表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/156

悪役令嬢は複雑な気持ちを抱く

時は少しだけ遡る。


「わたくしもルーベルト王子殿下を支え皆様と共にこの国に尽くしてまいりますので、何卒ご支援ご鞭撻のほどよろしくお願いしますわ。」


一礼すると周りから拍手が響く。


ふぅ、無事挨拶が出来たわ。

ついつい心の中で大きなため息を吐く。


こんな大勢で挨拶するのは初めてではないけど、雰囲気が全然違う。

大人の仲間入りする淑女としての礼儀・作法は子供騙しではいけない。


次期王子妃となる者として皆の前に立つ


周りの反応からみると取り敢えず及第点かしら?


「ロザリア、行くよ。」


ルーベルト様は手を差し出す。

次はわたくしたちのダンスをお披露目だ。


わたくしはルーベルト様に微笑み手を取って踊る為に中央に向かった。


一曲目のファーストダンス。


曲に合わせて殿下のリードを崩すことなく踊る。


「結構踊れるね?流石は公爵家のご令嬢だ。」


「ふふっ。この日の為に沢山練習しましたから。」


ルーベルト様の問いに満面の笑みをみせて答える。


そうでしょうとも。この一年間、いつもの講師がよりスパルタになってほぼ毎回ダメ出しをもらっていたもの。

これで上手でなければおかしい。


得意げにターンを決める。

そんな時、沢山の貴族が見守っている中でカムたちを見つけた。


皆が優しくわたくしを見守っている。


何故だか嬉しい。


ルーベルト様もカムたちに気づいて優しく微笑む。


「ロザリアはあの人たちが大切なんだね?」


「ええ。わたくしの大切な人たちだわ。」


笑顔で応えるとルーベルト殿下は静かに目を閉じた。


「…ならいい。」


一曲目が静かに終わった。


わたくし達は貴族たちに一礼すると盛大に拍手が鳴り響く。

ダンスも成功して胸を撫でおろした。


そしてすぐに次の曲が流れて今度は貴族たちが踊りだす。


「ロザリア、今度は来賓たちの挨拶があるから。」


「はい。分かりましたわ。」


王座の間まで行くと他国の来賓たちが挨拶にきた。

ルーベルト様と一緒に挨拶を行う。


そして挨拶を続けて少しの時間が経ち、立ち替わり来る来客が途切れた。

ふとダンス会場とした広間をみると、わたくしが良く知る人たちが踊っていた。


『珍しい、カムが踊っている…え?』


カムの相手に驚く。

エスコートしていたリリーではなく、まさかの相手。


「…なぜ?」


レティシア・ヴァンデル公爵令嬢だ。


カムと踊る彼女の姿に頭が混乱する


…どうして…?


なんでレティシア様と踊っているの?


踊る二人はとても美しい。

きっとこの会場にいる誰よりも輝いている。


…美男美女であるカムとレティシア様は二人揃うととてもお似合いで…。


カムはダンスが苦手だと言って普段から誘っても踊らない。


なのに、どうしてレティシア様と踊っているの?


わたくしとは全然踊ってくれないのに…


ズキズキと胸が痛んで苦しくなる。


そんな時、カムがわたくしを見た。


「っ!?」


急いで目を逸らす。


「ロザリア?」


「な、何でもありませんわ。」


怪訝な顔をするルーベルト様に微笑んで誤魔化す。

こんな時に余所見なんてはしたないわ。


丁度良く次の来賓が祝辞に来てわたくし達は挨拶をする。



でもわたくしの頭の中はカムとレティシア様が楽しそうに踊っている姿が離れない。


何故こんなに心が苦しい?


ただカムがレティシア様と踊っているだけなのに…


どうして気になるの?



笑顔で祝辞を聞いていても心が落ち着かなかった。


殆どの挨拶が終えた頃、ルーベルト様がわたくしに手を差し出す。


「ロザリア、少し席を外そうか?」


「…え?」


わたくしの返事を待たずにルーベルト様は国王陛下達に声を掛けた。

そして許可を貰いわたくしを何処かに連れて行こうとする。


主役がこの場にいないのは不味いのでは?


「ルーベルト様、わたくし大丈夫ですわ!」


だから…


「何かあったか知らないけど、そんな顔で挨拶されても困る。」


ルーベルト様はわたくしに厳しい目を向けて一蹴する。


言われるままにわたくしはルーベルト様についていった。



・・・・・



侍女に上着を貰ってバルコニーに出ると冬の夜の所為か風が冷たい。


でもそれが気持ち良い。


少なくても荒れた心が治まる気がした。


お城の部屋の中は華やかで温かくて賑やかだが、外に出るとまるで別世界みたいに静かで孤独を感じる。


「落ち着いた?」


ルーベルト様がわたくしを覗き込む。


先程の厳しい表情ではなく、わたくしを心配している温かい表情。


不思議に落ち着いた。


「落ち着きましたわ。…有難うございます。」


「そう。」


ルーベルト殿下はただ頷いて庭に視線を向けた。

わたくしも同じ様に庭を眺める。


なんと言うのか…ルーベルト様は不思議な人だ。


冷たい様に見えても、冷たくなりきれていない。

でもどこか空虚な雰囲気を持っている。

そう、まるでフィルターの外側から眺めている人のよう。


『…転生者…。』


殿下がカムと同じ存在なら納得できる。


…今、それを聞いてみてもいいのだろうか?


でも近くにに護衛のマリオット様とマリアン様がいる。

わたくし達の行動をみて後を付いてきたのだわ。


それでも…知りたい。


「ルーベルト様は…どうしてわたくしを気にしてくれるのですか?」


「…。」


遠回しに聞くわたくしにルーベルト様は黙ったまま。


もしかして意味が伝わっていない?


だから続ける。


「貴方はわたくしの事を知っているのでしょう?だから今まで助けてくれた。…貴方は転生…」


「前にも話をしたことあるけど、僕は聞いたことしか知らない。」


殿下はわたくしの言葉を遮りハッキリと否定した。


妙な空気になる。


それはお父様の元に向かう時に言っていたこと?


聞いたという事は物語を知っている事には違いない。


「…聞いたって、一体誰からなのですか?」


「…。」


ルーベルト様はまた沈黙する。

言いたくないのかもしれないけど、わたくしは引かない。


「殿下。」


少し強めに問いかけたら、殿下の目がわたくしを映す。


「…それを答える前に君に聞きたい。王家のお茶会時、君は当初ブロッサム公爵が取引をしていた事を知らなかったようだ。だけど、君の従者がその事を事前に知っていた様だね?カルフェン・クラベル、彼はいったい何者なの?」


「…え?」


逆に問われて混乱する。


父の事件時、確かにわたくしはカムから何も聞かされておらず成り行きのままだった。


でも今か気になるのはカムの事だ。


カルフェン?誰なの?…その名前は聞いたことない。でも私の従者でクラベル家の姓はカムだけ。


「カルフェンとはカムの事ですか?」


ルーベルト様は頷く。


そう言えば前にシリウスも言っていたわね…愛称かと…。

わたくしはカムの事をカム・クラベルと紹介された。周りの人だって同じだ。


…カムはどうして真名を変えているの?


また胸が痛くなる。

でも殿下の質問にまだ答えていない。


「カムは…何者とかそんな大それた人ではありません。その…なんていうのか…たまたまお茶会の前に頭をぶつけて…色々思い出しただけで…その…」


説明に言葉を濁してしまう。


改めると転生者と言えない…。


もし殿下が転生者では無かったら、カムがおかしい人に見られるかもしれない。


「…それ以上は言わなくていい。それで分かるから…。彼はきっとあのと同じなんだね。」


わたくしの曖昧な答えにルーベルト様は納得する。


でもわたくしは全然分からない。


「先ほどの君の質問に回答させてもらうよ。僕は君と同じ…僕も彼女に君の事を聞いている。」


わたくしと同じ?

それに彼女とは一体誰?


「彼女というのは?」


殿下に聞こうとしたら、突然一人の女性がバルコニーに出てきた。


振り返るとピンク色のドレスを着た14歳~15歳ぐらいの少女。

少女は殿下を見ると急ぎ足で此方に向かってくる。


「そこで止まりなさい。」


いち早くマリアン様が立ちふさがり少女に牽制を掛ける。


「マリアン様お願いです!ルーベルト様とお話しさせてください!」


「成りません。下がりなさい。」


「ルーベルト様ぁ!どうしてその女と婚約するのですか?その女は貴方に相応しくないわ!」


少女は話を聞かずマリアン様を振り切ろうとするが当然拘束される。


でもなお少女は喚き抵抗する。


「殿下の御前だぞ。静かにしろ!」


マリオット様は今でも抵抗する少女をマリアン様から受け取り力で抑える。

男の力では敵わないと分かったのか、ようやく少女は大人しくなった。


「衛兵、連れて行きなさい。」


マリアン様の命令に衛兵は従い少女を連れて行った。


一体何が起きたのだろうか?


「ルーベルト様、ロザリア様、折角の時間ですが、そろそろ中に戻りましょう?」


「そうだね。」


マリアン様が促すとルーベルト様が頷く。

そして再びわたくしに振り向いた。


「邪魔が入った…先ほどの話はこの会が終わったら話そう?」


「わ、分かりましたわ…。」


ルーベルト様に頷き部屋に戻ろうとすると再び誰かがバルコニーに入ってきた。

今度はよく知っている相手…


「お嬢様ご無事でしたか!?」


「カム?」


慌てたカムにわたくしは驚く。


「お嬢様が無事なら良かった…。」


わたくしをみてカムは胸を撫でおろした。


「…一体どうしたの?」


「いえ、先ほど怪しいお嬢様がお嬢様たちを探していた様なので、嫌な予感がしたのです。何もなくて安心しました。」


カムはわたくし達の身の危険があるのではないかと心配していた様だ。


…どうして先ほど捕まった少女がわたくしたちを探していた事をカムが知っているの?


疑問に思った時、突如マリオット様が前に出た。


「貴様、先程の女の協力者か!?」


マリオット様がカムを捕まえようして動くとマリアン様がそれを制する。


「リオ、彼はロザリア様の従者です。彼女と関係ありません。」


「この男は今の出来事に気づいていたのだぞ?仲間に決まっている!」


またマリオット様はマリアン様に怒鳴る。

その様子にマリアン様は冷淡な眼差しを向けながら大きくため息をついた。


「貴方はこのやり取りを見て正確な判断が出来ないのですか?愚かな…。」


「煩い!お前こそよく私的を挟む癖に、よく護衛騎士が務まるな?」


二人がいがみ合う。

どうしてそうなるの?


「二人ともやめてくれないか?」


ルーベルト様が止めると、マリオット様はまるで子供みたいにそっぽを向き出した。


マリアン様は立膝をついて頭を下げる。


「申し訳ありません。」


彼女の方が精神的に少し大人の様だ。


「マリオットの疑う気持ちも分からないわけではない。貴方は何故ご令嬢が僕達を探していると知っていたのですか?」


ルーベルト様がカムに質問するとカムはハッと気づき殿下に礼を取る。


「はい。私がダンスの中でみた彼女は、明らかに様子がおかしいように見えました」


カムが殿下達に経緯を説明した。


成程、彼女はわたくし達が貴賓たちの相手する時からあの娘が近くで見ていたのか…。


王家の為に限られた数とはいえ多くの貴族が集まるパーティーだが、この様なパーティーでも貴族の掟があり貴族達の配置が決まっている。

当然、挨拶以外で王座近くに居る貴族は大体顔見知りだ。


王座の近くに貴族の決まりを弁えない娘がいれば確かに不審と思えるわね…、


「彼女を追って様子を伺っていたところ、彼女は兵のいない部屋から殿下達がいるバルコニーに忍び込んでいましたので、お嬢様達の身の危険と思いここに参りました。」


随分大胆だけど、誰も彼女が忍び込んでいる事に気づかなかったようだ。

小柄な娘だから?


カムも見程知らずの娘に気づけたのはレティシア様が教えてくれたお陰だそうだ。


「…。」


カムの口からレティシア様の名が出るとモヤモヤした気分が心を支配する。


カムたちが仲良く踊る姿を思い出して…


「余計な事しないで頂戴!別にたかが従者である貴方に心配して貰わなくても結構だわ。護衛がいますし、貴方は必要なくてよ!!」


つい、わたくしはカムに怒鳴ってしまった。


「…お嬢様…?」


カムが驚く。


「…っ。」


カムの目とわたくしの目が合う、だけど見ていられなくてすぐ顔を逸らして視線から逃げた。


「有難う…だけど心配はいらない。その者は何かをする前に捕らえられたから問題ないよ。貴方の行動は分かった。…まだパーティーは続いているから楽しんでほしい。」


わたくしとカムのやり取りを静かに見守っていたルーベルト様は下がる様にいうとカムは頷く。


「…はい。突然申し訳ありませんでした。…失礼します。」


そう言ってカムは去っていった。


カムの声が落ち込んでいる様に聞こえて、わたくしの心が苦しくなる。


「…それで良かったの?」


「…。」


ルーベルト様の質問に答えられない。

カムはわたくしの事を心配して来てくれたのは分かる。


…でも今はカムの顔が見られない。


「取り敢えず戻ろう?」


ルーベルト様に頷き、わたくし達は王の座へ戻った。


お読みいただき有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ