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悪役令嬢は物珍しさに興奮する

早朝。


「おはようございます。ロザリアお嬢様、ナージャ様、お支度は終わりましたか?」


カムが玄関の前で待機していた。


「おはよう、もちろんよ。」

「おはようございます。こちらも大丈夫ですわ。」


私たちをみてカムが満足そうに微笑んだ。

そして丁度良くシリウス様の馬車が到着した。


「皆さん、おはようございます。」


「おはようございます。シリウス様。」


ナージャはシリウスの顔を見ると途端に花が綻ぶ様な満面な笑みになる。


「まぁ!ナージャったら、王子様が来るとそんな甘い顔するのね?可愛いわぁ?」


揶揄うとナージャは顔を赤くして湯気を出している。


本当に可愛いわね?


するとシリウスがわたくしにニッコリとわざとらしい微笑みを向ける。


「ロザリア、朝からナージャを虐めないでくださいね?いくらルーが構ってくれないからって、ナージャを僻むのはお門違いですよ?」


うん。朝から嫌味全開である。


「ほほほっ、ご心配なく。わたくしたちの間に寂しいなんて、そんな感情を持つほど暇ではありませんわ?」


確かにルーベルト様は美形で好み。

だから会うまで憧れていた。

でも婚約してみたらどうだ?


憧れの人と婚約出来て嬉しい!…など、夢見る乙女にならなかった。

カムから乙女ゲームの話を聞いているからそう思えるかもしれない。

それに普段カムと一緒といて何かと賑やかだから寂しくない。


恋心を持つほど関わる事もなく、婚約者と言う名だけが独り歩きしている状態に不思議に何も思わないのはおかしいのかもしれないけど、そもそも会わない相手に寂しく想うなんて普通無いでしょう?


「そうですか?ルーは貴女の事を気にしているようでしたが…まぁ僕には関係ありませんね。さぁ、兄さんが待っていますので、まずは牧場から一番近い街に行きますよ。」


シリウスに促されてわたくし達は馬車に乗った。



・・・・・


長い道のりの中、ようやく馬車を止める。


馬車から降りるとそこは大きな街の中だ。


「まぁ結構人が多いわ。この街は栄えているのね?」


この領地は緑豊かで小さな町とか集落や農園が多い。

でもここはどこよりも大きい街だ。


「はい。ここはカレントス領で最も栄えているところです。ここは異国民の商人が唯一店を構えられるところなので、珍しいものが沢山観えて楽しいですよ?」



ここは国で唯一、多くの異国商人が集い商売する街だとナージャが説明してくれる。


国中でもこういう場所はカレントス領とフェロミア領だけ。

とても珍しい街らしい。


確かにブロッサム領と違う街並みと賑やかさ。

品行良く華やかと言うよりも、市井が開く祭りの様な感じだ。


「すごい!見たことがないものが沢山あるわ?あそこに売っているのってあれ何かしら?木の飾りみたいだけど綺麗!みて?建物の前で何か焼いているわよ?」


見ていてとても楽しい!


「…お嬢様。」


カムが頭を抱えた。


「やはりお子様令嬢ですね?」


その隣でシリウスが呆れたように言うと、ナージャがおかしそうに笑う。


「もう何よ?あっ、みて?馬車の荷台に檻がある。カーテンで隠されているけど檻の中には何がいるのかしら?犬?…いえ、狼だわ。こんな街にあんな大きな狼を連れていても大丈夫なの?」


「…大きい狼?」


みんなが檻の中の狼に注目するが、荷主が周りの視線に気づいてカーテンを閉めた。

そしてそのまま場を離れてしまった。


ああっ!?狼を見るのは珍しいのに…。


しょんぼりと肩を落とした。


「はいはいロザリア。兄が待っていますのでそろそろ行きますよ?」


シリウスに促される。

こいつに仕切られるのは癪だけど、仕方なく従った。

でもカムが付いて来ない。


「カム、行くわよ?」


「…。」


「カム?」


カムはずっと狼が乗った荷車を見ていた。


「ねぇ、カムったら…」


「お嬢様、先に行ってくれませんか?」


カムは真剣な目をしてわたくしに振り返る。


「え?…いいけど、カムは?」


「俺は少し調べたいことがありますので、先に行ってください。すぐに後で合流します。」


カムはそう言って、近くの店に入った。


よろず屋のようだが、何かあるのだろうか?


「どうしたのかしら?」


疑問に思ったが、既にナージャとシリウスが宿屋に入ったのでそのまま保留にした。



・・・・・


宿屋に入ると色んな人達が居て賑やかだった。


シリウスはカウンターにいる宿の主人と話し合う。


「お待たせしました。兄のお部屋に行きましょう。」


三人で二階にある客部屋へ移動する。

そしてレイドリック様が泊っている部屋の前に立った。


「兄さん来たよ。」


シリウスが扉にノックをしたら扉が開いた。


「シリウス、ナージャ、よく来たね?」


部屋の中からレイドリック様が出てきてにっこりと微笑む。


王城や葬儀に会った時と違う装い。

レイドリック様はマントを羽織り、平民みたいなジャケットとズボン、皮靴を身につけている。

まるで旅人の様。


「…え?なぜここにロザリア嬢が?い、いえ、ご機嫌麗しゅうブロッサム嬢。」


レイドリック様はわたくしの顔みて驚き急いで取り繕うと挨拶をする。


「御機嫌よう、レイドリック様。」


驚く気持ちも分かるような気がするが取り敢えず挨拶をする。


「シリウス、これはどういう事なんだ?」


驚きのあまりレイドリック様は目が点になっている。


「ロザリアが牧場を見たことないというので連れてきたのです。」


シリウスがわたくし達が友達となった事を軽く説明した。


「公爵令嬢が牧場へ行くなんて…本気ですか?」


わたくしに恐る恐る確認するレイドリック様に満面な笑みで応える。


「ええ、わたくしは社会勉強として参りましたの。」


「社会勉強と聞こえはいいですが、実際は子供みたいにあれこれ見たいだけですよ?」


シリウスはやれやれと両手を肩のあたりまで上げ首を振った。


「何か仰って?シリウス。」


「事実でしょう?」


笑顔で応えるシリウスにこめかみに青筋が立つ。


その様子をみてレイドリック様は楽しそうに笑った。


「…確かに殿下から聞く話と違う。」


わたくしを見てレイドリック様は一人納得していた。


一体、何の話かしら?

殿下と言っていたけど、ルーベルト様と面識などあまりないのに…


「そんな嫌な顔しないでください。特に気にする事ではありません。」


「…余計に気になるわよ?」


笑って誤魔化すレイドリック様。

やはりシリウス様の兄という事は間違いないわ。


「ふふふ、楽しいですね。」


3人のやり取りを楽しそうに笑うナージャ。


「そろそろここを出ましょうか?…でもカムさんはまだ来ないですね?」


そういえばまだカムは来ない。

どうしたのかしら?


「シリウス。その、話があるんだ…。」


レイドリック様が言い辛そうにシリウスに振り向く。


「なんですか?…もしかして僕達の事情をロザリアが知っているかと言う話でしたら問題ないですよ?彼女達は既に知っている様なので、特別僕から詳しく話しておりません。」


シリウスの言い方に何か引っかかる。

だが、レイドリック様の言いたいことは違うらしく首を振る。


「そうじゃない。って、ブロッサム嬢が僕達の事情を知っている!?なぜ…いや、それは取り敢えず後にして、実は僕も一人連れがいるんだ。連絡しなくてごめん。」


「え?兄さんの他にも誰かいるのですか?」


シリウスが驚く。


「それは…今買い物に出かけていて、もうすぐ帰ってくると思うんだけど…。」


…あれ?

ナージャ、シリウス、レイドリック、3人だけで牧場に行く話だとカムから聞いているけど?


どういう事?


「実は殿下に…」


「只今戻りました。」


レイドリック様が説明を続けようとした時に女性の声が届く。

目を向けるとそこにいたのは…。


「弟君様が到着されたのですね?」


ニッコリ笑う女性に目を張る。


…どうして…


どうして…()()がここにいるの!?



「初めまして。私はマリアン・アンバーと申します。リアンとお呼びください。」


菫色の目を細めにっこりと微笑む彼女は、可愛らしいより大人っぽい。


肩下まで長いさらさらした金の髪を一つに紫のリボンでまとめ、男性の普段着の上に簡易な防具を身につけているのに凛とした佇まいは良い家の者だと分かる・


なんだか急にこの場の雰囲気が変わった。


悪役令嬢の一人であるマリアン・アンバーがここにいる。


驚きのあまり言葉が出ない。


だがわたくしが動揺しているのに、更に爆弾が落される。


「兄さんの恋人ですか?」


シリウスの爆弾発言にレイドリック様はずっこけた。


更に場の雰囲気が凍りついた。


シリウス…多分だけど…それ違うと思うわよ?




お読みいただきありがとうございます。


次はカム視点になります。

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