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悪役令嬢は真相を知る

まさか、もう1人の攻略対象者であるシリウス・ハワードに会うなんて…。


彼から事の真相を聞くために応接室ではなく食堂へ向かった。


何故食堂になったのか?


それはもちろん。

夕餉の時間を過ぎていたから。


大テーブルにわたくし、カム、リリーが並び、反対席にシリウス様、グレン様と並んで食事を取る。


何故カムが隣に座っているのかというと、カムはお父様の代理人だ。


あの後、心労で発作が起きたお母様をお父様が看病している。

父も真相を知りたがっていたが、お母様を1人にさせたくないらしく母の傍に居る事を望んだ。

そしてカムに代役を任せた。


きっと母と話したいのだろう。

ずっと離れていたから、夫婦でゆっくり話す時間も必要である。



食事を終え目の前の男を盗み見すると、視線を感じた彼はにっこりと微笑んだ。


濃紺の髪を耳まで伸ばし一部の毛先は寝癖の様に外に跳ねている。

金色の眼は優しそうだが油断すれば絡めとられて動けないような感覚に捕らわれる。


表面を笑顔で取り作り、感情を読ませない曲者。


「僕まで食事をありがとうございます。ふぅ…まさかこんな遅くに連絡係としてこき使われると思っていませんでしたので、このまま夕飯抜きで終わるかと思いましたよ?」


シリウス様は困った顔をしたまま口元をナフキンで拭いた。


「…それは大変ご迷惑をお掛けましたわ。」


「来て頂き本当にありがとうございます。」


姉妹で謝罪する。


随分と棘のある言い方をすること!?


心の中で呟くと、何故かシリウス様はとても良い笑顔でわたくしに向いた。


「いえいえ、友人の大切な姫君を助ける為です。お気になさらずに…ではどこから話をしましょう?でも事件は解決しましたから、正直話は必要でしょうか?」


爽やかな笑顔が癪に障る。


話をする為にここに来たのでしょうが!


そう言いかけたが、先にカムが苦笑しながら否定する。


「ブロッサム公爵様の命令なので、詳細を話して頂けますか?」


作り笑顔を消したシリウス様はカムに視線を向ける。


「貴方は確かクラベル伯爵の者ですね?」


「そうです。カムと申します。」


「クラベル家のカム…次男の方ですか?…あれ?そのような名前と違うと思いましたが、愛称ではないのですか?」


この男はどういうつもりよ?


真相を話すのではなくカムに質問している。

それもカムの名前を疑って…。



シリウス様の質問にカムは一旦沈黙したが、急に妙な笑顔を作って微笑んだ。


「いいえ。私はカムと申します。私の事はいいので話をして頂けないでしょうか?」


その笑顔は少し怖かった。

シリウス様も納得するしかない。


「…分かりました。では、話しましょう。結論から先に言わせて頂きますと、リリー嬢がみた公爵は確かに偽者でした。公爵に変装したのは公爵夫人の従兄弟です。」


やはり父ではなかった。

安堵するも疑問に思う。なぜ他人なのにリリーは父と思い込んだのだろう?


その答えはすぐにシリウス様が答えてくれる。


「彼は巷の人気劇団員なので変装及び声真似が得意の様です。実際に僕も劇団に足を運んだ時に彼を見たことがありますが、見事な演技達者でしたよ?」


貴族だけど、劇団員として活躍。

それなら納得だわ。


「夫人の従弟だと、どうやってわかったのですか?」


「入城履歴に彼の名前が入っていました。その日は王都の劇場に彼の劇団が入っていましたので、わざわざ挨拶しに来たのでしょう。」


有名な劇団なら王城に呼ばれることがある。

でも基本、劇団は下級貴族・市井の民達で構成されている為に王族の面会はない。

でも城には多くの上級貴族がいる為、上客を作る良いチャンス。

必ず言っていい程、劇団員たちは宣伝しに来るそうだ。


「当時対応したのはレゼット外交官と数人の文官たち。挨拶時に彼はレゼット男爵夫人と親しそうに談話していたと文官達が話していました。あと、挨拶後に何故か彼だけ迷子になったと証言を頂いています。」


これはまたベターな言い訳だわ。


「わざわざ陛下と大臣たちが他国の追悼式に出ているときを狙っていたのでしょうが、余りにもお馬鹿さんです。こういう不在時こそ足を取れる証拠が沢山集まるのに…ね?」


シリウス様も呆れている様だ。


カムは続いて質問する。


「どうしてリリーお嬢様に見せるだけで、ここまでしたのでしょう?」


「それはリリー嬢が一番公爵夫人の信用を持っていて、まだ子供で簡単に騙せれるからでしょう。夫人はリリー嬢とフレッド・キャンベルだけ自分の傍に置いていたそうなので、目的を叶えるなら十分に利用が出来る。」


「目的…それは奥様の財産という事ですか?」


「ええ。レゼット男爵夫人と共謀していた公爵夫人の従兄弟は、ブロッサム公爵家がもつありとあらゆる地位と財産が欲しかったようですから。特に従兄弟は公爵夫人に邪な思いをお持ちの様ですよ?」


シリウス様は淡々と語った。


従弟の実家は子爵とはいえほぼ名前だけの貴族ということ。

それも家を継ぐ長兄がいて、彼は爵位を持てず市井に下る事が決定していたそうだ。


彼は昔、爵位が欲しくてフェロー伯爵の一人娘であるディジーと結婚することを夢見ていたが、ブロッサム公爵が彼女を見初め二人が結婚した事によって従弟の夢が終わった。


でも爵位を持つことを諦められず、彼はフェロー伯爵に養子にしてほしいと申し出た。

しかし、フェロー伯爵はフェロー家が持つ財産をブロッサム公爵夫人に委ね跡取りを取らないと断言される。


彼には何一つ残されない。

彼はとても憤慨した。


そこでレゼット男爵夫人から誘われて共謀になる事を選んだようだ。


「先程逮捕されたメディ・メイデンは彼の恋人です。幼馴染だそうですよ?」


「‥‥。」


話を聞いて納得した。

従弟はフェロー家の財産をもらう為に、フレッドとメディを使ってお母様の財産後継人であるリリーの殺害を企んでいた。


お母様だけを亡きものにしても、夫と子供がいるから財産は渡らない。

でもブロッサム家が仲違いしている現在、お母様が生きているうちにリリーに譲るように言い、書類を書かかせる事が目的だったのだろう。

父とわたくしに母は怒っていたから、当然後継人は信用できる妹のみ。

妹に万が一起きた場合は、親戚に寄付すればいいと唆して…。


その後リリーを亡き者にすれば自分に財産が手に入る。


「まあ後は取り調べて分かると思いますが私からは以上です。」


シリウス様はグラスを取り軽く一口飲む。


「あの…フレッドは彼らに騙されていたのでは?」


リリーは期待するようにシリウス様に質問した。

だが、シリウス様の顔色は無情に冷たい。


「無理です。キャンベル伯爵の子息達も王城の入城偽証、毒の所有で十分罪があります。騙されていたとしても無罪にはなりません。」


きっぱりと否定されリリーは落ち込む。


「そうですか…。」


「でも死罪にはならないので、罪を償えばまた普通に生活ができますよ?…貴族には戻れませんが。」


確かに罪を犯したのだから無罪にはならない。でもまたいつか会える。

リリーも納得して頷いた。


「ではそろそろ失礼します。兄が待っていますので、グレンも戻るでしょう?」


シリウス様が席を立つとグレン様も同時に席を立つ。


「シリウスは先に戻ってくれ。…リリー、少しいい?」



「え…はい。」


グレン様に促されてリリーは彼と共に食堂を出て行った。


「しかし…お姫様の事になると彼は変わりますね?…そう言うところも彼にそっくりのようで…」


シリウス様が呆れている中、わたくしはある事を思い出した。


リリーとグレン様が婚約したら、リリーは断罪される…。


「カム、不味いわ!リリーを止めないと!」


「お、お嬢様?落ち着いてく…」



カムの話を聞かずに、わたくしはリリーのもとへ向かった。




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