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悪役令嬢は友達を守りたい

こうしてわたくし達はシリウス様達と一緒にハワード領の牧場へ行くことになった。


帰るシリウス様をわたくし達は見送る。


「では明日お迎えに行きますので、支度を終わらせておいてください。」


「シリウス様、また明日。」


「ナージャ、また明日ね?」


見つめ合う二人は本当に仲が良い。


お互い親しい相手だから余計だろうか?

わたくしの場合、ルーベルト殿下とあまり親しくないから少し羨ましいかも…。


「いいわね…?」


「お嬢様、そのお気持ちは駄目です。破滅しますよ?」


カムは察して止める。


「分っているわよ。」


ただ政略的な婚約でも、心から慕える人と結ばれるならこれほど幸せな事はない。


それを羨む女心を石頭のカムにも分かってほしいわ。


「ふんっ。」


カムに背を向けると、視線のナージャの弟ナディルがいた。


それも隠れながらナージャとシリウスを睨みつける。


「…カム、見て?」


カムに小声で知らせる。


「あの子は?」


「ナージャの弟のナディルよ。でも…様子がおかしくない?」


睨むナディルはあの二人を歓迎していない様に見える。

そしてわたくし達が見ているのを気づかずにナディルはどこかに去っていった。


「…確かに様子がおかしいですね?」


「でしょ?さっき廊下で少し話をしたのだけど、やけに変だったのよ。…何かあるのかしら?」


ブロッサム家を取り得てカレントス家を盛り立てようとする発言は余りにも露骨だった。

この家も何かある気がする…。


その事を伝えるとカムは頷いた。


「様子をみるしかないですね。お嬢様も滞在中の発言には気を付けてください。」


「分かったわ。」


カムも何かを感じているから間違いなさそうだ。


「お待たせしました。部屋に戻りましょう?」


シリウスは帰り、ナージャは戻ってきた。



・・・・・


それから数時間後…



「ろ、露骨すぎるわ?…こんな馬鹿正直に…普通はあり得ない…。」


「それは…ごめんなさい…。」


申し訳なさそうに頭を下げるナージャ。


「ナージャは何も悪くないわ。ナージャ以外がおかしいのよ!」


「でも私もその血を引いています…。」


何故わたくしがここまで疲労しているというと。

その原因が夕餉。

カレントス家一族と食事が一緒だった為だ。


大事な客人がいる本邸に一家全員が揃うのは普通。

でもこれが強烈だった。


ナディルの露骨さなどが普通に思えるぐらいに…


「ロザリア嬢が我が家にいらしてくれるなんてもうカレントスは安泰ですよ。是非ブロッサム公爵様に私を紹介して頂きたい。こう見えて私は色々と出来ましてね…」


「ロザリア様は王妃様と仲がよしいのですか?わたくしもお会いしたいわ。是非、王妃様のお茶会にわたくしを呼んで貰えないかしら?」


「ロザリア様には妹君がいましたよね?僕にご紹介してほしいです!…婚約者がいる?大丈夫ですよ!公爵家の権力で婚約解消を言い渡せますから。僕の方が大切に出来ますよ?」


カレントス侯爵、カレントス夫人、次男坊と連続に注文が降り注ぎ、食事の味が全然分からなかった。


その場にいるナディルもまた廊下の時の様に露骨なお願いをすると思いきや…


「ロザリア様はハワード家をどう思いますか?」


「どうって、それはどういう意味なの?」


ハワード家(あそこ)は金に物を言わせて権力をふるう醜悪な一族です。知っていますか?女性を誑かして…」


「ナディル、黙りなさい!」


彼が話そうとするとカレントス侯爵に一括された。


そのせいで賑やかだった夕食が一気に暗くなる。


でもわたくしはナディルの言葉に頭が一杯だった。


『もしかして今の話はハワード侯爵の事?…もしそうなら、どうしてナディルがその話を知っているの?』


ハワード侯爵の恋人の事は、外に知られてはいけない事だ。

いくら婚約者の家だからって醜態を知らせるほどでもない。


ナディルとカレントス侯爵はハワード侯爵の秘密を知っている?


でもナージャは何の事か分からなそうに首を傾げている。

夫人も次男も同じ顔だ。


夕餉が終わり今もこうして二人でおしゃべりしているけど、何事も無かったように女の子らしい話題を振って盛り上げようとしている。


ハワード侯爵の事情を確認したくても、ナージャに聞いてはいけない気がするわ…。



だから違う事を聞いてみた。


「ねぇナージャ?どうして貴女の家は侯爵家なのに、公爵家わたくしを取り入ろうするのかしら?」


カレントス家は四大侯爵家であり大貴族だ。

こんな大胆な媚びは酷い。


「え?…それは…。」


ナージャは言い辛そうに俯く。


「あっ言いたくなかったら言わなくても良いわよ?少し気になっただけで…。」


不味いことを聞いたと思い慌てて言い直すと、ナージャは首を振る。


「…昔、お爺様が新しい事業の為に投資をしたのですが…それが上手くいかなくなったのです。それは私の父の代までしわ寄せが続いて…。」


カレントス家は元々生産領地。


広大な土地をもって色んな生産を行っていた。

それを更にナージャの祖父が儲けようと手を出したところ大きな負債をおったそうだ。


そしてそのまま赤字が続き、その借金は返せるどころか膨らむばかり。


「父は立て直す為に隣領のハワード家に融資をして頂くようお願いしました。その時、ハワード侯爵様は私をシリウス様と婚約させるなら融資するという条件を出したのです。父はその条件を呑み融資を受けることが出来ました。」


ハワード家とカレントス家の婚約によって、何とかカレントス家は経営を保つことが出るようになった。


めでたし…と思いきや、そうはいかない。


「私達の親族はこの事を反対したのです。大昔、ハワード家よりもカレントス家の方が身分は上だった為か、ハワード家に借りを作りたくないと父を責めました。父も親族に言いくるめられて代わりの融資者になる者を密かに探しているのです。」


成程、だから露骨にハワード家より権力があるブロッサム家のわたくしが現れたことによって擦り寄ろうとしているのか。


ナージャはこの件をみてハワード家に申し訳ないと感じているそうだ。


「私はシリウス様と婚約が出来たことに嬉しいです。祖父の負債で私の婚約は決められたけれど、それでもシリウス様は全て分かって私を守ると言って受け入れてくれました。…嬉しい…でも、その以上にシリウス様に申し訳ない気持ちがあります。」


シリウスにカレントス家の事情を含めて全てを受け入れて貰えて嬉しいはずなのに、ナージャは苦しそうな表情を見せる。


「ナージャ?」


「あ、いえ。それでも今シリウス様と一緒に居て幸せです。私もこれからもっと学んで、シリウス様の役に立ちたい。二人で両家を盛り立てて行きたいのです。…ただナディルはシリウス様を歓迎していません。きっと両親や親戚の影響ですね…、」


夕餉の時、ナディルがハワード家を悪く言ったのは大人たちの影響。


『あの時の様子だと、ナディルだけがハワード家を苦言していた気がする。』


そう思うとナージャたちの仲睦まじい姿をみて睨んでいた事も納得できた。


自分の姉がどんな理由であれ好きな人と婚約が出来て幸せと言っているのに…


でもこれは家族の問題。

他人が口を出していいものではない。


だからこれ以上暗くならないように明るい話を振った。


「しっかし、シリウスは幸せ者ねぇ…。ナージャはシリウスのどこを好きになったの?」


「え…ええっ!?そ、それは…どこが好きと言うよりも、とても素敵な人です!すごく私に優しくしてくれて…。あと、とても格好いいです。絵本に出てくる王子のように…」


「まあ!人の顔みて爆笑する失礼な男だと思っていたけど、ナージャには全然違うのね?やっぱり好きな子だからかしら?」


「えええっ!?」


茶化すと顔を真っ赤にして慌てるナージャ。

とても可愛らしい。


「意地悪を言ってごめんなさいね?でも少し羨ましい。ねえ、初めからナージャにあんな感じだったの?」


「う“…私が6歳の時に初めてシリウス様と出会いましたが、その時から彼はとても優しかったです。私、もう一目ぼれしてしまって…初恋でした。」


ナージャがシリウスとハワード家で出会った事を教えてくれる。


冷たい周囲の視線の中、シリウスだけがカレントス家に優しく接してくれた。

不安がるナージャの手を取り、大人達から逃げて屋敷を案内したそうだ。


その時からずっとシリウスはナージャを大事にしている。


乙女ゲームの話だと、二人がこの先、婚約破棄になるというのに。


話を聞いている内に守りたい気持ちが強くなる。


何とかして止めないと…。


カムが言ったわ。

二人が婚約を続ければ、フラグは折れるって…。

そしてシリウスの兄、レイドリック様だって救えるかもしれない。


その為にはやらなければならない事がある。



※※※


夕餉に向かう前。


「お嬢様。」


ナージャと食堂に向う時、カムに呼び止められた。


ナージャに廊下で待ってもらい、カムの元へ行く。

カムは小さな声で話し出した。


「実はシリウス様とナージャ様、レイドリック様が揃う日が二人の婚約解消なる発端が起こります。…恐らく明日に行く牧場の事かもしれません。」


「え!?どうしてそんなことが分かるの?」


ここに来て事件があるなんて…偶然には出来過ぎている。


「レイドリック様はハワード領地に入ることを禁じられています。それを了承も得ずに無断で行くことは余程の事しかありません。ゲームの話ではシリウス様が傷を負った事によって領地に入った事がバレてしまいます。そしてレイドリック様はその後…。」


カムは言葉を詰まらせる。


「な、なんなのよ…?」


カムは暗い表情で爆弾を落とす。



「レイドリック様は殺されてしまいます。」



※※※



レイドリック様が殺される…。


今ナージャの幸せそうな話を聞いているのに、心の中では複雑な気分になった


何故、領地を入っただけでその様な仕打ち…それも血の繋がった息子。


過去に色々あったとはいえ、彼は何も罪はない。


このままほかっておくとシリウスはゲームのシリウスみたいになってしまう。


「シリウス様はレイチェルの初めてのお散歩に苦戦したのです。あの時はとてもシリウス様が可愛かったの。」


ナージャの楽しそうに笑う声がわたくしを現実へ戻した。


ついつい考え込んでしまった。

でもそんなに時間が立っていない事にホッとする。


楽しそうに話をするナージャはどこまでハワード家の事情を知っているのだろう?


もし…カムが言う様に明日事件が起きると言うなら、ナージャは二人の事で苦しむのではないだろうか?


そう思うととても切なく思えた。



「さぁ、明日も早いですし寝ましょう?」



二人で話している内に夜も更けてきた。


「そうね。もう休みましょう?」


話を切り上げ、わたくし達は休むことにした。


「おやすみ、ナージャ。」


「はい。おやすみなさい、ロザリア。」



明日、もし事件があるなら…わたくしが二人を守るわ。


わたくしは目を瞑りながら決心した。


誤字報告有難う御座います。



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