悪役令嬢は解決する為に動く
途中でカム視点が有ります。
「リリー?」
リリーは震えていた。
「…じゃあ何故手紙に当主しか押せない公爵家の封蝋が押されていたの?それでお父様じゃないと言えるのですか?」
確かにそうね?
公爵家の封印の型は公爵であるお父様だけだ。
公爵家の印は大貴族の中でもとても複雑に出来ている。
簡単に真似して作れない。
「リリーお嬢様、ブロッサム家の封蝋については旦那様以外にもう一人だけ持っている方がいます。」
「…お母様と言いたいのですか?」
リリーはカムに睨みつける。
領主の代行人であるお母様なら同じ封蝋を持っている。ということはお母様の自作自演?
「ちょっと、カムそれは無理よ。今のお母様はほとんど部屋から出られないのよ?どうやって毒薬を得るの?」
母の病気はかなり悪化しており、殆ど部屋で過ごすしかない。
だからその線はない。
そこまで弱っている母を見たくなくて、わたくしは逃げていたのだけど…。
「勿論違いますよ。ディジー奥様ではなくもう一人いるでしょう?奥様の補佐をしている執事長、フレッド・キャンベル氏です。彼なら出来るでしょう?」
なる程、彼なら手紙も工作できるし毒だって忍ばせられる。
だが、リリーはそうじゃない。
「フレッドに出来ないわ!封蝋の型は鍵付きの小箱に保管して誰も触れずお母様だけが使用しています。フレッドはお母様の代わりに領民の声を聞いてまとめているだけ…私もお手伝いをしているから間違いありません!」
リリーはフレッドの無実を声にあげて訴える。
「確証はまだ持てませんがただ彼が一番怪しいのです。だから調べてみましょう?」
「フレッドは誰よりも一番お母様を心配しているの!…お母様の事を叶わない恋だから守りたいって…私に話してくれて…。」
あくまでフレッドじゃないとリリーは訴える。
でも、それは逆にフレッドが怪しく感じてしかたない。
誰もがそう思った瞬間、リリーは静かにグレン様から離れる。
「…。」
「リリー?」
グレン様の問いにリリーは何も言わず、駆け出し部屋を出てしまった。
「リリー…。」
妹が居なくなって場が静かになる。
「リリーからキャンベル氏は父親の代わりの様なものと聞きています。彼を疑えというのも酷でしょう?」
グレン様は深く息を吐いてカウチに座った。
「グレン様はリリーお嬢様からこの話を聞かされていましたか?」
カムの質問にグレン様は否定する。
「ここにはあまり来られないから手紙のやりとりをしているけど、リリーはこの事を一切俺に話してくれていません」
あら、随分面白くなさそうな表情。
「そうですか。…グレン様はこの件をどう思いますか?」
カムはそれでも構わず質問を続ける。
「貴方の言うとおり、毒薬の贈り主は公爵ではない。ルーベルトの話だと公爵と夫人が直接面会したのはたった2回、話を持ち掛けた時と薬を渡す時のみだけだったそうです。あとは手紙のやりとりだけで、そこで毒の話はなかった。」
グレン様は父とレゼット男爵夫人の取り調べに立ち会っていたそうだ。
どうりで詳しい訳だわ。
「夫人もあの毒を公爵に持ってきただけと必死に刑の軽減を願っていましたから偽りはないでしょう。あの薬は危険薬の中でも死罪になるほどのものですから、そう簡単に入手が出来ない物のうえ、多くの者に配れば確実に足を取られる。」
「では奥様が持っている薬はそれと別ものと考えた方が宜しいですね?」
「その薬を調べないと分かりません。ですが、彼女と今回の事を結びつけると全く関係ないとは言えないでしょうか?とはいえ、毒の贈り主は彼女ではない。」
お父様が毒を送っていないことは確実なのね?
でも不思議。
彼はわたくしと同じ12歳。
ルーベルト様はとにかく、彼がここまで関与しているなんて思いもよらない。
「ねえ、どうしてそんなに貴方は詳しいの?側近だからって関与しすぎじゃない?」
公衛大臣なら分かる。
でもその息子は大臣でもなく只の側近。
側近だとしてもそこまで事情に足をツッコめるほど権力はない。
わたくしの疑問にグレン様は意地悪そうに微笑む。
「リリーの婚約者として当然でしょう?将来は関わる家なのですから…お義姉様?」
なっ、馬鹿にして!!
そして最後の言葉はいらない!
憤慨するわたくしを無視してグレン様は話を続ける。
「父から前に、キャンベル家は当主と長男の浪費で傾いていると聞いたことがあります。もしそれが事実ならキャンベル氏の動機も考えられるでしょう。」
「成程、動機としては濃厚ですね?流石はマーカス家の情報網です。」
カムの感心にグレン様は面白くなさそうに顔を背けた。
でも、この内容にわたくしはまだ理解できていない。
「どういうことなの?」
勝手に話を進めないでほしい。
「お嬢様、もしかしたら今回の件で奥様のわだかまりを解いてあげられるかもしれません。」
「それ本当なの?」
突然の展開に驚く。
でもこれは朗報だわ?
「はい、奥様が持っている旦那様の手紙が何より証拠になります。その偽装の手紙を手に入れて旦那様の潔白を証明できれば奥様の旦那様へのわだかまりが解けると思います。」
お父様にその手紙をみせて事実無根だと証明してもらえればお母様の誤解は解ける!
でも…まって?
「お母様はお父様の話を聞いてくれるかしら?」
聞く耳を持たないお母さま。
これが一番難しいかもしれない。
「確かに今の奥様は旦那様の話を聞きません。お嬢様が代わっても難しいでしょう。…でもリリーお嬢様ならどうでしょうか?キャンベル氏の以外に奥様にとって一番近くそばにいるリリーお嬢様なら奥様は話を聞いてくれるかもしれません。」
そうね…わたくしでは確かに信用してもらえないかも知れない。少し悲しいけど事実だわ。
でもお母様が誤解を解ければきっとやり直せる。
その為にはリリーに協力して貰わなければいけない。
「じゃあリリーに協力してもらいましょう?」
「ですが、今のリリーお嬢様がどこまで信じてくれるか…。」
カムが暗い顔をする。
そんなに心配しないで?
一緒に暮らしていた頃、あの子は流れ星に『家族で仲良く暮らせます様に』と必死にお願いしていた。
あの子はお父様を心から憎んでいない。
「大丈夫よ?わたくしが説得しに行ってくる!」
後はよろしくね?と言って、リリーを追いかけに駆けだした。
「お嬢様、まだ話が…!」
もう既にわたくしは部屋に出ていてカムの言葉が聞こえなかった。
・・・・・
「まだ話の途中でしょうが…。」
お嬢様の行動に肩を落としてしまう。
「彼女は猪ですね?」
「否定はしませんが、お嬢様の前で言わないでくださいね?」
これをお嬢様が聞いたら、烈火の如く怒り出して手が付けられない。
「…本当に解決するのでしょうか?」
流石はヒーローの一人である。
ルーベルト殿下もそうだが、子供ながら大人負けの冷静さだ。
「はい。まず手紙に奥様を貶す事が書かれていると言っていましたが、旦那様の定期的に出す手紙はその様なことは書かれていません。旦那様が奥様にどんな話題を書こうと悩んでよく俺に相談されていましたから。」
この財務大臣補佐である俺が証人になる。
だから別の人が手紙をすり替えて送っていたのだろう。
「毒薬もそうです。公爵家の封蝋を使えば、誰だって旦那様だと思いますからね。」
「誰にも触れないものだからこそ…か、随分単純明快な事だ。」
グレン様は呆れているけど、そういう物があるからこそ世間の信頼を強めるのですよ?
とりあえず今は置いときましょうか?
「王城の件は俺の憶測ですと、敢えてリリーお嬢様に見せることで信憑性を高めるために行われたと思います。」
城にいる旦那様の様子を見せて偽りを信じさせる。
だけど王城、例え理由があっても身分証明を行わず入るなど絶対に有り得ない。
正式な手続きもせずに令嬢が入城した場合、必ず家に連絡が来て咎められる。
「なのにリリーお嬢様が入城したと連絡は一度もありません。すると考えられるのはキャンベル氏が意図的にリリーお嬢様を変装させて入城したのでしょう。」
リリー様はロザリアお嬢様と同じ容姿は恵まれていて可憐な美少女だ。
あの容姿で誰も気づかないなんて有り得ない。
だからフレッド・キャンベルが余計に怪しく感じる。
「気になるのは偽旦那様です。リリーお嬢様を信じさせるために行われたといってもかなり手が込んでいます。とりあえずキャンベル氏の兄達を調べてみる必要がありますね?後は証拠の手紙をどうにかして入手できれば…。」
手紙が無ければ話が進まない。これをどうにかしないと…。
「…なら早い方が良さそうですね?」
「グレン様はどちらに?」
談話室から出ようとするグレン様は顔だけ振り返る。
「今にも討伐に向かおうとする猪がいますので、早いうちに裏を取った方が宜しいかと。ある者に頼めば早く解決できると思いますので、今から王都に向かいます。」
「え?」
まさか協力してくれる?
「勘違いしないでください。俺はリリーの為にやっているだけです。」
…今まで忘れていました。彼はヤンデレ担当でしたね?
見送ろうと思ったらグレン様はまた立ち止まる。
そして…
「…リリーには幸せに笑っていて欲しい…。」
そう呟き、彼は部屋を後にした。
「…。」
ゲーム内の酷く病んでいるような彼だと思えないほど、やさしい表情をみた気がした。
お読み頂きありがとうございます。
この事件も矛盾が多いと思いますがフワッと流して頂ければ…。
攻略対象者たちは子供でも大人より優秀なんです。
だってゲームのヒーローですから…。
※因みにブロッサム公の話になりますが、前の王妃様が見た女性はレゼット夫人ではなく、レゼット夫人の使いの者です。手紙を渡していたところを目撃されたっと言う設定です。余談でした。




