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幕間 悪役令嬢の妹


ガシャーン!


一人の女性が荒い波の様な長く金の髪を大きく乱しながら、ベッドに備えている机の上の物を勢いよく払った。


食器が叩き落される。


「おっ奥様、お止め下さい!お身体に差し障ります!」


「うるさい!ごほっ、ゴホっ…もういいっ…さ…下がりなさい!」


婦人は咳込みながらも、寄り添うメイドに冷たく突き飛ばす。


突き飛ばされたメイドは去るように部屋を出た。


「う…何を…今更っ…ごほっ…ごぼっ!」


女性は誰もいない広い部屋で咳に苦しみながらも呪うような声で呟く。


すると1人の幼い少女が部屋に入ってきた。


「お母様…入ります。」


婦人と同じ金色の髪。

だが少女の場合、金色の髪はすらっと絹の様に真っ直ぐ腰まで伸びている。


瞳も婦人と同じ紅い色の瞳だが、目尻を釣り上がって強気な人柄を思わせるような目を持つ婦人と違い、か弱い子兎の様な可愛らしい紅い瞳が庇護欲をそそられる。


まるで高級人形と思える程の可憐な美少女。


病弱な婦人とどこか似ている。


婦人と少女は親子の様だ。


「けほっ…あぁ…リリー。」


母親は少女を見ると来るように手招いた。


リリーと呼ばれた少女は近寄りベッドの横に腰掛ける。

母親はリリーを捕まえる様に抱きしめ何度も咳込んだ。


少し落ちつけたのか、母は顔を上げリリーを見る。

その表情は暗い。


「リリー、聞いて頂戴。お父様があの子を連れて明日ここに帰ってくるそうよ?…ずっと帰ってこなかったあの人がね…ふふっ…何のつもりかしら?…ぐっ、ごほっごほっ」


母親は憎々しそうにベッドの上に乱雑された手紙をみた。

リリーも母と同じ複雑そうに顔を歪める。


「お父様が…どうして…?」


「…ふふっ…もしかしたら()()()かも知れないわ…忌々しいっ!」


枕元に置いてあるクッションを引っ張り叩きつけるように投げた。


リリーは母親が落ち着く様に背中をさする。


「お母様…お母様にはリリーが付いています。それに執事のフレッドもいるでしょう?」


それを聴いた母親は途端機嫌がよくなり少女の様な笑みを浮かべる。


「…そ…そうね?リリーは絶対にわたくしから離れないと約束したもの…フレッドもわたくしの味方だわ!」


「はい。私はお母様の元から離れる事はありません。…これからも…ずっと…。」


母を宥める少女の目に暗い影が映る。

でも娘から離れないと聞いて安堵したのか、母親は落ち着きを見せた。


「…そう言えばフレッドはどこにいるのかしら?」



「フレッドを呼んできます。それまでどうか無理をなさらないでください。」


リリーは落ちたクッションを戻し母に横になるよう促した。


「ふふっ、分かったわ。」



上機嫌な母親をみてリリーも安堵し、席を立ち母の部屋を後にした。


部屋を出たら母付きの侍女がいた。


恐らく母の癇癪が落ち着くまで待っていたのだろう。


子供任せで癪だが、母の癇癪は他人では止められない。


「メディ、お母様がフレッドを呼んでいます。あと部屋の片づけを。」


「畏まりました。」


メディと呼ばれた侍女は頭を下げ執事を呼びに向かった。


「リリーお嬢様。」


別に控えていたメイドがリリーを呼ぶ。


「グレン・マーカス様がお見えです。客間に通しておりますのでお越しくださいませ。」


「グレン様が?」


名前を聞いた途端、リリーは矢が放たれた様に急ぎ足で客室に向かった。



客室に辿り着くなり扉を乱暴に開き、カウチに腰掛ける黒髪の少年を見つけて嬉しそうに少年のもとに駆け寄る。


「グレン様!」


甘えるように彼に抱きつき自分の頭を彼の胸に頬を擦りつける。


「リリー、淑女としてはしたないよ?」


「あっ、ごめんなさい…。グレン様をみたらとても嬉しくって…。」


リリーは顔を離し申し訳なさそうにグレンを見上げた。

グレンの青藍色の瞳が優しそうに細める。


「また何かあった?」


「…。」


グレンは何かを察したのかリリーに問うと、その言葉にリリーの表情は硬くなり言葉を詰まらせる。


「リリー?」


グレンはリリーの顔を覗きこむ。

リリーは観念したように聞き取れるのが難しいぐらい小さな声で話し出した。


「…明日…お父様たちが、領地(ここ)に帰ってくるそうです…。」


リリーはそれだけ伝えて顔を伏せる。

その表情はとても喜んでいると思えない程、暗い。


「そうか…。」


「…。」


グレンはリリーを安心せるように髪を優しく撫でる。


「…リリー、大丈夫だよ?俺も明日は昼過ぎならこちらに来られると思うから、一緒にいてあげる。」


「…え…本当?」


リリーは顔をあげてグレンを見る。

その目は一縷の光を見たような驚きだ。


グレンはリリーが好む笑顔を見せる。


「うん。だから安心していいよ?」


「…嬉しい…。」


リリーは再びグレンの胸に抱きついた。


グレンはリリーを抱き締め囁くように彼女の耳に呟く。



「大丈夫。リリーは俺が守ってあげるから…」


「うん。」


リリーにとって端から見れば頼りになる兄の様なグレン。



だが…その目にはとても深い闇が宿っている…


次回からはロザリアの視点に戻ります。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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