が来たわよ。」


「…そうか…。」


表情が硬い。こんな父は正直言って怖い。


父は怖がるわたくしに気が付いて気を取り直した。


「ところで可愛いお姫様。王妃殿下と王子殿下達へのご挨拶は終わったのか?」


「!!…それは…。」


父の質問に渋い顔になってしまう。


まだ王妃様や王太子様どころか、本命のルーベルト殿下に挨拶が出来てない。


隣には優雅に微笑んでいるレティシア様がいる。

この人は既に挨拶を終わらせたのだろう。


「…まだ終わっていませんわ。だって、挨拶をしたくても話せる状況ではないじゃない!」


面白くなくてプイっと顔を背ける。


今も大勢の子女たちが王子に押し寄せている。


後からゆっくり話せるかと思いきや、全然人が引かなくて思うようにいかない。


イライラが募るわたくしに、レティシア様が予想外の事を口に開く。


「ロザリアもまだなの?よかった。実はわたくしもまだ殿下達のご挨拶がまだしていないの。」


「…え?」


驚いた。


だって有力候補のレティシア様がまだ挨拶に行ってないなんて有り得ない。


それも堅苦しい事が大好きなヴァンデル公爵家の娘よ?

典型的な行事をいつも率先して行うじゃない。


でもレティシア様は何ともなさそうに微笑んでいる。


「ええ。なにせあの人だかりでしょう?本来なら公爵家の娘として他の令嬢達より先にご挨拶するのがセオリーだけど、今回は子供達が参加するお茶会だから順番など気にしなくてもいいと思ったの。」


義兄と従者に挨拶廻りを頼み、呑気に庭園の花々を見まわっていたレティシア様。


なんていう余裕。


公爵令嬢として王子の婚約者に選ばれなきゃいけないプレッシャーの中なのに、自由過ぎる。

これは既に彼女が選ばれたという事だろうか?


そう思うと、胸が苦しくなった。



「ロザリアも同じで嬉しいわ。…そうだわ!今からわたくしと一緒に行きましょう?」


まさかのお誘い。


これはわたくしに見せつける為?


凄く動揺する。


「え…一緒に?」


彼女と一緒に挨拶なんて、行きたくない。


それこそ周りに比べられるじゃない。絶対に嫌。


「いえっわたくしは遠慮…」

「それはいい。レティシア嬢、よければ我が娘と一緒に行っていただけるかな?」


断ろうとしたところ、父が急に話の中に割込みレティシア様に願った。


「お父様!?」


わたくしがヴァンテル令嬢を苦手だと知っているのに信じられない!


父はわたくしのことを気にしてくれない。


「聞いてくれロージィ。レティシア嬢はルーベルト殿下の婚約者候補を既に辞退しているのだよ。」


「…え?」


ええ!?

でも、確かヴァンデル公爵は一人娘のレティシア様を王家に嫁がせたい為だけに養子を取ったという噂だ。


そのレティシア様が辞退していると?


本当なの?と思いながらレティシア様を見つめてしまった。


わたくし見てレティシア様は微笑む。


「ええ。わたくしは外務官なりたくて、お茶会の前日に辞退の申し出をしたの。本日、国王陛下に許可を頂きましたわ。遠縁のよしみで赦してくださいましたわ。」


そう言いながらレティシア様は苦笑する。


確かにレティシア様は国王陛下の親戚にあたる。

だからとはいえ臣下の娘が自分の要望の為に辞退するなど本来は難しい。


驚くことばかりで唖然する中、一人の文官が父に声をかけた。


「お話しの中、失礼します。ブロッサム財務大臣にお客様がお見えです。」


「お客?今日はもう来客はいないはずだが?」


「はい。急を要するそうだと…あちらでお待ちになっています。」


文官が指す方にそこには後ろ姿だか一人の婦人がいた。


婦人の姿をみるなり、父は身体を震わせる。


お父様?…知り合いなの?


婦人を覗こうとすると、父はわたくしに婦人を見せたくないのか前に出てわたくしの視界を塞ぐ。


これでは来客の顔がわかならない。


「お父様、お知り合いなの?」


父に問うと、父は暗い表情して黙る。


「私の仕事のお客だ。ロージィ、すまないが私は少し仕事に行ってくる。」


お父様は来客がいる方へ向かった。



お読み頂きありがとうございます。

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