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12歳の悪役令嬢は矜持よりも家族を選ぶ

「お…お嬢様とルーベルト殿下…どうしてここへ?」


カムが信じられないような顔でわたくし達を見ている。

お父様は突然の事に驚いていたが、殿下の顔をみると青褪めてしまった。


次に一緒にいる女に視線を移した瞬間、女は縋りつくようにルーベルト様の元へ駆け寄る。


「ルーベルト殿下、お助けください!この者たちがいきなり言い掛かりをつけてきてわたくしを乱暴しようとしたのです!」


女は縋る様に座り、ルーベルト様の足元に手をまわして身体を寄せつける

恐怖で立てないと、切ない目で訴えていた。


でもルーベルト様は氷の様に冷たく彼女を見ている。

彼女の言う話を信用していないようだ。


そんな中、カムが殿下の前に跪いた。


「ルーベルト殿下に申し上げます。その者はこの国で禁止されている毒薬を持ち入れた上、薬と偽ってブロッサム公爵閣下に機密情報を引き換えと脅して渡そうとしていました。」


え…毒薬?機密情報?どういうこと?


「一度は甘い言葉に騙されてしまいましたが、ブロッサム公爵閣下は危険と気づき彼女を捕らえる為に一役買ったのです。もちろん機密情報を持ち出したことは許されるわけありませんが、どうか寛大な処置を!」


「殿下、騙されてはいけません!!わたくしは何も知りませんわ。どうか嘘つき共を捕えさせてくださいませ!」


カムがお父様を庇う中、女は嘘だと殿下に訴える。


ルーベルト様は女とカムを交互にみると。小さく息を吐いて縋り付く女から離れる。


「…セリス・()()()()()()()()、貴女が闇市で毒薬を手に入れている事は既に調べがついています。」


セリスという女は殿下の言葉を聞いて固まった。


「貴女は隣国のクリスリー子爵と手続きなく結婚した事も、それを隠してレゼット男爵夫人のまま外交官をしていた事も全て知っております。…あともう一つありました。元夫であるレゼット男爵を貴女が殺害していますよね?」


ルーベルト様にやましい真実を挙げられた女は身体を震わせた。

態度は先ほどよりも弱弱しい。


「…な、なんの‥ことでしょう?わ‥わたくしにはさっぱりと分かりませんわ?」


ルーベルト様は先ほどよりもゾッとする冷ややかな視線で女を貫いた。


「ブロッサム公、彼女が渡したものを出してくれる?」


「は、はい。」


お父様は慌てながらルーベルト様に透明の液体が入った小さな瓶を渡す。


それをルーベルト様は受け取ると、自分のジャケットのポケットから何かを取り出した。


今受け取った瓶と同じ、透明の液体が入った瓶だ。


それは何かしら?


「ロザリア嬢、蓋を開けてくれる?」


ルーベルト様のポケットに入っていた瓶をもらう。


「え?は、はい。」


言われたとおりに蓋を開けルーベルト様に渡たすと、殿下はお父様から貰った毒薬の封を切りわたくしが持っている瓶の中に少しだけ入れた。


「貸して」

ルーベルト様はわたくしが持っていた瓶を取る。


そしてその瓶を軽く振った。

すると中の液体が透明から青紫色に変色する。


「‥‥これはね。毒かどうかを調べるためにある薬剤なんだ。透明の色から変色した場合は毒、変わらなければ毒ではない。」


成程、毒かどうかを調べたのね?


「液体の色によってどこの国で作られた(もの)だと教えてくれる。毒の成分は産地によって変わるからね。僕は昔から毒に縁がある為に大体の毒は分かるから、この毒かどこのものか答えは出ている。」


ルーベルト様は冷ややかに女を見ている。

もう確証があるようだ。


「し、知りませんわ!それは公爵がお持ちだったのですよ?」


まだ女は青ざめながら必死に言い訳をする。


「先ほども言いましたがレゼット男爵夫人。貴女が毒をこの国に持ち入れたことは既に知っています。無論、クリスリー子爵の事も調べました。彼は裏の売人だ。そしてその妻である貴女も…。」


ルーベルト様が徐に部屋の扉を開ける…するとそこには衛兵たちがいた。


「彼女を連れて行け」


衛兵に捕まえられて女はまだ自分は無実だと喚くが、聞き入れてもらえずそのまま連れて行かれた。


「…。」


彼女が居なくなった途端、部屋は静寂に包まれた。


時計の針だけがカチコチと聞こえる。


そんな沈黙の中、突然お父様が動いた。


「…ルーベルト殿下、この度は誠に申し訳ございません。」


悲痛な顔をしたお父様は殿下の前に跪いて頭を深く下げる。


「私は騙されていたとは言え国家機密を私的の為に利用しようとしました。当然裁かれる覚悟はできています。このまま陛下に私の罪を告げ大臣職及び爵位を返還して罪を償いたいと思います。」


「‥お父様……。」


そんなお父様の姿に心を痛める。


確かに国家機密は重罪だ。

罪を犯した以上、わたくし達は罪人となる。


父は私とカムにも頭を下げた。


「ロージィ…カム…本当に済まない…。」


突然の事で頭が回らない。

でも、父の謝罪より気になる事がある。


「お父様…私達はどうなるのです?…病弱なお母様は?リリーは?」


「…私はこのまま罪人として裁かれる。よってディジーとは離縁するつもりだ。ディジーの実家にブロッサム領地の医療地へ紹介状を送り、せめてそこで暮らしてもらえるように…。君とリリーは、母の実家か私の遠い親戚にお願いしようと思っている。」


責任は全て父が引き受け、わたくしたちは安全な所に…?

そんな…ことって…


「私の身勝手な行動で済まない。でも私を忘れてどうか三人で幸せになってくれ?」


『幸せに』なんて…何を…


打ちひしがれる父を見て哀しいはずなのに怒りが湧いてくる。


「馬鹿言わないで!!」


つい声を荒げてしまった。


「ロ、ロージィ…」


わたくしたちの気持ちを何だと思っているの?お父様が一人で勝手に気持ちを決めてそれをわたくし達に押し付けようとする。


一人で抱えないでよ?

その罪は家族を想ってしたのでしょう?


なら…わたくし達も同罪だわ!


「王妃様から聞きました。お父様はお母様の為に薬を手に入れようとしたのでしょう?

家族4人で暮らしたいって…。わたくし、それを聞いてどれだけ嬉しかったことか!それなのにお父様はどうして私たちと離れるの!?」


大切な家族と一緒に居たい。

これは小さい頃からずっと願っていた事だ。


家族のみんなが同じ気持ちだと知って、どれほど嬉しかったか分かる?


「確かにお父様は罪を犯しました。当然許されないって分かっていますわ。でも…でも家族がバラバラになる必要がないじゃない!お母様は今でもお父様を待っている。リリーだって、本当はお父様の事を憎んでいない…なのにお父様は勝手だわ。」


涙があふれる。


どうしていつもお父様は、わたくしたちから離れて一人で行ってしまうの?

でもわたくしはそんな勝手な父を尊敬していた。そして愛していた。

この気持ちはこの先、何があっても変わらない。


「ロザリア…」


父は力なく項垂れる。

顔が見えないけど、父の顔から透明な滴が落ちた。



お読み頂きありがとうございます。


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