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悪役令嬢はヤンデレと対峙する

そして今こうしてグレン・マーカスと対峙するとは…。


「リリー、遅くなってごめんね?」


リリーは抱きついたまま首だけを横に振る。


「ちょっと姉妹の会話に口挟まないで下さる?まずリリー、その男から離れなさい!」


注意をしてもリリーは動かない。

代わりにグレン様が答える。


「…その男とは、公爵家の令嬢とあろう者が随分な挨拶をする。しかも第二王子殿下の婚約者だというに誉れる程の品位が無いようだ。」


わたくしに対する侮辱。

聞き捨てならないわ?


「はぁっ?それはこっちのセリフだわ。公爵令嬢のわたくしにその口のききよう、たかが侯爵家の息子の癖に礼儀がなってなくてよ?」


しかも堂々と他所の者が屋敷にいること自体おかしい。

品位がないのはどちらだ?


リリーはわたくしの言葉に反応し、顔を上げる。


「やめて下さい!お姉様こそ、お客様相手にその様な言い方は大変失礼です!」


「わたくしの方が立場は上よ、リリー?」


家の地位と王子の婚約者としての地位は、英雄の子息とはいえ一側近より格上。


「立場が上だろうと関係ありません!ましてや立場を利用して相手を抑えようなど…」


「リリー、大丈夫だから落ち着いて?」


リリーの言葉をグレン様が手で塞ぐ。

そして安心させる様に微笑んでから私に視線を向けた。


「確かに挨拶が遅れまして申し訳ありませんロザリア嬢。()はマーカス家のグレンと申します。今日はリリーの家族の方がみえるというので挨拶に参りました。私が無断でここに居るは、ブロッサム公爵夫人から出入りの自由の許可を頂いておるからです。」


礼を取るようにグレン様は頭を下げる。


「無論、発言も自由にしていいと許可を頂いています。…と言うより夫人からお願いされましたね?公爵様とご長女様がリリーを困らせるなら助力してほしいと。なので私は父に相談して王家に公認をもらったのです。相手が立場を利用してくなら容赦しなくていいと…。」



な…なによ…?


お母様の許可を取っているだけではなく、王家を味方するなど…


圧倒的にわたくしの分が悪い。


「そ、そう。ならもう十分に挨拶したのだからお帰りなって?今日は家族だけで過ごしたいので…特にわたくしはリリーに大事な話があるから貴方は邪魔だわ。」


こいつがいると嫌な予感しかない。とりあえずヤンデレ撃退!

だが次の彼のセリフで爆弾を落とされる。


「なら尚更リリーの側にいないと。リリーは私の婚約者になりますから家族として一緒に過ごすのは当然ですよね?」


「え?」


「何ですって!?」


姉妹で驚く。


こ‥こいつは何を言っているのかしら?

混乱している中、当の本人はリリーの髪の一束を掴めば自分の方に持っていき口付ける。


キザっ!本当にこの男は私と同じ年なの?


「リリー、ようやく婚約の許可を貰えたよ。後は君が認めてくれたら俺たちは晴れて婚約だ。」


「…婚約…グレン様と?」


婚約と聞いてリリーの顔は真っ赤になった。


不味いわ!?これはカムが言っていたリリーの断罪ルート。止めないと!!


「何を言っているのよ?リリー、絶対駄目よ。わたくしは認めないわ!」


リリーに考え直す様に言うと、グレン様は鋭い目をわたくしに向ける。


「貴女が認めなくても俺達の婚約は既に決定事項です。」


「今、リリーが認めたらって言ったわよね?なら決定じゃないわ。」


「リリーが嫌と言うとも?」


不敵に微笑む顔がムカつく!


「言わせるわよ!マーカス侯爵の複製(コピー)なんぞ…」


「お嬢様、ストッープ!」


複製(コピー)なんぞにリリーを渡してたまるものですか!』と言おうとしたら、突然カムが現れた。そして走って来てわたくしの前に立ちふさがる。


カム、いつの間に市井で流行っていた“ にんじゃ ”になったのよ?


「カム何で止めるの?って、いうより来るのが遅すぎるわよ!?」


そうよ。カムが「荷物整理を手伝ってから行きますので先に行ってください。」っていうから先行ったのに全然カムが来ないから今こんな事になっているよ?凄く心細かったじゃない!


ムカムカするから手をグーにして叩こうとしたらカムに止められた。


「遅くなり申し訳ありません…ですが、こちらも言わせていただきます。()()()()、必要のないドレスや装飾品を大量に荷馬車に積んだのでしょう?その()()で戻す為に結構時間が掛かりました。」


「……!?」


一瞬何を言われたかと思ったが直ぐにピンと来た。

何ですって!アリアに内緒で馬車に積ませた私物を戻してきたの?


「あれは全部必要なモノよ?何で勝手に置いてくるのよ!?」


わたくしの抗議にカムが眼を細める。


「だった3ヶ月間だけの滞在にクローゼットの物をほぼ全部持ってくる人がいますか?ただでさえ、いつも気に入った服しか着ず半分ぐらいは箪笥の肥やしになっているのに、それすらも持ってくるなんてお嬢様はアホですか?」


カムの嫌味が雷となり、わたくしの頭に落ちた。


このわたくしにアホですって!?


「何を!カムあんた従者のくせにっ」

「お…お姉様…。」


今からカムに立場を分からせようと叱咤する時に、邪魔をするなんて何よ?

妹に振り向くと恥ずかしそうにリリーが顔を両手で抑えていた。


「何よ、リリー!?」


「部屋に行きましょう?…今更ですが、此処では皆様が迷惑しています…。」


気づくと使用人達が集まり一斉にこちらを観ていた。


姉妹がお客と従者を巻き込んで喧嘩をしている。

さぞかし滑稽な光景(シーン)だろう。


この状況にかなり居たたまれない…。


「…ほ…ほほほっ。」


取り繕う様に扇子で口元を隠し優雅に微笑んでも逆効果だ。


とりあえず場所を変えよう。


移動の際、「正直、毒気が抜かれました。」とぼやく妹に、わたくしは「…よかったわね?」としか言い返せなかった。



お読み頂きありがとうございます。


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