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悪役令嬢は従者を信じる

領地編突入です。

わたくしがルーベルト様の婚約者になって数日が経った。


あれから禁止の毒を国に持ち入れたセリス・レゼット男爵婦人は死罪となり内々に処刑されたそうだ。

そしてお父様は処罰として3ヶ月謹慎処罰が下され表向きは療養として大臣職を休職することになる。


なんとかブロッサム家に大きな被害がなくて、わたくしとカムは一安心した。


あと、第2王子殿下の婚約者としてわたくしは王家より正式に公表されたので、今後将来の王子妃として勉強に励むのかと思えば…。



「ふぅ…こんなものかしら?」


お気に入りのアクセサリーやドレスを広げ持っていくものと持っていかないものを仕分けする。


「ねえアリア、これ全部持っていきたいのだけど大丈夫かしら?」


「お嬢様…これはほぼ全部ではないですか?向こうでもお嬢様の服は用意してありますので、そこまで持っていく必要はないかと…。」


アリアは持っていくほうのドレスの山をみて首を傾ける。


「だって全てわたくしのお気に入りよ。向こうで着るかも知れないでしょう?」


一着のドレスを持ってアリアにどれだけ大事か主張する。

でもアリアは頭痛そうに抑えるだけで肯定しない。


「そうですか、ではそちらのドレスは私達共で厳選して準備致します。お嬢様は明日に控えお身体を休めくださいませ。残りの準備は私にお任せを。」


この話は終了と言わんばかりに持ってかないほうのドレスを持ってアリアは部屋を出て行った。


「休めって言われても…どうしましょう?」


別に本邸に帰る訳で他人の家に行くわけではない。

でもあそこはタウンハウスであるこの家とは少し訳が違う。


明日からブロッサムの本邸がある領地に戻る。


本邸に帰るのは随分久々だ。

お父様は特にそう…


王妃様より家族の時間を大切にしなさいとお達しがあり、お父様は今回の件で改めてお母様と向き合うことを決意し領地に帰ることを決めた。


今まで一度も母の元へ帰ろうとしなかった父の決心にわたくしも支えたくて一緒について行くことになったのだけど…


「…どうなるかしら?」


複雑な心情に気分が重くなる。

すると…


「ロザリアお嬢様、カム様がお帰りになりました。」


別のメイドが部屋に入ってきて告げる。


「カムが帰ってきたの?本当に休みを取ってくれたのね?…良かった。」


カムの帰宅に安堵する。


カムも本来なら父の代わりに財務大臣の補佐として王都に残らなければならないが、彼はわたくしたちと共に領地に行くと言ってくれた。


請け負っている大事な仕事が出発ギリギリまでかかりそうだから、今日の昼までに何とか終わらせて来ると言って昨日からずっと仕事していたけど…間に合ったみたい。


「じゃあいつものところにカムを呼んで?わたくしも今から向かうから。」

メイドは頷いて部屋を後にする。


わたくしも時間かけずに部屋を出た。



・・・・・



「…はぁ…。」


向かい合わせでカウチに座りお茶をするが、カムはノートを見てため息つくばかり。


「ちょっとカム、何度目のため息よ?」


「…いえ…まさかお嬢様がルーベルト殿下の婚約者……強制力は半端ないですね…。」


何の強制力…?

またよく分からないわ。


「とりあえずこればかりはもう仕方ないので、次の対策を打たなければ…。」


カムは難しい顔で自分のこめかみにペンを当ててぼやく。

手に持つノートの表紙には『NO、断罪!』と大きく書かれていてとても気になる…何その言語?


「そのノートは何?」


「これですか?これは攻略ノートです。今自分が覚えている範囲で物語の内容を書いていますが、色々と抜けていますので完璧なものではないのですよ?」


こうりゃくノート?しかも物語の攻略…

でも何を書かれているのか興味がある。


「見せて?」

「嫌です。」



「…。」


雇主の娘に対してしれっと断る従者のこの態度‥どうなっているのかしら?


でもカムは意地悪しているわけではなく真剣だ。


「曖昧な記憶まま俺が対応してしまい、結果お嬢様を悲しませてしまった。…だからこそ出来るだけ思い出して対策を打たないと…。」


悲痛に呟くカムにわたくしの心は踊る。


こんなにわたくしの事を真剣に思ってくれているなんて…。


従者として主人たちを一番に考える。

内容はともかく頼もしい限りだ。


だが無情にもカムは爆弾を落とす。


「お嬢様の横暴で公爵家が破滅します。」


「…。」


…前・言・撤・回!


カムの?発言には怒りを覚える…でも今は少し違う。

わたくしにも一つ考えていることがある。



「…ねぇ、それ曖昧じゃダメなの?別に良いじゃない。」


「お嬢様、何を言っているのですか?」


カムが首を傾げる。


「だーかーら、カムはこの先、わたくしに何か起きるという事は知っているのでしょう?」


散々王子の婚約者になるな、と言っていたもの。


「…はい。記憶は曖昧ですが、この先に何が起きるかは大体分かると思います…お嬢様?」


不思議そうな顔でカムはわたくしを見つめる。

でもわたくしはおかしくなったわけじゃない。


「ならば分かるところから少しずつ解決すればいいわ。だから今の事を教えてよ?これからどうすればいいの?」


カムが真顔でこちらを見つめる。


「お嬢様…今更ですが…俺の話を信じますか?」


全部信じられると、言っていいものかまだ半信半疑だけど、カムは嘘を言う人ではない。

それをわたくしが一番よく知っている。


「まぁ…別に…カムの話を信じてあげてもよくってよ?…その話に付き合ってあげるわ。」


貴方はこの世で一番わたくしが信用している人だから。


わたくしの言葉にカムは驚く様に目を開き、やがて緩やかに微笑んだ。


「‥‥ありがとうございます、お嬢様。では、簡単ですが俺が知っている事を話しましょう?」


乙女ゲーム『癒姫』の話を…。




・・・・・


そして翌日。


領地に向けて馬車が揺れる。


何故かわたくしの気持ちは昨日よりもずっと重い。

恐らく原因は昨日のカムの話。


あの後、わたくしはカムの話に憤怒した。



※※※


「なっ…なぜ、わたくしが罰せられるわけ!?」


動揺するわたくしに対してカムは淡々と話を続ける。


「はい。お嬢様はヒロインを貶めようと悪さをするのです。」


「だからってどの流れもわたくしが必ず断罪されるのでしょう?おかしいわ!」


わたくしが一番の悪役?それもヒロインが王子以外の殿方を選んだとしても、わたくしだけは必ず断罪される…他の悪役令嬢と共に。


「第一、わたくしはそこまでルーベルト殿下の事も知らない。確かに麗しい方だと思っているけど、独占したいと思う訳ないわ?」


どれだけその物語は貴族社会を知らないのよ?

男を侍らせる女を懲らしめようとするなんて、馬鹿な頭しかいないでしょう?


「ゲームの初盤では、お嬢様はルーベルト殿下に一目惚れして迫っていましたが、それは過去に理由があって王子殿下に執着しているのだと妹が言っていました。お嬢様は何か覚えはありませんか?」


ええっ?そんな事言われても、ルーベルト様はお茶会で初めて会っただけ…。


「心当たり無いわ?」


「そうですか…。」


そんなに残念そうに言わないでよ?

別にルーベルト様に執着するようなものはないもの…。


「でも、この前の毒薬の件があって公爵家は断罪されると言っていたわね。もう解決したのだから心配は無いのではなくって?」


そう、元の元凶は既に掴まった。

お父様は悪に手を染めていない。


でもカムは考える様にノートを見る。


「確かにその道は無くなりました。…ですが、お嬢様は王子殿下の婚約者になっています。そして他にも攻略対象者がいて、もしヒロインが他の攻略対象者を選択した場合は他の悪役令嬢と一緒にお嬢様が断罪されてしまいます。」


他の悪役令嬢…。


「お嬢様の妹君であるリリーお嬢様も悪役令嬢の1人です。」


リリー…。


『 お姉さま 』


仔兎の様に可愛らしいが、とても気弱な妹。

一緒に暮らしていた時はよくわたくしの後をついてきた。


『お姉さまはどうしてお父様と行ってしまうの?お願い、行かないで!』


わたくしが王都に住む事を言った時に、泣きながら引き留めるリリー。

その時を思い出して心が痛んだ。


読んで頂きありがとうございます。

ようやくあらすじが回収できました。

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