2、知らない所で…
――side???――
「な!何なのこの力の波動は!?これは…神力!一体何が起こっているの!?」
「女神アルピナ様!只今邪龍王グラシャナンチャーラが封印されている地点にて異常な力を観測!」
「では邪龍王グラシャナンチャーラが!この様な馬鹿げた力で復活したとでも言うの!?」
「それは分かりません!今、偵察隊の天使たちを現地に向かわせております!」
「解り次第報告しなさい!」
「ハッ!」
私は女神アルピナ。
この世界、テラストリーを作り、管轄する最高神。
昨日までは平和な世界だったのですが…
今日は一体何が起こっているの?少し前にあった天空での異常観測も、今回の力の波動も…しかもこの力は間違いなく神力!私の持つ神力よりも遥かに強いじゃない!?
あの邪龍王グラシャナンチャーラがこの力を得て封印を解いたとでも言うの!?
今までだって封印が精一杯だったのに、この力を持って暴れられたら…世界の崩壊?ダメダメダメ!今までだって他世界の先輩神達に助言もらいながら上手く運営してきたのに!こんな事で終わりを迎えるなんて許せない!
あぁ…早く報告が来ないかしら…
「報告します!」
先ほど来た連絡役の天使が報告に来た。
「封印されし島の上空にあった巨大積乱雲が消滅しております!謎の力によって吹き飛ばされたかと!」
「なんですって!?」
あの積乱雲は私の認めた勇者以外はあの島に近づけぬよう、結構頑張って作ったのよ!
「空からの目視になりますが、島内に邪龍王グラシャナンチャーラのと思われる巨体を確認!偵察隊の中の先行部隊が確認しに島内への侵入を試みた所、謎の力により消滅!被害は中級下級天使合わせて十数名!」
な…なんて事なの……中級下級とはいえ私の生み出した天使達が近づいただけで消滅するなんて……
「それで!偵察隊は今どうしてるのですか!?」
「偵察隊は上空にて待機、目視にて警戒中であります!」
これは…私が出るしかないわね……この世界を守りたい!でも怖い!怖いよぉ……どうして私がこんな目に……
今にも泣きそうな目でふと正面を見ると、報告係を中心に、左右に知の女神ユーリス、技巧神モリス、師団長で上位天使のアファルとラファルが私を見つめ、言葉を待っていた。
そうだ!こうなったら皆道連れにしてやるわ!!!
「私が出ます!ユーリス!モリス!そして師団長アファルとラファルは一緒に出る準備をなさい!」
「「……ハイ……」」
「え~でもちょっと私行っても役に立たないし~」
「ふむ。確かにワシも力不足かのぉ?」
ちょ!ユーリスとモリス何ゴネてるのよ!?師団長2人も乗る気じゃなさそうだし!
「あなた達!何ビビッてんのよ!世界の危機なのよ!直ぐに動きなさい!!!」
「え~だって怖いモノは怖いし~。それにアルピナ様だってさっきまでビビッて涙目だったじゃな~い!」
「ほむ、そうじゃの。自分の事を棚に上げて儂等を臆病と?爺はアルピナ様のおしめを変えてた程の長い付き合いですのに悲しい限りじゃ……」
「ビビッて何が悪いのよ!私より強い力なんだししょーがないじゃない!爺のおしめ変えるくだりは全くもって関係無いでしょ!グタグダ言ってると、あなた達の好物のフルーツタルトと塩豆大福、100年禁止にするわよ!?」
「ひっど~い!お~ぼ~!職権らんよ~!」
「爺の楽しみを奪うとは……!女神から邪神に落ちましたな!」
「うっさーい!さっさと行けええええええええええ!!!」
ふん!2人まとめて回し蹴りで謁見の間から吹き飛ばしてやったわ!
「アファルとラファルは2人を10分後にゲートまで連れてきて。」
「……了解しましたっ!」
慌てて吹き飛ばされた2人を追う上位天使の2人。
ふう……島に行く前からこんなに疲れるなんて……ん?報告係。白でしたって何が?
――side勇者――
俺の名はケビン。勇者の称号を授かった男だ。
俺はこの国の南の端、何の特徴も無い辺鄙な村で生まれ、育った。
平凡な容姿の両親から、どうやったらこうなるのか?神の悪戯か?と思える程の容姿。
金髪碧眼イケメンであった。
子供の頃から何をやらせても1番であり、凡庸な両親、ロクな女も居ねぇ寂れた村に早々と見切りをつけていた。
だが16歳になって教会で神託の儀を受けないとジョブが決まらない為に、仕方なく村に残っていた。
暇で暇で狂いそうな村での生活。
まぁ暇すぎて何人かの女は頂いたがね。
俺と寝れるなんて感謝して欲しいくらいだぜ。
そして16の年、念願の神託の儀がやってきた。
他のガキ共が、やれ鍛冶屋だ、やれ農家だ、やれ戦士だと一喜一憂してやがる。
カス共がその程度で騒ぎやがって……俺はもっと上の職を引き当てる!俺様がショボい職であるはずない!
そして順番が来た。
神官に促され、静かにオーブに手を触れる……映し出された職は……勇者!!!
歓喜に打ち震える……やった!今この瞬間から俺の時代が始まる!
騒然とする教会内。人々が凄いとかやったなとか言ってくる。
が、当然の結果だ。だって俺様だからな!
その夜は村をあげての宴会となった。
ご馳走だ!と騒ぐガキ共を横目に、早々に腹を満たし、宴会を背に自宅に戻った。
俺様は勇者だ!何故村人なんかと一緒にメシを食わなければならない!
もう住む世界も、人としての格もお前等なんかと違うんだ!
翌朝、夜も明けきらぬ暗い時間に教会を訪れた俺様は、神官を叩き起こし、早々に王都に向けて村を発った。
両親や村人に挨拶?そんなもんはいらん。俺様は二度とこの村に戻る事は無いからな!
そして着いた大都会王都!
人も建物も雰囲気も、セピアにくすんだ村とは比べ物にならない程鮮やかだった。
この色鮮やかで華やかな人々が、俺様に歓声を上げ褒めたたえるのを想像するとゾクゾクするぜ!
真っ白で色とりどりのガラスがはめ込まれた巨大な大聖堂ってトコロで風呂に入って身を清める。
そして真新しい豪華な服に身を包み、これまた豪華な馬車に乗って王城へ向かう。
そして王城の一室で3人の女と出会う事となる。
長身で赤髪、美乳でクール系美女 剣聖ラーヴァナ
平均的な身長に金髪、メロンサイズの巨乳おっとり美女 聖女シルビア
小柄で銀髪、胸は小さいが勝気な美少女 賢者ビトーリア
ウヒョー!!!都会の女マジでいいぜ!たまんねーなぁ!!!
さっさと悪党ぶちのめしてコイツ等囲ってハーレム&贅沢三昧ってのもアリだな!!!
っと危ない!まだまだ時間はあるんだ。
欲望は奥底に仕舞って、紳士的に、爽やかに挨拶を交わす。
なんかコイツ等、握手で手を握ると赤くなるんだが、案外ちょろいかも?
王城の一室で、王への謁見と聖剣受領の儀の説明を受け、謁見のやり方やマナーなどを三日間みっちり叩き込まれた……メンドクセ……
そしてやってきた謁見当日。
白を基調とした煌びやかな服に身を包んだ俺を姿見で確認。チョーカッコエエ!
女三人衆は、赤、白、青の華やかなドレス姿。ムッハー!たまんねーなぁ!!!
城の女官に先導され、巨大な、豪華な扉の前に立つ。
「勇者様御一行の入場です!」
女官の声と共に扉がギギーっと音を立てて開く。
其処で見たのは、毛足の長い真っ赤な絨毯、正面の高い場所にある二脚の豪華な椅子、そして両サイドにならんだ甲冑姿の騎士達と豪華な衣服を纏った貴族の面々。
女官の後についてゆっくり進む俺達。
そして女官が止まったその場で片膝を着いて頭を垂れた。
「国王様ご入場!」
垂れた頭の先でごそごそと動く気配がする。
多分王族が席についたのだろう……まだ顔を上げる事が出来ない……チッ本当に面倒臭い。
恙なく進む式典。片膝もなかなかキツイな……
「勇者ケビン!面を上げよ!」
「ハッ!」
やっとかよ……頭を上げて見えたのは、椅子に座った髭のおっさん(王)ぽっちゃりおばさん(王妃)。おばさんの隣は王太子か?その隣は……
っ!あれが王女か!?いいじゃんいいじゃん!!!アイツ貰っておっさんの席に座るのも有りじゃね?
俺と目が合って赤くなった気がするぅ~!!!
その後、王様と2つ3つ言葉を交わして、いよいよ聖剣受領の儀だ。
王様が聖剣を台座から手に取り、俺に向かって一歩、また一歩と近づいてくる。
受け取った瞬間!俺様の伝説の始まりだああああああああ!!!
ドッガアアアアアアアアアアアアアアン!!!
「へぶぅ!?」
突然俺様の身体に襲う衝撃!そして悲鳴と鳴き声で騒然となる謁見の間。
まるで巨大な岩石に押しつぶされたような……
くっ……身体が動かねぇ……背後を確認しようと無理矢理首を動かすと、そこには巨大な金色の目と縦に割れた瞳孔が!
「ひっぃ!?」
「ド……ドラゴンだああああああ!!!」
「天井から降ってきたぞ!!!」
「王様達は無事か!?」
「このドラゴン頭しか無いぞ!?」
「勇者様が下敷きになってるぞおおお!!!」
「皆さん!落ち着いて避難してください!!!」
阿鼻叫喚ってこんな感じなんだな……つか誰か助けてくれ……もう下半身の感覚が無くなってきた……
せ……せっかくの俺様の……華々しいデビューが……
「だ……誰か……たすけ……」
俺様の意識は闇に包まれた……